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「ユ、ユーメリー様はなんの本を借りに来たんですか?」
「ああ…経済学を取っているんだけどね、参考になりそうな本をいくつか。エリクは?」
「僕は古の華の貴族を題材にした小説を…」
「へえ、私そういうの読んだことないの。有名なの?」
「発売されたばかりですし作者もそんなに有名では…、でもセントポーリアの花が主役になっているんです!」
「ええ?うち?盛り上がるのかしら…」
「何言ってるんですか、面白いですよ!僕、恋愛小説初めて読んだんですけど最近ずっと読んでて」
「えっ恋愛小説なの?」
「はい!」
キラキラの笑顔で大事そうに美少年が抱えている本が恋愛小説…。
「花の妖精のお話なんですけど。セントポーリアの女の子が、人間の男の子に恋をして魔女に頼んで今までの記憶を消す代わりに人間にさせてもらうんです。男の子は人間になった妖精を好きになるんですけど、妖精は男の子への気持ちも忘れてしまってて…」
「聞いてるとすごく面白そうね」
「読んでてもどかしくなるんです…両想いなのに気づけないという…」
眉をへの字にしているあたり、本当にもどかしく感じているんだろう。話の内容としては人魚姫みたいな感じかな?あれは原作だとバットエンドだけど一体どうなるんだろう。
というか、童話って基本的にバッドエンド多すぎる気がする。かちかち山なんて原作読ませたら子供泣いちゃうよ。シンデレラとかグロすぎてトラウマもんだし…。まぁ、内容を脚色しすぎて原作から離れすぎているのもどうかとは思うけど、童話ならもうちょっと穏やかな内容にしとけやと。
「私まで気になってきちゃった。終わりまで読んだら教えてね」
「もちろんです。終わりは大団円だといいんですけど、最近は悲恋ものが流行ってるので心配なんです…」
「そ、そうなの?ていうか、恋愛小説はあまり読まないのに流行りの終わり方は知っているの?」
「あ、うち劇団をやっているので。台本を読むのは好きなので実家から送ってもらうんですけど、脚本家の人たちって流行りをすごく気にするんです。それで最近は悲恋ものの物語ばっかりしかやってなくて…」
「……不安になるわね」
「どうして悲しく終わらせてしまうんでしょう…。劇を見に来てくれる女性の方も、劇中はすごく悲しそうに泣くのに舞台が終わると"最高のストーリーだったわ!"ってとっても嬉しそうに言うんです…」
「…切ない気持ちになるのが…好きな方なのかもしれないわ」
「ユーメリー様はどうですか?」
「私はやっぱり、みんな幸せになる方が好きね。たとえストーリー的に自然な流れだとしても、誰かが死んだりするともやもやしちゃうし」
「わあ、僕と同じですね!嬉しいです!」
でも、あまたの困難を乗り越えて大団円で物語が終わるのはあまり好きじゃない。なんというか、終わった後の物語の方を読みたくなってしまう。皆で幸せに暮らしましたENDの後日談が死ぬほど欲しいのに、おまけストーリーも無いと地団駄踏みたくなるくらい嫌だ。
主人公はあんなに苦労してたんだから幸せな生活を送っているところを見せてくれよ!と思うのは私だけなんだろうか。
「…ただ、悲恋物でも無理心中ENDはちょっとだけ好きです」
「死んでしまうのに?」
「身分差とかって、どうしようもないじゃないですか。好きな人と添い遂げたいのに時代が許してくれないのなら、2人で眠り続けるのも悪くはないかなって」
「そうかしら…死ぬほど愛しているなら駆け落ちでもいいと思うけれど」
「身分が上の女性なんかは庶民の暮らしは出来ないと思いませんか?貧乏になって、喧嘩ばっかりになるより…幸せに出来るような気がして」
キラリと、エリクの金の目がこちらを覗いた。何かを確かめるように僅かに揺れた視線は、私の目で動きを止めた。
…もしかしたらエリクにも、身分違いの好きな人がいるのだろうか。
「…月並みな言葉だけど。愛があるなら乗り越えられると思うわ。貧乏になって、怒るような女性は…そうね…」
「……」
「気合が足りないわ」
「え!?」
まるで鳩が豆鉄砲を食ったように、一気にエリクの目が開かれた。予想もしていなかった言葉を言われて驚いたのだろう。
「だってそうでしょう?愛する人、愛してくれる人が隣にいて自分も元気でいるなら他に何がいるっていうの。昔だったら分からないけど、現代なら割と平和だし女性ながら稼ぐ手もえり好みしなきゃいくらでもあるじゃない。文句言う前に出来ることをする!」
「そ…そういうもの、でしょうか…」
「そうよ!それに、あまり女を舐めないでもらえる?親や時代に愛する人との結婚を反対された程度でメソメソするくらいなら、喧嘩売ってでもどうにかしてみせるわ!」
「……」
「…あ、ごめんなさい。少しはしたなかったわね…」
「……っく、あははは!っやっぱり、ユーメリー様はいいなぁ…」
そんな、腹を抱えて笑うほど面白いことを言ったつもりはないんだけど。ていうか笑いすぎじゃない?ちょっと失礼じゃない?いち女性の一人として意見を言っただけでそんなに笑う?
「はは、…あー……ふふっ。確かにそうですね。僕も、愛する女性をこの手で殺すより死ぬ気で抗って一緒に生きていく方がずっとずっと幸せになれる気がしますし…幸せにしてみせます」
「でしょう?」
「ええ。…日が沈んできました。僕が寮までお送りしますね」
そう言ってこちらに手を差し出すエリクに迷いはなく、なんとなくもう"男の子"ではなくなったのだと自覚した。
「お願いするわ」
私がその手を取れば、今までで一番晴れ晴れと、どこか自信に満ち溢れた顔で僅かに笑った。
「どこまでも、お供いたします」




