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「あ…どうしよう」
週末の日は、大体届いた手紙の返事を書いている。初めの頃はかなりの量が届いたが、最近はそれも落ち着いてきた。もしかしたら、全員に返信するのも大変だと思って気遣ってくれているのかもしれない。時たま、返信は要りませんという一言が書いてある手紙があるからだ。
要らないと書いてあってもつい返事を送ってしまうので、意味はないんだけど。
で、2人目の返事を書いているときに便せんが残り少ないことに気づいた。
家を出るときにかなりの量をもってきたはずだけど、入学4か月目にしてもう無くなってしまったか…。
既に夏真っ盛りで、外を見れば太陽が真上を目指している途中だった。まだ午前中なので容赦ない暑さ、とまではいかないだろう。
返事を書かなきゃいけない人はあと5人分。便せんは3枚のみ…。全員同じ屋敷にいるから1つの便せんに全員分入れれば届くけど、できればちゃんと1人1人の名前も書いて渡したい。
では…行くしかあるまい。
クローゼットから、出来るだけ涼しそうなワンピースを手に取る。ノースリーブだから、上にレースのカーディガンを羽織ればちょうどいいかな。
髪も上へ適当にまとめ、首回りに髪の毛がかかり熱を帯びないようにする。
細かい刺繍が一部に施された黒の日傘を持ち、外に出た。
「すみません」
「はい、どうしました?」
来たのは、校舎横にある兵舎だ。窓口に来ると、すぐに人が来てくれた。
「街に行きたいのですが、誰か空いている方はいらっしゃいますか?」
「分かりました。ちょーっと待っててくださいねー」
親しみやすそうな口角の上がっている男性は、そう言うと奥へと入っていった。
「あれ?ユーメリー様。どうかしました?」
「…あ、こんにちは。あの時ぶりですね」
誰かと思えば、声をかけてきたのはいつぞやの放課後に見送りをしてくれた男性だった。私服姿も様になっており、甲冑の時より体の線がより明確に見える。かなり筋肉質のようだ。きっと私が全力で殴ってみても、赤子に触られている程度にしか感じられないだろう。
「街に行きたいので、同伴を願いたくて」
「なるほど」
「お待たせしましたー」
その時、窓口の男性がちょうど戻ってきた。
「休憩中の奴がいましたんで、呼んできました。今来るのでもう少し待っててくださいね」
「ええ、ありがとうございます」
「…!ユーメリー様、付き添いの相手は私でもいいですか?」
「はい、お手すきであれば」
「ありがとうございます。ブレーズ、ユーメリー様の付き添いは俺が行くよ。ちょうど街に出たかったとこだし」
「え?でもお前、非番だろ」
「いいからいいから、任せとけって。では行きましょうか。ああ、裏口の方が門に近いのでこちらからどうぞ」
「はい」
手で進路を示され、兵舎の奥へと歩き出した。木造のそこは、至る所に細かな傷があり古くから使われているところのようだ。
通りかかったドアの向こうからは話し声が聞こえてきた。非番の男性陣がお喋りでもしているのだろうか。
「実は…たくさん買うものがあるので、荷物を持っていただくかもしれないです」
「構いませんよ、お付き合いします」
「でも、非番ってことはお休みなんですよね?お休みなら、他の方でも…」
「あー…」
バツが悪そうに、目線を外された。そういえばついていっていいか聞かれた時、どこか慌てている様子だった。
「ユーメリー様は不思議な方ですね」
「そうですか?」
なんだか話題を逸らされてしまった。あまり話したくないのだろう、よほど街に付いて行きたいようだ。であればこちらから探るような真似はしないでおこうかな。
誰でもいいとは言ったけど、顔見知りの人の方が楽ではあるしこちらとしても有難い。
「いつも学園ではお一人で過ごされているようですし」
「う…」
それはただ単にぼっちなだけです。
「私たちのような騎士にも丁寧にご対応していただいていますし。こちらとしても、より一層守りたくなります」
