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鮮血のヘンタイ

やっとの思いでエリア3に辿りついた京介。とりあえず、新入生がごった返していた建物に入った。

そこは玄関から本当に、人、人、人、人、人、人、人、人、人人人人人人人人人人人! 


少し行った先の掲示板にクラス分け表が掲示されているらしく、そこ中心に人だかりができている。が、なんせこの人ごみだ。掲示板にたどり着くまで時間がかかりそうだ。


「なあなあ!」

「うわっ!」


突然後ろから声を掛けられて、京介は本日2度目のビックリを体験した。

(最近は後ろからイキナリ声かけるのがはやってるのか?)


「お前、あの朔さんとダチなの? スゲエな! お前も魔術師級(ウィザード)なの? あ、でもここに居るってことは高校入学組か。でもひょっとしてすげえ能力持ってるとか?」

「いやいや。いきなり質問攻めですか? 落ち着こうよ。えっと…」

(ウィザード? 能力? 何言ってんだこいつ??)


興奮気味に喋るそいつはものすごい髪の色だった。赤って…。

男は首に、普通の学校なら完全に校則違反モノのトゲトゲチョーカーを付けている。


「ああ、俺はワイスってんだ。よろしく、京介センセイ!」

「……うん。っていうかセンセイってなんだよ。テンション高いね…」


 ワイスと名乗った赤い髪のヘンなやつはテンションを上げ過ぎていて、過呼吸に陥りそうだった。

 

 ここにいるということは、こいつも新入生だろうか? 何となく、めんどくさい奴に絡まれたな、と京介は思い始めていた。


 と、ワイスはスーハーとワザとらしく深呼吸をして…。


「いや~、超有名人の朔さんを入学早々いきなり見ちゃったからさ! もうビックリして。で、お前そんな超有名人と普通に会話してるし。これはもう、先生って呼ぶしかねーだろ!」


 また早口で一気に喋る。ワイスの言葉は興奮気味で、京介は何を言っているのか、良く分からなかったが、一つ引っかかった。


「え、朔ってそんな有名なの? 知らなかった。俺、それまで星の方の学校通ってたから、あんまりそういう事情知らなくてさ」


「有名もなにも、あの朔さんだぜ!? そんな気軽に名前を口にするなんて、一体あなた様は?」


 とワイスは大げさに仰け反った。


「朔は俺の幼馴染なんだよ。俺たち、名字なし(ノーバディ)でさ。同じ施設で育ったんだ」

「マジか。俺も名字なしで高校入学組なんよ。これも何かの縁か…ってかこの学校の生徒なら別に珍しくもないか」

「うん、それもそうだ。っとと」


 そうこうしているうちに列が進み、後ろから押される形で京介達は掲示板の前に辿り着く。

 別に何組でも関係ないのだが、妙にドキドキしつつ京介はクラス分けの表を見て――


「センセイ、俺と同じクラスじゃん!」


 ワイスは掲示板を指差し、でかい声で嬉しそうに言った。


「え、マジで? うわ、本当だ」


“xクラス”のところに、月見里京介。そして上の方に『錆月ワイス』という名前があった。


「さび、つき? お前、さびつきって名字もらったんだ。その歳で体が錆びてるってことか?」

「違げーよ。しょうづきって読むんだよ、しょ・う・づ・き! それが俺がもらった名字だ」

「しょうづき…?」


「ああ。錆月 ワイス、高校入試で晴れて名門蒼月館高校へ合格。好きな色は燃えるような赤。趣味は音楽聴くこと。好きな食べ物はカロリーフレンド(バランス栄養食品)、あとちんすこうだ! そして、俺の理想の告白シチュエーションはこうだ。

毎日仕事がキツくて上司に怒鳴られて傷ついたOLが帰宅して、真っ暗で冷え切った部屋の明かりをつける。ワンルームの自宅。

少し開いた窓から入る風は冷たく、彼女の心を容赦なく苛む。そして彼女は涙を浮かべ、ふと思い立ち昔のアルバムを開いた。綴じられた写真はどれも笑顔。昔バカやってた仲間たちがみんなこっちを向いている。そいつらには輝かしい未来が待ちうけていたはずなんだ。けどふと今の自分を振り返ると、毎日仕事で疲れ切って恋をする暇もない。メイクもばっちり決めることもなくなった。自分はいったい何なんだろうと思いバカバカしくなってアルバムを放り投げ、PCを立ち上げつつビールの缶を開ける。いつまでも慣れないアルコールの味に顔をしかめつつ、ふとPCの画面を見るとメールが届いているが、差出人のアドレスに見覚えはない。何の気なしに開いてみると、そこには『窓の下を見てごらん』と書いてある。簡素で奇妙なメールだが、現実に嫌気がさしていたこともありどうなってもいいやと思って半ばヤケで窓を開けて下を見るとそこにはあの思い出の写真の中で彼女の隣に写ってたヤツが立っている。そいつは昔彼女が淡い想いを寄せてた男。それが俺なんだ! で、俺はこうメールを送る。『ゴメン。ずっと君を見守っていたけど…悲しんでいる君を見てほっとけなくなった。あのころ見ていた輝かしいセカイをもう一度見せてやるよ』って。彼女は大粒の涙を流してコクリとうなずくんだ。そしてもう一度窓の下を見ると俺はいない。そこに再び俺からのメールが届く。『俺、ワイス。今ドアの前に居るよ』。彼女はドアノブに手を掛け、幸せをその手に…って痛っ!」


 我慢できずに京介はワイスにチョップをお見舞いした。


「長いよ! それにずっと窓の外で見守ってたって、君、ストーカーになってるよ! しかも最後ちょっと怪談っぽくなってるよ!」

「ちげーよ! 俺はただ純粋にその娘を見守ってたいだけだ!」

「ストーカーはみんなそう言うんだよ! はあ、もういい。お前がどんなヤツかはよくわかった…。かなりの変態とお見受けするよ」

「そうか? いや、俺なんかまだまだだって」


 と、照れくさそうにワイスは頬を掻いた。


「って何照れてんだよ…。まあいいか。これから入学式だからホールに移動しよう。情報処理科の生徒はエリア5の大ホールだってさ」

(なんで謙遜してるんだ? 訳分かんねーよもう流しとけ。)


 京介は、その髪と同じ色に頬を染めているワイスに呆れ気味に返し、歩き出した。


「ああ、っとそうだ。同じクラスなわけでこれからよろしくな、センセイ!」


 ワイスはごく自然に、笑顔を浮かべて右手を掲げた。その顔はまさに青春を絵に描いたような爽やかなものだ。京介は思った。こいつはヘンタイだが悪いやつじゃないかもな、と。


「よろしく、ワイス! ってセンセイはホントに勘弁してよ…」


 ふたりはこの時、漢の握手を交わした。なお、この時一部の女子はふたりに特殊な熱い視線を送っていたとかいないとか…。


 それから二人はエリア5を探して、再び広い校内をあてどなくさまよった。


 ちなみに道中ずっとワイスにちんすこうがいかに素晴らしいかを延々聞かされ、京介はちんすこうが嫌いになりそうだったという…。


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