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氷柱の逃げ場と、1

 氷柱が言う地獄の日々だった過去の日。

 その記憶は理事長であるお父様の口から聞いてはいるが、氷柱自身が俺に話したいと思うまではこのことは彼には伏せておこうと思う。

 人の言葉で、暴力で傷ついた人の心を癒すのは皮肉にも誰かが言った何気ない一言であり、誰かの温もりである。

 ……人によっては一人になることで心の傷を少しずつ、治していく人もいるけど……氷柱の心を癒すには心を許せる“友人”と、地獄の日々から逃げられる場所が必要だった。


 理事長の息子だから、……そんな理由で氷柱と仲良くする訳じゃない。

 昔の自分に似ているから、氷柱を放っときたくない。これは同情か、それも違う。……昔みたいな俺のようにはさせたくないから、彼から自分が依存されてまでも……幸せを知って欲しい。

 例え、周りからその考えが偽善だと言われたとしても、氷柱が拒否しない限りは俺は甘やかし続けるだろう。誰にどう思われようと、氷柱が良くて、俺が良ければそれで良い。

 でも、俺は周りからの評価なんてとっくの昔にどうでも良くなっている。

 自分の考えが周りに理解されるなんて考えてもいないから、……だって人は必ずしも同じ考えを持ち合わせているとは限らないのだから。


 俺は周りの評価ばかりを気にしすぎても、気にしなさすぎても良くないとは思うけれど、この話だけは別だ。

 俺は自分の意志で氷柱の“居場所”になることを“選択”したんだ。

 誰かの評価でその決意が変わるほど、生半可な気持ちで氷柱にあの申し出をした訳じゃない。……あまりにも酷ければ、彼を守る体制もすでに整っている。

 あまり、学生だと思ってなめてかかると……痛い目を見るよ? と、氷柱の親に忠告しに行きたいくらいだけど、そのせいで彼に対する態度が悪い方向へ豹変されても困るので、あえてやらなかったけれども。


「あとは氷柱がそれを望むか、望まないか……その答え次第かな……?」


 そう一人、木の上で独り言を呟いていると……、ホームルーム中に俺に手を振る氷柱。そんな彼に俺は小さく振り返すと、ぱぁと表情を明るくしている。

 氷柱は本当に女の子じゃないのか、まだ不思議に思ってる俺なのだった。



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