君との2
いざ音楽室に足を踏み入れれば、部屋中に響き渡る澄みきった綺麗な歌声。
その歌声は綺麗なんだけど、何処か切なげで。何かに苦しんでいるようで。
自分の心が手のひらでギュッと握りしめられたような苦しさを感じた。
世間では、この歌声の持ち主は所謂“エンジェルボイス”と呼ばれるような声で、彼は感情のままにその曲を歌い続ける。
彼はきっと、歌声に異能の力を授かっているのだろう。……彼の声には幻覚作用があるのだと思う、だって今俺の目に映し出されている彼の姿は、まるで少女の精霊の姿だから。
だけどね、視覚は万能じゃない。……幻覚に惑わされることは仕方がないことだと思う、俺が彼の姿を正しく認識出来たのはたまたま幻覚作用が効きづらい体質だっただけだけど。
この歌声の持ち主が、俺が一度も会話したことがない同室、柊氷柱だとわかったのは偶然じゃないような気がするんだ。
だからこの歌を聴き終えたら、柊に声をかけようと決意した瞬間……、
「菊水くんがどうしてここにいるの?」
そう聞いてくる柊の声がして、俺は彼の目の前まで近寄った後、俺はこう言った。
「音楽室が気になったから。……それにしても柊、とても綺麗な歌声だな」
そんな俺の言葉に柊は複雑な表情をしていた、……嬉しさと怒りが混ざり合ったような表情を……。
そして柊は言う。
「僕を柊とは呼ばないで! ……僕の歌声を綺麗だと言ってくれたのは嬉しいけど」
そんな柊……否、氷柱の言葉にも声にも明らかな拒絶が含まれていた。
俺はそんな氷柱の声に悲しくなる。……だって、この声はいつも何かにとらわれている声だったから。
氷柱を放っておけない、と同情ではなく、本心からそう思った。
だって、「僕を柊と呼ばないで!」と言った柊の声は……まだ誰かを必要としていたから、まだ人を完全には拒絶してなかったから。
「異能の使い方、教えてあげようか?」
君には安心出来る居場所が必要だ。
だから俺が君の居場所になってあげる。




