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「新たな…ゲームか?」
「はい。お恥ずかしいのですが、私程度の頭ですと既存のゲームではとてもアデラール様には叶わないと思うのです。ですので、共に新たなものを作りお互いがフェアな状態で勝負できるとしたら…私でも勝ち目があるかもしれないと……」
「…接待ゲームをする気はない、ということだな?」
「ええ。そちらをお望みですか?」
にっこりと笑う。
「ははは!全く。色々なものを大人相手で勝てるようになったが、そうか。新たな物を自ら作る…という発想はなかった」
「想像し、創造する。ゼロから共に作り上げるのです。なかなか趣があるとは思いませんか」
「ああ。それで、どんなものを作るんだ?」
……よし。相手が乗ってきた。
「作ろうと思うのは、テーブルトーク・ロールプレイングゲーム…TRPGです」
「聞いたことがないな」
「この日のために私が考えたものです」
嘘です。TRPG自体は前世でありました。
「テーブルでやるのか?ボードゲームのようなものだろうか」
「いいえ。決められたルールの中でやるものではなく、どのように進めるか、行動するかは制限なしのまさに無限。己の思考の限りを尽くして考えるもの…。使用するのは、サイコロと進行表、ルールブックです。とはいってもまだ真っ白なのですが。ジル?」
「はい。こちらに」
「ありがとう」
テーブルの上に10面のサイコロが2つ、ペン、複数枚の羊皮紙が置かれる。
「これだけで出来るのか?」
「そうです。そして、ゲームのテーマなのですが…王座争奪戦…というのはどうでしょう」
「王座…か」
「私たちはお互いが双子の王位継承権1位である王太子、という設定で、王が退居するまでの5年間の間に様々なパラメータを上げ、5年後にどちらが多くを上げることが出来たか。総合パラメータが多い方が王座に就ける…というものです」
「面白そうだな」
「そこから先は考えていませんので、あとはもう完全にゼロから作るのですが…」
「わかった。考えたものを紙に書いていけばいいのだろう?私がやろう」
「ではお任せします。初めに進行表から考えた方が早いと思うので、まずはこちらから。これはお互いがサイコロを振りその目に応じてマスを進め、止まったマスに書いてある行事であったりパラメータを上げるイベントだったりをやるものです。何もないマスは自由行動、ということになります。国に関するイベントですので、例えば貿易のマスであれば、更にサイコロを振り出た目によって収益が変わるものであったり、演説のマスであればその演説の内容によって国民からの評価が上がったり…といったものです」
「待て、演説の内容によるならば誰が良しあしを判断するんだ?」
「お互いに1人ずつ、使用人を出し判断を下してはいかがでしょう。10点を演説内容によって私たちへ振り分けるのです」
「ユーメリーの使用人だけでいい。こいつらは私に遠慮しすぎるからな。それでは面白くない」
「…では、ジルトレへ判断を任せることにします。ジル?公平な判断をお願いするわ」
「かしこまりました。僭越ながら、務めさせていただきます」
「悪いイベントも増やしたいところだな」
「例えばどのようなものでしょう」
「財政の悪化や飢饉だ」
「それは…ゲームの進行が多いに盛り上がりますわ」
「だろう?」
口元に笑みを浮かべながら、ペンを走らせるアデラール。次々と浮かんでくるアイデアは、ペンの動きより早く。初めに出した紅茶はもう飲まれることなく冷めきっていて、話し合う2人が常に笑っていることに、使用人たちだけが気づいていた。
「ではこの項目を行動したら該当のパラメータが上昇する…ということでいいな?」
「そちらでよろしいかと」
「やっと少し形になってきたな。次にだが…」
「アデラール王子…」
「なんだ」
「ご昼食の時間でございます」
侍女が控えめに声をかけてきた。そうか…もうそんなに時間が経っていたか。気づけば太陽はもう真上に上っていた。
「時間が惜しい。ユーメリー、軽食でいいか」
「アデラール王子。せっかくいらしてくださった淑女にそれは…」
「いいえ、私も早く完成させたくて仕方がなかったのです。ぜひにお願いしますわ」
「ああ。しかし、ここだと風が出るな…室内へ移動しよう。私の部屋でいいか」
「ええ」
「こちらと、ご昼食を後程運んでまいります」
「すみません、お願いします」
「ユーメリー、こっちだ」
「はい」
アデラールの侍女へ机の上に広げていたものはお願いし、王子の後ろを付いていく。
「ユーメリー…という名前は少々長いな。親にはなんと呼ばれている?」
「メリー…ですね」
「私もメリーと言おう」
「…ふふっ」
