14話:大人達の談笑。
side:アルヴァハロン
アルドとユーリンが庭園に行ったのを見送りながらアルヴァハロンは、目の前に座る親友を見てにやにやする。
「子供にも厳しいお前が息子を連れてくるとは、思ってもなかったな」
「…妻がお前の話を聞かせた瞬間、ぜひ息子と仲良くしてくれとせがまれたからな」妻には甘いカインバルトは、妻の姿を思い出しながら少し疲れた顔をする。
カインバルトの妻。メリーナ夫人は、とても愛らしい人だが顔に似合わず騎士に所属していた。そして父はあの有名な帝国騎士団副団長の娘。そしてもっと驚く事は、あの堅物で有名なカインバルトとは、恋愛で結婚した事だ。帝国騎士団総隊長の息子であるカインバルトと帝国騎士団副団長の娘であるメリーナ夫人との恋愛は、吟遊詩人が咏う程うちの国や他国では有名な恋愛物語となっている。
「そう言えば、ウィクトール総隊長殿はお元気にしてるか?」
カインバルトの父、ウィクトール。帝国騎士団を纏める総隊長であり、数々の戦で語れるほどの英雄譚を持つ、別名『炎の猛獣』。豪快な性格でカインバルトとは、とても性格が似てないが、戦になると変わる姿は親子だと分かるくらい恐ろしい獰猛な猛獣に変わる。
猛獣の様な戦いが同じなのに、"太陽を司る戦神"と呼ばれているのは、血でべっとり付いた髪が太陽に反射し金色に見えたのと(らしい)、光彩瞳で薄い黄緑色から、赤みのあるオレンジ色の瞳に変わった瞬間、恐ろしく神秘的な光景に体を震わせ、彼の瞳が爛々と光り生き生きと戦う彼の姿が、まるで神話に出る戦の神に見えた事からこの名が広まった。
因みに別名は、戦場で戦った騎士が負傷し、その怪我でこれ以上戦うことが出来ない事から脱退した。後に吟遊詩人として各地を回って英雄譚や騎士の恋愛物語など咏った事からこの名が広まったと言う余談もある。
「あぁ。父上は元気に放浪の旅から帰って来ては、俺の息子を溺愛して困っている。」
現在、ウィクトール総隊長は、肩書きがあるもの大きな戦争が起きない以外皇帝陛下の指示が無いと動かないもので、副団長含めて二人は表舞台から降り、自由な生活を送っている。因みに副団長殿は、現在王宮の料理長として働いている有名な話である。偶に新米騎士を驚かせる事が生きがいとか言ってたのを思い出す。
「相変わらず旅を楽しんでるね、土産話とか聞いてみたいよ。」
「なら、暇がある時に来てくれ。土産話を聞いて欲しくてウズウズする父に鬱陶しくて困っていた。」
「なら、うちの可愛い娘を連れて自慢するよ」
久しぶりの親友との談笑に微笑みながら紅茶を一口飲む。偶にはこういう時間も楽しいものだ。子供と妻が待っている家で優雅な時間を過ごすのは至福だ。
「…そう言えば、お前が提案した制度に妻が大変喜んでいた。」
「…それは良かったよ。他の子持ちの文官や騎士から好評を頂いているよ」
私が考えた、5歳までの育児休暇制度。産まれたばかりの赤ん坊の世話を妻だけではなく、旦那もするために考えた制度だ。貴族や王族は基本、乳母や出産経験のある侍女や偶に妻に任せることが多い。だがそれだけになると親と子供の愛情が減る事を知った。そして考えた制度を使い、今現在カインバルトと私は育児休暇を使っている。だからこうやって娘と息子、愛する妻との幸せな日々に浮かれている。今は娘の行動を見守りながら仕事もしているところだ。
「私も、中々の機会が無い息子の鍛錬や生活に癒されている。ありがとなアルバ」
「…ふふっ、御礼は鍛錬でいいよ」
