酷薄な真実の告白
「エマ、どうしたんだよ。エマ!」
エマは肩を抱いてうずくまっていた。唇を噛み震えるその様子に、ただならぬものを感じ、京介はエマの肩を揺さぶった。
「――――京、介。どうしてここに? もう私には関わるなと―――」
エマは突然目が覚めたかのように体を強張らせたかと思うと、京介の顔を認めた途端、狼狽し始めた。
気が付くと辺り一面炎が立ち昇り、まるで壁に囲まれているようだった。
壁によって朔と隔たれてしまったようだ。
一際強い風が吹き、雑草がざわりと音を立て、炎が揺らぐ。が、炎は飛び火することもなく、あくまで壁のようにそこにあり続けている。
「……お前が、俺の生徒証にこんなメッセージを残すからだ」
京介は端末の電源を入れ、エマに突きつけた。画面はひらがなでただ一文
――ぜんぶわすれろ
「何だよこれ!? こんなこと言われて忘れられる訳無いだろ!?」
京介は声を荒げた。何故怒っているのか、自分でも分からなくなっていた。自分の声の大きさに戸惑いを覚え、京介は言葉に詰まる。
「………」
エマは俯いて唇を固く結んでいる。
京介は躊躇いながらも言葉を探した。沈黙が続くのが怖かった。このままだと、もう二度と話せない気がした。
「あの時、俺を助けてくれたんだろ。俺、あいつらにやられそうになって」
「………」
「俺、お前が居なきゃあの時やられてたと思う。……そんな顔、するなよ。俺は助けてもらったんだ。前みたいに偉そうに、誇らしげに笑ってよ」
「………彼らは、死んだのだろう」
すこしの間があって、エマはぽつりと口を開いた。だがその声色は静かで、暗い。
「えっ?」
エマの言葉で、死んで帰ってきたという蒼月の言葉が頭をよぎった。それを悟られないように、努めて知らないふりをするも、目の前の少女は
「ふふ。お前はやはり、隠し事が下手だ」
そう言って悲しそうに少し笑い、コンクリートの空を仰ぎ見た。
その顔を見ていると胸が、痛い。
京介はたまらずに
「それは。あいつらが、いきなりナイフなんて出して襲ってくるから――」
「それでも」
京介が言い終わらないうちに、エマは手を前に突出し静止させた。
「もともと彼らは私を捕えにきていた。あのとき君を襲ったのは、殺そうと
したのではなく、任務の障害を排除しようとしたのだろう」
「だからって、いきなりナイフ出して襲ってくることはないだろ!」
「京介は学院に在籍しているくせに、ハッキングの事は本当に何もしらないんだな」
「え?」
突然学院の話が出て、京介は面食らった。エマは自嘲するようにあいまいに笑い、言葉を続ける。
「ハッキングの怖さは、悪意を持って使用した場合、簡単に人の命を奪うことができる点に尽きる。故に、銀色の魔弾は悪性干渉者を相手にする以上、常に命がけなんだよ」
「………」
何も言えなくなってしまった。京介は本当に何も知らない、ただの高校生だったから。
「そう。彼らは悪性干渉者を、つまり私を追っている。ここに来たのなら、あの死体を見ただろう? ……私は、私がブラックドール事件の犯人だ」
「―――!」
その言葉は聞きたくなかった。その言葉を、エマの口から聞いてしまうと、もうどうやっても自分を誤魔化すことはできない。
突然屋上に現れた女の子。奇妙な服装。学院外の干渉者、黒い焔。どう見ても犯人だ。確定的過ぎて、これは見え見えのミスリードだ、と自分に言い聞かせた。これが真実なら、そんな筋書きの物語は駄作の極みだ。そう、思いたかった…。でも、現実はどんな小説よりも駄作、なのか。
「分かったろう? これ以上私に関わると後悔するぞ。お前は全て忘れて、日常へ帰れ!」
そう言ったきり、エマは背を向けた。
「……せめて」
このままだと、全てが終わってしまう気がした。この時間を終わらせたくなかった。
「せめて、理由を教えてよ! このままハイさよならじゃ、俺は納得ができない」
「お前が納得するかどうか、私には関係の無い話だ」
背を向けたままエマは言う。
「お前に関係あるかどうかなんて、それこそ俺には関係ない。このまま何も聞けないままなら、俺はずっとお前に付きまとう!」
「何だそれは? まるで駄々をこねる子供のようだ。……ック」
何故かエマはそのまま本当に可笑しそうに笑い出した。
一通り笑った後、笑い疲れたのか苦しそうにして深呼吸をして
「……そんなストーカー宣言をされてはたまらん。どうせつまらない理由だ。聞いて、さっさとどこかへ行ってしまえ、この変態男めが」
諦めたようにため息をつき、エマは雑談をするかのように努めて軽々しく、話しはじめた。




