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「ツヴァイ様?アリーサ・ペチュニアと申します。何なりとお申し付けくださいませ」

「別にないから出てっていいよ」

「ツヴァイ!」


両親が部屋から出て行ったあと、アリーサがせっかく自己紹介してくれているのにこの調子である。

ツンケンな態度は過去のせいかと思っていたけど、この分だとさては元からだな?一度心を許せばどこまでも甘えてはくるものの…。

私の大事なアリーサにまでこんな態度は流石に怒りたくもなる。


「アリーサは私の大好きな人。その人を無下にしたり傷つけたりしたら怒るわよ。私のことが好きなら、私が好きな人も大事にしないと嫌いになるからね」

「お嬢様…!」

「私にはそれ言っていただけないんですかね」

「…わかった。ごめん、アリーサ」

「いいんですよ、ツヴァイ様」

「メリー様?私は?」

「いい子ね。さ、ごはんにしましょうか」


アリーサが持って来てくれたご飯は、既に机の上に乗せられている。2人分の量を持ってきてくれたようなので、残すこともなさそうだ。

パン、スープ、肉料理、サラダ、野菜料理。バランスのよい食事は見ていて体によさそうで、痩せすぎ一歩手前のツヴァイにはたくさん食べてほしいものだ。


「…」

「はい待て!」

「何?おなかへった」


案の定手づかみで肉を食べようとしていたツヴァイを止める。


「ツヴァイ。あなたは貴族になったの。ご飯は食べる前にお祈りして、ナイフとフォークを持って綺麗に食べるの」

「めんどくさい」

「ダメ。私と一緒にいたいなら出来るようにならないと」

「やらなきゃ一緒にいれないの?」

「そうね。うちじゃなくて貴族じゃない家の子になるならやらなくていいけど…そうなると離れ離れになっちゃう」

「……いやだ」

「じゃあ、やってくれる?」

「わかった」


まずはお手本として、私が目の前に座りやってみせる。両手を胸元で組み、しばし目を閉じ黙祷。前を見るとツヴァイも同じようにやってくれていた。


「もういいよ。じゃあ次に食べ方ね。まず背筋を伸ばして、カトラリー…ナイフとかスプーンの持ち方はこう。そう、上手よ。スープ料理でもお皿に口を付けたらダメ。少しお皿を傾けてからスプーンですくうの。ナイフを使う時は1口サイズにしてから、左側から順に食べていく」

「んー…あっ」


まだ慣れぬ動作で思うようにいかないのだろう、左手からフォークが滑り落ちた。

それを見てジルが動く。


「ツヴァイ、椅子から降りないで。ジルが取りに来てくれたでしょう?」

「替えもご用意しております。どうぞ」

「…自分で取れるし」

「そう。自分で取れることをわざわざやってくれたの。だから、ありがとう、って言うのよ」

「………ありがとう」

「お気になさらず」



それから、いろいろ教えている私とツヴァイをジルとアリーサはニコニコと眺め続けた。










食事も寝る準備も終わり、ジルとアリーサにもおやすみを言った後の自由時間。ツヴァイの部屋は私の部屋の隣ということだったが、自室にもいかずに私の部屋にいた。


「貴族って大変なんだな」

「大変よね。私も好きでやってるんじゃないんだけど」

「そーなの?」

「うん。もしも家を追い出されたりしたら庶民として暮らしていこうかな」

「俺もついてく」

「えーそれは無理よ。だってお父様のお仕事をやってほしくてツヴァイはうちに来たんだもん」

「なんで?家族は一緒なんじゃないの?」

「家族の中から出てけ!って言われたら私だけ出ていくことになるかな」

「じゃあまた俺と家族になればいい」


フンス、と名案とばかりに胸を張るツヴァイ。


「あは、それなら結婚かな」

「結婚?」

「お父様とお母様みたいになるの。家族じゃない人と家族になるために結婚するんだよ」

「…あの人たち、優しそうだし。結婚っていいかも。俺メリーと結婚する」


これは…なんとも可愛らしいプロポーズだ。世のパパママ憧れのイベントではなかろうか。


「そうね、もし私がお嫁さんになれなかったときは、ツヴァイと結婚しよっかな。でもツヴァイには多分、もっと可愛くて優しいお嫁さんが来ると思うよ」

「嫌、メリーがいい」

「ふふ。私の旦那様になるならトマトも好きにならなきゃね」

「………がんばる」


ちょっと弱気になったツヴァイに心の中で少し笑った。口に出せば、小さなプライドが傷ついてしまいそうだ。

小さな2つの手が重なる。もしかして夜も一緒に寝るつもりなんだろうか。まあ可愛い弟が出来て嬉しい限りなので一向にかまわないのだが、いずれ1人でも寝れるようにしてほしいところだ。手を握ってきたので眠くなってきたのかと思えば、まだ目はパッチリと開いていた。

