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ツヴァイが来てからは実に楽しい日々だった。川にメダカを捕まえに行ったり、木の上で一緒に木の実を食べたり、ジルトレにピタゴラスイッチ並みの罠をしかけたり、冬にはお父様とツヴァイと特大雪だるまを作ったけど置いた場所が馬車搬入口でお母様にしこたま怒られ雪の上で土下z―――最後のは思い出さないでおこう。
はぁ。そんな日々を思い返したところで、これから先に訪れる現実は変わらないわけで。
「メリー、緊張してるかい?」
「えぇ…」
「大丈夫だよ、今日お会いするのは王子だけで国王陛下と王妃はいらっしゃらないから」
…そこを心配しているわけではないんだけどね。
楽しい時間はいつもあっという間だ。季節を超え、年を超え…私がもうすぐ8歳になる2か月前。7月の今、婚約者であるアデラール・ゼフィランサス第4王子との挨拶で王都へ来ていた。
我が領地から王都へは遠く、馬車で11日かかる。セントポーリア領の中でも王都へ一番近いところに居を構えていてもこの距離だ。
8歳での王室への謁見は収穫祭の終わった11月に執り行われる。もし王子が同じ年に8歳になるのであれば、誕生パーティも兼ねて開催されるらしい。今日来たのは、王子が7月生まれなので誕生を祝う意味でも来たのだが、11月のパーティではお互いに一番最初にダンスを踊るのでその前に親睦を深めるため、参った。
王都へ前日入りしたのは昨日の朝。そして午前10時より少し前の今、王城へ向かっている。
緊張する緊張する緊張する緊張する緊張する緊張する緊張する緊張する緊張する緊張する………こういう時どうすればいいんだっけ、手のひらに…何書くんだっけ…人?人だったっけ?えっでも書いた後に飲むんじゃなかったかな、人って書いて飲むの?それなんて進撃の巨人?緊張ほぐしがてらウォールマリア破壊しに行きたい。
そんなことを考えていたら馬車が止まった。門の前に来たのだろうか。
コンコンコン。
「恐れ入ります。安全のためにお姿を拝見してもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
ドアが開き、顔を出したのは眼光の鋭い初老の騎士だ。
「いつもご苦労様です」
「お疲れ様ですわ」
「これはセルジュ公。そちらの可愛らしいお方はユーメリー様でしょうか」
「はい。私の愛しの娘です。王子との謁見で参りました」
「ええ、存じております。お手数をかけて申し訳ありませんでした。いつも労いのお言葉、感謝します」
それだけ言うと、扉が閉まりまた馬車が動き出した。
「さっきの騎士の人、お父様をセントポーリア公ではなく名前で言っていたわね」
「あの人は私が子供の頃からの顔見知りだからね。遠いからあまり来ることはないんだけど」
「旦那様、到着いたしました」
ジルが言いながら扉を開ける。エスコートされ降りると、2人の騎士が立っていた。
どうやら護衛のようで、父が歩くと物言わず後ろからついてくる。
いや、護衛というよりは見張りだろうか。
「私もあまり来ることはないんだけど、ここは広いからね。もしアデラール王子と共に歩く時は離れないようにしておくといい」
「…もしかして、アデラール王子と2人きりになるんですか!?」
「そうだね、いるのは最初だけかな。2人きりの方が仲良くなれるだろう?」
「不安でしかないです」
「ははっツヴァイの時なんてあっという間だったじゃないか。大丈夫だよ」
ツヴァイの時とは重さも何もかも違いますけどね、あはは。婚約破棄になったら断罪、されなくとも心はヒロインの物。どう足掻いても絶望でしかないっすわ。
あれ…そういえば断罪シーンまでは覚えているけど、その後はどうなるんだろうか…。
"私の前から消えてもらおう、ユーメリー・セントポーリア。本日限りで君と私の縁は切れた"
ヒロインを庇うようにユーメリーとの間に立ち、言い放つアデラール。ヒロイン目線の斜め後ろからのアデラールのスチルはなかなか良かった。ユーメリーは何も言わず、涙をこらえながら退場する…そして学園を卒業して半年後に婚約パーティーのシーン、ここで物語が終わる。
ちなみにこのパーティーが開かれるのは無事アデラールと結ばれることが出来た時のみ。パーティーと言っても、友達同士の密かなものだ。まぁ、そこに出席するのはヒロインと仲のいい女の子1人、残りは全て攻略対象の男性陣なんだが。
ここのパーティーも中々素敵だった…結ばれた王子以外の攻略対象一人一人に話しかけると、そのキャラとの思い出だとかを言ってくれるんだけど、他のキャラの好感度が高いままアデラールエンドを迎えるとちょっと悲しげ・寂しげにしながらおめでとうって言ってぼそっと独り言で毒づいたりとか…切なそうにヒロインに手を伸ばすけど踏みとどまって幸せになれよ、って言ったりとか……。
攻略対象の中で好感度が低いキャラがいるとそのキャラは欠席、そして全員出席した場合はなんとも豪華なスチルがご褒美として……。結構好きな終わり方だったなぁ。
で、終わる…のはいいんだけど、その後のユーメリーが大変気になる。国外追放?屋敷で軟禁?はたまた別の適当な所へ嫁入り…?
