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『石炭高騰!輸入先隣国の事情に迫る』
『人気俳優の素顔―意外な一面―』
『失われた幼い命…公判始まるも無罪主張』
朝一に届けられる新聞の一面を眺めてみるが、目を引くような記事はなく適当に流し見る。
テレビもラジオもないこの世界では、新聞が情報を得る一番のメディアだ。パラリと新聞をめくると、興味深い記事が目に入る。
『伯爵夫人、宗教裁判は有罪。領民からの勇気ある一声で裁かれることに』
『7/29、快晴。静まり返った空気の中、裁判官は一言。汝、有罪とする。伯爵夫人は言葉を聞いて泣き崩れた。発端は3か月前の告発によるものだった。1年ほど前から伯爵家に外国の言葉を話す人間が出入りするようになった。それから半年も経つと、使用人の半分は外国出身の者達に代わっていった。美しかった庭園は取り壊され、見慣れぬ模様の入った小屋が作られた。出入り業者であった領民は、これは何かと夫人に問うと外国人のための祈り場所だという。疑問を抱きながらもその場を去るが、どうにも気になってしまい屋敷の前を通るたびに様子を伺うことにした。するとどういうことか、外国の使用人と共に人目をはばかりながら夫人が祈り場へと入っていくではないか。それから毎日、観察し記録するようにした。1日に1~2度、夫人は太陽神ではない神へ祈りを捧げている。そればかりか、ひじに入れ墨をしているのを偶然にも目に入れる。太陽神への冒涜である。悩んだ末、2か月分の記録とともに教会へ届け出ることにした。教会は厳密な調査の結果、太陽神への裏切りを確信。宗教裁判へと相成った。刑の執行は9月中旬を予定している。』
太陽神、並びに太陽神宗教は絶対のものだ。ゼフィランサスの国民は太陽神を崇めるという義務がある。
ただし、外国人はその限りではない。けれど外国人の布教活動は禁止されており、国民がそれを享受・隠匿するのは厳罰の対象だ。
裁判は通常の裁判と宗教裁判の2種がある。前世の中世さながら貴族の特権は凄まじいもので、たとえ殺人を犯しても貴族であれば死刑にはならず、刑が一番重くてもせいぜい幽閉されるだけだ。
けれど宗教裁判は別だ。太陽神とは絶対の唯一神であり、これに背くは人道に背くと等しい。新聞には伯爵の名前も、どのような刑かも書いてはいないがおそらくは死刑、良くて着の身着のままの国外追放だろう。いや、入れ墨まで彫ってしまっているならやはり死刑だろうな。
太陽神教では神からの賜りものたる体への自傷行為や入れ墨、ピアスといったものは禁止されているし。
通常裁判であればアゲラタム家により、事実に基づき公平且つ弁護士を付けることも出来るが、宗教裁判は異端審問官により裁かれ弁護することも許されない。教会が集めた情報が正しいものであることを願うしか道は無い。
うーん、恐ろしい。これまた記事には書いてないが、夫人の雇った外国人も牢屋に入れられて夫の伯爵も財産と爵位取り上げられるくらいはされるんだろうな…。
くわばらくわばら。
机に新聞を置いて、寮の前で待っているであろう弟のもとへと歩いた。
「昨日父さんから手紙が来てさ」
寮の前にいるツヴァイに声をかければ、返事とともに校舎へと歩き出す。毎日のもう慣れた光景だ。
「お父様から?珍しいわね」
「俺の執事を雇ったから夏休みに紹介するって」
「執事かー…。ジルは私が7歳の時に来たけど、ツヴァイの執事は結構時期が遅いよね。いい人が見つからなかったのかな」
「あー違うよ。本当はジルを俺の執事にしたかったらしいんだけど」
「え!そうなの?」
「でもジルに断られ続けたんだよ、メリーの執事がいいって。だから遅かったんじゃねーかな」
普通に考えて、女である私より次期セントポーリア家当主になるツヴァイの執事になった方が出世できると思うんだけど…一体何考えてんだ。しかも公爵家の主人の要望を蹴るって…。
「…意外ね、ジルがお父様のお願いを断るなんて」
「んー、気持ちは分かるけど」
「そうー…?」
「どんな奴だろうな。ジルみたいなのじゃなきゃどんなのでもいいや」
「…確かに。ジルが2人いたら…両耳の傍でお説教されそう」
「はは!そーだな」
「今度の休み、家に持って帰るお土産を選びにいかない?」
「忘れてた。買いに行かないとな」
前にツヴァイに買ってもらった手帳は、肌身離さず持ち歩いている。書き込むことはあまりないけど、こういうのは習慣にしとかないと。
私の髪の毛とツヴァイの目の色と同じ深緑色の布地に、私の目と同じ黒い糸で縫ってある手帳カバーは初めて見た瞬間、愛着がわいた。
ツヴァイも私と同じ手帳カバーを使っていた。つまりお揃いだ。
シンプルで、表紙の右下に小さな太陽のモチーフが縫い込まれているそれはとても素敵だった。
「次の休みは、お土産購入…っと」
「わざわざ手帳に書かなくても忘れないだろ」
「いーの、使いたいの。せっかく買ってもらったんだし…こういうの書かないと書くこともないし」
「普通に…日記とか書かないか?」
「うーん…ちょっと日記は苦手みたい。思い浮かばなくって」
「そっか。ならいいんじゃね」
隣を歩く彼の横顔は、昔と違い私より少しだけ上にあった。出会った頃はずっと小さくて、ずっと痩せていて後ろを付いてきていたのにいつの間に背を越されたのだろう。
「…なに?」
「ううん。ツヴァイ、背伸びたなあって」
「そりゃあな…男だし」
「私も女の子の中では結構背、高い方よ」
「だから必死に牛乳飲んだ」
「えーっ小さいままでもよかったのに」
「俺が嫌だよ…」
今は僅かな身長差も、これからどんどん離されていくだろう。少し寂しい気もするが、男の子の成長は早い。今のうちに可愛がっておこう。
次回から高等教育編…、の前に14歳のツヴァイ目線です。




