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新入生代表VS学院最強

 朔は男を一目見て、只者ではないことを悟っていた。


 蒼月という名字は、学院最強の生徒に与えられる称号の意味も兼ねている。それも目の前の蒼月要という男は、歴代の蒼月でも最強と目されており、見た目も高校生離れしている。渋く鋭いその視線。バーとかに居そうだ、と朔は密かに思った。


 緊張で体を固くする朔を前に


「楽に行こうよォ、朔君♡」


 妙に間延びした猫撫で声で、目の前の男は笑った。

その不気味さに朔の全身に悪寒が走る。


「二人とも位置についてください」


 進行の声で我に返った朔。蒼月は薄気味悪い笑みを浮かべたまま一礼をして朔から離れた。

 朔もそれに習い、所定の位置に就く。


 それはまるで、西部劇の決闘シーンのようで。互いに無言。会場のざわめきもピタリと止んで、世界は完全に静止した。


「それでは、試合・開始!」


 沈黙を破ったチーフの声と同時、「  」二人の間に燐光を放つ、花びらが散った。

 否、それはガラスの破片。その証拠に一瞬遅れて不穏な、聞くものを不安な気持ちにさせる、高音質な破裂音がついてくる。どういう理屈か、何もない天井から一枚の巨大なガラス板が落下したらしい。

 その音は、戦いの幕開けを告げた。


 入学式の伝統。新入生と在校生、それぞれの代表によるガラスのハッキング勝負。お互いが舞い散る破片をハッキングし、それを以て相手に当てるという極めてシンプルな戦い。1枚でも多くハッキングした者が優位に立てるが


「「

import hack.io.FileInput;Glass

(完全な美すら儚く脆く)


dirxy oblifed translate EXceptionTest{

(幻想は土に、幻像は空へ還る)


File SiO2 to new File(111011000011100110000);

(存在するものは全て等しく)


Native zxomade region C(一):\XXXXXXXXXXXXXXXXX

(神の創造物、其はただの一つの例外もなく。)


All clear ==glasp!

(蹂躙さるべき粗製玩具!」」

 

 朔は瞬時に、ある術式(プログラム)を展開した。蒼月もまた、同様の術式を奔らせる。

 己が精神世界内(フォルダ)にて紡いだ、呪文にも似た言葉。それが変換機(コンパイラ)たる自身を通して、この世界あらゆるものを形作っているモノへと変換され、根源(サーバ)を通じて物質に作用する。


 つまりは世界のあらゆる物質の支配権を世界から自分へと書き換え、理を捻じ曲げる。


 それが干渉者(ハッカー)という存在だ。


 散らばるガラスの破片は大小合わせて47片。


「「

glasp(より多く)

glasp(より速く)

new file(迸れ!)

no exception(動け!!) 1、2、3……」」


「24!」


 勝利を決する24番目の破片を掌握したのは蒼月要だった。対する朔は23。


 そして互いに、本来落下するだけの破片を全て支配し、物理法則を無視し、相手に向けて一斉掃射する。


 破片は互いにぶつかり合い、1枚、また1枚と地面に向かって落ちていく。

 二人はそれぞれ舞い散るガラス片を操り、相手に当てることに全神経を傾ける。


 二人の一連の動作は早すぎて、常人からは突如空中に割れたガラスが、現れては散っていき、まるで空に咲く光の花のように、きっと見えただろう。


 そして、最後の1対、互いの23番目の破片が相殺された。


「ほら、行くよ朔君。24枚目(ラスト)!」


 ぶつかり合いを免れた、最後のガラス片が朔目がけて飛んでいく。


「porst(上).exe(書き)!」


 対して朔は眉ひとつ動かさず右手を掲げ、一節のプログラムを展開した。


 途端、破片は蒼月の支配から逃れ、静止。次の瞬間には元の主の顔目がけ逆走を始めた。


「な!? くッ!」


 蒼月は咄嗟に、役目を終えて落下していく欠片で迎撃すべくハッキングを試みるも、使えそうなものは全て既に朔が押さえていた。それを解析、上書き(クラック)する時間は既にない。


スッ――


 蒼月要はやれやれ、といった様子で飛来するガラス片を指さした。すると蒼月の動作を受けたガラス片は、ぱきりと音を立て、あっさりと砕け散った。


「……引き分け、かァ」


 戦いの開始と同時、朔は蒼月の側のガラス片の一つにあらかじめハッキングしておき、バックドアを仕込んでいた。そして蒼月がハッキングを終えた段階で、このバックドアを通じていわばハッキングの上書きを行った。が、蒼月は同じ欠片に自殺プログラムを仕込んでいた。朔に乗っ取られた段階でこの仕込みを発動させたのだ。


 観戦する学院の生徒に、一連の遣り取りを理解できる者が、果たしてどれだけいるだろうか。それほどまでの水準に、二人のハッキング技術はあった。


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