不安が一気に体に回ると同時に、体温がすうっと抜けていくのを感じる。…処刑、とかじゃないだけまだマシ、大丈夫。それにお父様は普通の父親として、娘に愛情を注いでくれている。仮になんらかの処罰があったとしても、家族は味方になってくれるだろうし態度も変わらないだろう。
父が向かっていた先は、中庭に用意されたテラスだった。こちらの入り口が見える位置の椅子に腰かけていたのは、紛れもなくアデラールだった。横には侍女と思しき女性、反対側には騎士が立っている。こちらの姿が見えると、立ち上がった。
「セントポーリア公。久しぶりだな」
「アデラール王子、お久しぶりです。本日はお招きいただき誠にありがとうございます。お誕生日も迎えられ、おめでとうございます。2か月後にはうちの娘も同じ年になりまして…」
世間話を始めた2人の隣でじっと待つ。自分より階級の上の人間と同席するときは、話しかけられるまで話してはいけないからだ。それが王族なら、なおさら。
「君がユーメリーか」
「はい。ユーメリー・セントポーリアですわ。お初にお目にかかります」
女性の挨拶であるカーテシーをしつつ、王子の顔を伺う。うーん、大変美少年であらせられますね。金の髪は太陽の下で髪の毛のひとつひとつが反射してきらめいていた。澄んだ金目で見られれば、心の底まで見透かされているような気さえしてくる。
「アデラール・ゼフィランサスだ。用意はしてある、かけてくれ」
「失礼いたします」
「セントポーリア公、あなたの分も用意はしてあるがどうする?」
「いえ。私がいては気にしてしまうでしょう。ありがたいのですが、あまり城に訪れることもありませんので陛下にもご挨拶をしてまいります」
「そうだな。それがいいだろう」
「失礼いたします」
こうして父は去っていってしまった。ジルがいるからまだいいが、それでも発言できる身分ではないから見ているだけになってしまうし。誰か助けてください。
「紅茶は好きか」
「ええ」
午後ティーのミルクティーとか好物です。
王子の侍女がカップを目の前に置いた。
「ありがとう」
「セントポーリア公もそうだが、君の一族の者達は皆一様に使用人に礼を言うな。いちいち言っていたら日に何十という数にならないか?」
「癖みたいなものですわ。それに、お仕事とはいえ私のためにやっていただいていることですから」
「理解できんな」
「我が家は別名の通り、庶民や使用人と距離が近いので」
「ふん、そうか」
「お誕生日を迎えられたのですよね。おめでとうございます。共に8歳の社交界デビューでご一緒しますから、よろしくお願いいたしますね」
「ああ。私に合わせてくれればそれでいい」
その程度のことは流石に出来るだろう?とでも言いたげな目で見られる。乙女ゲームの作中では幼いころから文武両道、大人顔負けの実力を持っていたと書いてあったから恐らく本気でそう思っているのだろう。
目の前の、優雅に金色の線が取っ手から飲み口へと伸びている高級そうな紅茶カップを優雅に揺らしながら、相手が言葉をどう受け取るかなど一切気にしないかのように一口含んだ。
偉っっそうだなこの8歳児…。
「国王陛下からは夕方あたりまでもてなす様にと言われているが、何をする?話し続けるのも退屈だろう」
「そうですね…」
「ボードゲームであれば用意できるが」
「いえ…アデラール王子はチェス、並びにボードゲームがたいそうお強いとお聞きしました。そのような方へ私が相手になったところで、時間つぶしにもならないでしょう」
「それもそうだな。あと…王子はいらん。仮にも婚約者だろう」
「では、アデラール様。私から、提案がございます」
「ほう?なんだ」
「私と一つ、新たなゲームを作りましょう」