そういえば昼寝したもんな…、私もまだそんなに眠くないや。


「もしかしてツヴァイも眠くないの?」

「うん」

「お昼寝しちゃったしねー」


貴族の朝は早く、夜もまた早い。おそらく他の公爵家であれば、たっぷりと蝋に火を灯し夜もそこそこ活動するのだろうが、うちはとにかく質素なため、太陽が落ちれば眠り、上がった頃に起きだす。

お父様は多分だけど例外で、書類仕事なんかは他の貴族同様に夜にやっているのだろう。

なんとも規則正しい生活だ。前世では考えられない。なんなら食事すら休みの日は1食だけだったりしたし、作る気力もなければコンビニで買ったお弁当とかを食べることもあったし。

現代社会を経験とした身ではありえないくらい時代遅れな環境にいるが、むしろこっちの方が肌に合っている気がする。

ああ、けれど食材に関しては現代の方がいいかもしれない…。海が近い我が家とはいえ、生で魚を食べることはしないから刺身なんて論外だし、米なんかも多くは流通していないから寿司も無理だし、TKG(卵かけご飯)をしたい衝動に駆られても米どころか卵も生では食べないし…。


現代への未練って飯以外にないな。


くそ…乙女ゲームを開発した会社は一体どこだったか。作中に白米・刺身・生卵くらいは出してくれてもよかっただろう。訴訟も辞さない。

和食以外でいえばカレーが食べたい。スパイスはもしかしたら集まるかもしれないが、私は本格的なカレーよりもインスタントルーを使ったカレーライスの方が好物だ。

辛いのも嫌いではないんだけれど、香辛料の色々混ざったにおいが少し苦手で本格的なカレー屋なんかはほとんど行かなかった。

お願いします、ハウス食品さんだけでもいいのでこっちに来てください。バーモンドカレーは偉大です。あ、あと米も食べたいのでよゐこの有野さんだけでも転生してきてほしいです。ぜひ私の専属チネリストになっていただきたい。





グ~…。


「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

「早くない?」

「ちょっとご飯のこと考えてて…」


若干引かれている気がする。だ…だって仕方ないよ。子供の体って成長するから燃費悪いし!いくら食べても足りないんだって!


「…まあ。ご飯は美味かったけど」

「ひよこ豆のスープとか最高だったわね」

「また肉食べたい」

「お肉がいいの?男の子ねー…」

「ふつうは肉じゃない?」


…やっぱり普通は肉なんだろうか。ぶっちゃけお肉は苦手だ、野菜の方がいい。これあれかな、前世からの胃袋が引き継がれて…味覚だけ前世の年齢になってるんだろうか。

でも、ピーマンをちょっと多めの油で炒めて昆布と魚介出しを少し入れたやつなんてそれだけでピーマン10個はいける味してるし。

山菜は煮びたしにして芯まで味を染み込ませれば噛めば噛むほど味が出てきて美味しいし。


本当……米がないのが悔やまれる。


食文化に米はないけど結構和食が入ってるんだよね…。そういう料理の時は、パンじゃなくて塩味のスープに春雨を入れたものが主食として出てきたりする。

もちろんそれも美味しいんだけど…魚介だしに魚醤まであってそこまで和食入れるなら米も入れてくれたっていいじゃん。いいじゃん。


「…眠気が来ないわ。暗くなってきたのに」

「起きてればいいんじゃない?」

「ダメダメ。明日も早いんだから今のうちに寝ないと…。ねえしりとりしない?」

「しりとり?」

「うん。前の人が言った単語の最後の文字から始まる単語を次の人が言うの。たとえば、ほうき、キウイ、インコ…みたいに」

「へー、いいよ」

「最後に『ん』が付いたら負けなの。いくよ?お米!」

「め…メアジ」

「じー磁石」

「く?クサフグ」

「ぐ…ぐ…」


グーグルマップしか出てこない…!


「ぐ…?具材!」

「イシダイ」


やだなにこの子強い。ていうか魚の名前しか言ってこないんだけど。流石は船帰りだ、この調子だと負けそう…いやそんなばかな、24歳(享年)の私がたった6歳の子にそんな…。






結局敗北の苦渋を飲まされながら眠りについた。あとあらゆる魚が私の語彙力を馬鹿にしながら襲ってくる夢を見た。

更新ペースが遅くなります、ごめんなさい

今後の更新は毎週土曜日19時です

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