「それならよかったです。…あとは、友達を作るだけですね…」
「あれ!?敢えてお一人ってわけでは…、えーと…ああ、すみません!」
「あはは…いいんです、事実ですし」
慌てて取り繕おうとしてくれたようだけど、言葉が続かなかったらしい。ええんやで、ちょっと心をえぐられただけだからな。
「…ユーメリー様は大人びていますから。周りが大人になっていけば、自然と人が集まってきますよ」
「気長に待ちますね」
「俺らでよければいつでも相手しますから。ああ、すみません。私達でよければ、でした」
「話しやすい口調でいいですよ」
「いえ。騎士として節度は守らなければなりませんので」
わざとらしく背筋を伸ばし、右こぶしを胸元に当てて騎士の敬礼を取った。茶目っ気たっぷりで、気のいいお兄さんといった感じがする。
「ふふ、ご立派です。無理にとは言いません」
それから一番近い雑貨屋で、便せんセットをとにかく買いあさった。そこそこ大きな紙袋2つにパンパンに詰まっている。
これだけあればまた数か月は持つから、大丈夫だろう。
「便せんだけ、こんなに…。他のものはいいんですか?店内を見たりとか…」
「ええ!満足です。持っていただいてすみません。では帰りましょう」
「え!?街に来たばかりですが、いいんですか?」
「はい。日が高くて暑くなる前に買いに行こうと思って来たので」
「そう…ですか。では戻りましょう」
「そういえば、騎士様はどこか寄りたいところはありませんか?私の用は済んだので、ついでと言ってはなんですが」
「…すみません。名乗っていませんでしたね、騎士のジェラルドです。私も特に用はないのですが…では、カフェに寄っていただいても?」
「はい」
そう言って着いたのは、オレンジ色のドアが可愛らしい小さなお店だった。
表のいろいろな店がある通りの裏、住宅が並ぶ道にひっそりと存在しており、案内されないと自力では見つけられないかもしれない。
来店を知らせる小さな鈴の音とともに入れば、垂れ目の上品そうな女性から『いらっしゃいませ』と声をかけられた。
歳は40代半ばほどだろうか。近くにいるだけで優しい雰囲気にこちらまで包まれそうな、魅力のある女性だ。
「こちらの席へどうぞ。メニューは壁にかかっているものです」
「はい」
「少し早いですが、何か軽食は召し上がりますか?ここのはどれも美味しいですよ」
「…そうですね…飲み物は、オレンジジュースのライチ添えが気になります。いくつか知らない単語があるのですが…グヤーシュというのはなんですか?」
「お、それに目をつけるとは流石です。外国の牛肉スープです。かなり美味しいのでおすすめです」
「では、それでお願いします」
「付け合わせにクネドリーキというパンが一番良く合うのでご一緒にどうぞ。どちらもハーフにしておきますね」
「ありがとうございます」
店員を呼び、手慣れた様子で注文を終えると、軽く店内を見回した。
真似してくるりと見てみたが、昼前というのもあってか客は私達だけだ。先程の女性も、おそらくは厨房に行ったので姿は見えない。
「付き合ってもらってすみません」
「いいえ、荷物を持っていただくのですし。休憩も必要です」
「いえ…実は別の理由もあったんです。でも、あなたのおかげで助かりました」
「?…それは、よかったです?」
「はは、そのお礼にもなりませんが、個人的に穴場の店に来ました。知り合いもなかなか来なくてここは快適なんです」
「ああ、兵舎だと中々1人にはなれませんし、ね」
「はい」
それから、運ばれて来た料理に舌鼓を打ちつつ、1時間ほどお喋りをして、寮まで送ってもらった。
荷物のみならずカフェ代も持ってもらってしまった。ニコニコしながら『今日一番助けられて、楽しんだのは私なのでいいんですよ。それに、こんなに可愛らしい女性に財布を出させるわけにはいきません。ここはどうか、私を立ててくれませんか』
なんて言われたら、分かりましたという他ない。
何はともあれ、これで補充も出来たことだし手紙の返事書きを再開しますか。