中々見れない彼の貴重な微笑みに私も笑顔になる。最近、体を動かす機会が無くなり鈍くなった体を動かしたい為に彼に鍛錬をお願いすれば、久しぶりにお前と剣を交じれるなら歓迎だと挑発的な笑で言うカインバルトに少し冷や汗をかいた。この話題から離れるように少し気になった事を聞くことにした。
「そういやぁ、ニゲルはどうしたんだ?ずっとお前の側から離れない奴だろう?」
「…ニゲルは、私の隣にいるぞ?」
話題から逃れる私を見透かし、くつくつと笑いながら優雅に紅茶を飲む彼の隣には、さっきまで誰も座ってなかった場所に背筋を伸ばしきっちりとした白の軍服を着たニゲルがいた。
「なんだ、アルバ。俺の気配を見つけられないとは、戦場から離れてからは、だいぶ鈍っておるようだな?」
子供や増しては大人も泣く程の恐ろしい笑みで笑う巨大な男。男が羨む程の強靭的な肉体美は、いつか軍服のボタンが弾けれるだろうなと、どうでもいい事を思いつつ馬鹿にされて少しムッとする。
彼は、カインバルトと契約している宝石獣だ。
人型は、2m越えの巨大な肌黒い体躯。人を殺しそうな鋭い瞳は契約者と同じ色を持つ光り輝く魔石の瞳に、この世界では珍しい"神色"に近い黒紅色の髪に混じって白銀色の一房の髪は、きっちりオールバックだ。見た目は、三十代後半の美丈夫で勇ましい軍人様の様に見えるが、彼の本来の姿は、3mくらいある大きな重種馬に似た姿をしている。鋭い牙と爪を持ち、白銀色の鬣に黒紅色の体が特徴だ。見た目は恐ろしい宝石獣だが、何故か人型よりも大人しいのが謎だ。そして契約者に似たのか戦以外興味無い戦闘狂で、変わった宝石獣と有名である。
「別に鈍ってもいいよ、今は立派な宰相としての仕事を頑張っているからね」
「…見苦しい言い訳だな。そう言えば、赤い奴は何故庭にいる?」
鼻を鳴らしながら此処には居ない私の契約精霊を気にする二ゲル。犬猿の仲の二人だが此処には居ない事が珍しいらしい。
「…あぁ、イルフは娘の護衛を任せているんだ。それに何故か娘のことを大変気に入っている。」
昔は、私の妻を口説いていた男だったのに、まさか娘に路線変更したのではないだろうか?…いや、流石にまだ幼い娘相手に口説く事は無いだろう…多分。
「お前の娘の護衛だと??」
少し驚いた顔したニゲルは、突然立ち上がったと思えば庭園に向かう彼に思わず呼び止める。
「お前の娘に挨拶とついでに赤い奴を見てくる」
そう言った彼は歩き出し。数分経てば、娘の泣き声に思わず娘の名を呼びながら駆け寄れば、イルフとニゲルの喧嘩が始まり。その様子をアーノルドくんが恐れ、その主人を守るルヴァル達の何とも言えない光景にカインバルトを急いで呼んで喧嘩を止めに入った濃い一日を過ごした。
アルヴァハロン:side end
■小ネタ用語説明
◆宝石獣
イルフ「あれは、宝石獣。純度の高い人間が触れると恐れる魔石を持ち、魔力を持つ獣、魔獣の一種だ。姿形はそれぞれで人語を話し、人型にもなれる賢い獣だ。」
-12話詳細-
獣といっても多種多様である。宝石獣の由来は、彼らの持つ魔石が宝石の様な美しさからそう呼ばれた。
魔石を持つ場所によって強さを表す。
瞳>角>牙>爪>その他の順になっている。
人型になると瞳以外の魔石を持つ宝石獣は、手に魔石が埋め込まれている。
彼らは"月の森"と呼ばれる森に暮らしており、そこは純度が高い魔石が多い為、人間が簡単に入り込める場所ではない。純度の魔石に触れる事が出来るエルフが森の番人としている。