君との4
蛍のような光が漂う、星蘭高等学校の廊下。俺は足音立てず、気配を消して校舎のとある場所へと向かっていた。
気絶したように眠る氷柱の様子は気になるが、彼のためにも“この日課”は欠かさず行わなければならないからな。
学校には七不思議があることが多いだろう。実際にこの高校にもあるし、だけど一般生徒が知る七不思議はただ一つ。
理事長室の七不思議。
理事長室はいつも無人だが、毎週金曜日の午前零時に理事長室へ行くと……何処かの空間に連れ去られ、その者は二度とこの世界に戻って来られなくなる、と言う七不思議だ。
しかし、この七不思議は人工的に作られた話。この話は全ては生徒を巻き込まないための、予防線の役割を担っている。
だが、この七不思議には真実も描かれている。「何処かの空間に連れ去られ、その者は二度とこの世界に戻って来られなくなる」と言う部分は、ほぼと言っていいほどに真実を語られているらしい。
しかし、少しだけ真実は違う。……とある物を持つ持つ者は、元の世界とその世界を行き来出来てしまうため、理事長室へと入らせないように作られたのがその七不思議だった訳。
「父親である私に久し振りにあったのに考えごとか? 感心しないな、“相変わらず”お前はいつも解せない」
と、そう言う父親である理事長に俺は淡々とした口調でこう言った。
「俺が素直な態度を取ってても気持ち悪いと、貴方に言われるのは分かりきっていることですから。それに、今日は貴方にのんびり構っている暇があるほどの時間がある訳ではないんですよ」
いつも以上の俺の素っ気ない態度に、お父様は目を見開いて驚いていた。
お父様は流石の俺でも、ウザイと感じるほどの構ってちゃんなのだが、年中反抗期な俺に構って欲しいなんて思う方が間違いなんだよね。
これ以上いると、もっとこの人は鬱陶しくなりそうだ……と考えながら、お父様が何かを言い出す前にこう言う。
「お父様、単刀直入に聞きます。柊氷柱のことなのですが……」
◇◆◇◆
俺はお父様の話を聞いて、唖然とした。……生徒の個人情報を簡単に話してしまうのはどうかと思うが、今回に関しては助かった。まあ、流石に他の生徒には話さないとは思うし、ここに来るのは後はお兄様くらいだから。
そんなことより、早く帰らないとまずいかもしれない。……もし、少しでも氷柱が俺に心を許してくれているのなら……と考えながら、俺は慌てて寮の部屋へと戻っていた。
理事長室から慌てて飛び出してから数分後、冷や汗を掻きながらなるべく音を立てずに部屋へと入ると……、お父様の話を聞いてから抱いていた嫌な予感が的中してしまった。
部屋の角にうずくまり、ひたすらに「ごめんなさい」と謝り続けている氷柱を見て、俺は慌てて駆け寄り、彼の頬を包み込んだ後、親指でポロポロと流れてくる涙を拭った。
氷柱の頬に触れたけど、彼の視界には全く俺は映っていないようで、まだ「ごめんなさい」と何度も何度も、譫言のようにそう呟いていて。
その瞬間、雲に隠れていた月が現れ、この部屋を月明かりで照らす。
月明かりが氷柱を照らした。悪夢を見たのだろうか、冷や汗を掻いていて。
パジャマの第二ボタンまで開けていた氷柱の首には、何かで締められた痕が残っていて。俺はその痕を撫でるように人差し指で触れた。
「ごめんなさい」と謝ることしか出来ていなかった氷柱は、ふと我に返ったかのように俺を彼は視界に捉えたことに思わず、頬を包んでいたもう片方の手も肩に移動させようと、頬から手を動かそうとした瞬間……。
氷柱は俺に勢い良く抱きついてきた。
「……僕は生まれてきてよかったのかなぁ。死んじゃえば良かった、一人ぼっちだったうちに。生きていたいと思ってしまう前に」
この言葉を聞いて、俺は氷柱の顔を自分の肩で隠し、壊れ物を扱うような丁寧な手つきで頭を撫で続けながら、俺は彼を抱きしめ返した。