「どうした?」
「あ…すみません。以前までは、両親しかメリーと呼んでなかったのですが…最近、私のことをそう呼んでくれる人が増えてきていまして。とても嬉しいものだな…と」
「…そういうものか?」
「そういうものです。王族に対してであれば、不敬ですので絶対に出来るものではありませんが」
「分からんな。しかし…メリーは面白い」
「ありがとうございます」
「はは。面白い、と言われて礼を言う女性はおそらくメリーだけだ。ここにロザリーがいたらまた私は怒られていただろう。淑女に面白いなんて言う紳士がいるか、と」
「先ほどの侍女の方ですか?」
「そうだ、私の教育係も兼ねている。母上のお茶会で時たまエスコートすることもあり色々な女性を見てきたが…メリーのような女性は見たことがない」
「それは…はい…母からもよくお転婆だと言われていますから、一般的な淑女の枠からは外れているのでしょう。冬には雪を屋根の下にかき集め、2階から飛び降りる遊びをしたのですが。母からは烈火のごとく怒られました」
「ははは!それは面白そうだ」
「面白いですよ。止めに来た父も一緒に飛び降りましたから」
「なに…セントポーリア公も?」
よほど驚いたのか、一瞬足を止めてこちらに向き合った。
「そうですよ?最初は父が止めに来たのですが、娘に負けるわけにはいかない!と言い出しまして一度飛び降り、二度飛び降り…最後は一緒になって遊びました。まぁ、母に見つかって全員こっぴどく叱られたのですが」
「…意外だな」
「父は私や弟に負けず、子供のような心を持っていますので」
「雪遊びに興味はあるが、王都ではあまり雪が降らないからな。機会があればあふれんばかりの雪を見てみたいものだ」
「8歳になられましたらご公務で遠征することもございますでしょう。ぜひ、我が領地へ訪れた際はご堪能ください」
訪れた王子の私室は…部屋というより、豪華なアパートの一室といった感じだった。入ってすぐに応接室さながらの机と椅子、書斎を思わせる書類棚、扉が複数あるが…おそらくは脱衣所に繋がるものと寝室に繋がるものだろう。
「かけて楽にしてくれ」
「失礼いたします」
ふっかふかだな。本革だろうか、現代ではきっとウン百万円くらいするんだろうな…、なんで今私ここに座っているんだろう。
「王都にはどのくらいいるんだ?」
「4日間を予定しています」
「4日か…、明日には完成させて遊びたいものだ」
「楽しみですね」
それから、サンドイッチを食べながらまたゲーム内容を練って。お父様が来る頃にやっと6割ほどの完成度になった。
明日は朝一で来い!という王子からのお言葉のもと、王城を去り宿へと戻った。
「あーーーーー…緊張したあ…」
ボスン、と着替えもせずにベッドに突っ伏する。緊張の糸がやっと解けた感じだ。
「ご立派でしたよ、メリー様」
「…ありがと」
ジルがお茶を入れる準備をしている。これが残り3日も続くと思うと、若干憂鬱だ。
「しかし大変面白い発想ですね。新しくゲームを作ろうとは」
「そーねー。アデラール王子って頭いいじゃない?チェスやトランプで勝負したところでかなわないと思うし…、叶わない相手と同じ土俵で戦うのではなくこっちの得意な土俵に立たせるには…それしか思い浮かばなくて」
「ですがメリー様、オセロは得意でしたよね?」
「得意って言ったって、7手先までしか読めないわ。チェスが得意な王子なら20手くらい先まで読めそうだから。20手先って言ったらもう終わりの方まで行ってるわけで…そうなると勝負はやる前からついてるじゃない」
「なるほど。それで考え出したのが先ほどの…というわけですね。しかしおかげでアデラール王子は大変お喜びになられていましたし流石でございます」
「せめて会う場所が王城じゃなければ…、肩が凝って仕方がないわ」
「この謁見が終われば後は社交界デビューパーティを除き、学園でしかお会いにはならないと思いますし。あと3日間、頑張りましょう」
「はぁ…誰かに王子の婚約者を譲りたいわ。王宮入りしたいわけでもないというのに…」
「何かご不満が?」
「ご不満しかないわよ。王宮入りするためのマナーレッスンがまた更にあるし、王族に入るにあたっての厄介ごとや気構えも色々違うでしょうし…まず外で気軽に遊べないでしょう。私は今みたいにツヴァイや他の人たちと毎日遊んでいたいの」
「誰もが夢見るものだと思うのですがねえ。見目麗しい王子に、王族入り。しかも正室ですし。将来を約束されたも同然」
「見かけや権力には興味ないの!」
「では、何をお望みに?」
「そうね…、生涯私だけを愛してくれる人…かな」
いすぎて困るくらいだと思いますけどね…というジルの独り言は耳には届かずに、明日をどう乗り切ろうか考えていた。




