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落下

 俺、斉藤龍馬は一度死んだ。

 理由は忘れたけど、一度死んだ。

 何故か、死んだ理由だけでなく、自分の名前と社会常識以外の全てが思い出せない。死因が関係しているからだろうか。

 とにかく、俺は死んだ。


 だが、ある神の気まぐれで生き返ることになった。ただし異世界でだ。


 なんかポイント制で好きな能力を選ばされた。ただし、『功罪誘発』とかいう意味不明な明らかに余分な能力を与えられた。


 そして今。

 何故か落ちている。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 正確な高さは分からないが、近くに見える山が俺とだいたい同じくらいの高さか!?

 百メートルは超えているよな。


 って、パラシュート無しでスカイダイビングして大丈夫なのかよ!


 このまま地面に激突するぞお! 


 下の方、ちょうど森の開けた場所っぽいんですけど!


『心配するな。見たところ下の地面は湿地帯。普通の地面よりはダメージは少ないだろう。お前は神に転生させられたことで肉体の強度が上がっている。間違っても死なん。骨が折れたところで、我が回復力でたちどころに元通りだ』


 だ、誰!?


 今、誰もいないのに声が聞こえたような気が!?


『俺だよ、俺。お前の中にいる龍さ。神の勧めてきた能力を受け入れたろう? 俺という存在はそのオプションさ。簡単に言えば、「龍神格化」という能力を得ることでお前は魂の深淵に怪物を飼ったってことさ』


 な、何、それ?

 そんなの神様に聞いてないけど。


『あの神、俺という存在を端折りやがったんだ』


 は、端折ったあ!?

 本当にいい加減な神様だな、おい!


 と、とか言っている間に、じ、地面にぶつかるー!


「ずおぶ!」


 あれ、思ったより痛くない。


 ちょっと転んで倒れたくらいの痛みだ。


『だから言ったろうが。お前の体は俺を魂に宿すことで強化されている。現在、戦闘経験皆無の時点で、お前と互角以上に戦える存在などこの世界には十三体しかいない。四大竜王と二大竜神を含めても、二十もいねえんだぜ?』


 よ、四大竜王?

 二大竜神ってのも何だ?


『簡単に言えば、この世界の神様だよ。まあ、陰陽龍は封印されているはずだし、聖霊龍の方も異空間で世界を傍観しているってところだろ』


 随分、この世界の事情に詳しいんだな。


『そりゃそうさ! 俺の原型となった存在は元々、この世界の出身なんだからな。俺はその「原型」の遺体から魂を抜き出され、一つの「能力」として固定されちまったんだ。まあ、こうして人格が出来たのは副作用みたいなもんだろ』


 ふうん。

 じゃあ、ここがどこかも分かるのか?


『ああ。お前らの感覚で言うと、北半球の西部だな。でもこの辺りの気候は雨季しかねえ。今みたいに晴れている時もあるが、基本は雨だ。だから周囲には湿地帯しかねえ』


 あそこに見える山は?


『ありゃ水を吸わない特殊な岩石で構成された山なんだ。この地帯では唯一の山さ。雨で養分流されるから木は生えない。だから、この地帯には人が少ない。いても少数民族の「ライニ族」だけだ』


「じゃあ、まずはその人達を探そうか」


 立ち上がるが、体中を激痛が襲う。


 さすがに龍神様の肉体強化や再生能力があっても、あの高さからの落下はまずかったか。


「そういやお前、名前は?」


『好きに呼べよ。「原型」の名前を使ってもいいが、「原型」と俺は全く別の存在だからな。恐竜と鳥比べるようなもんだ』


「そっか。じゃあ、俺が元いた世界にちなんで、『アース』って名前でどうだろう?」


『いいんじゃね? お前の名前は?』


「斉藤龍馬。十八歳。それ以外のことは、覚えてない」


 死ぬ時に頭にダメージでも負ったらしいな。確証はないんだけど。神も知らないって言っていたしな。


 まあ、あっても意味ないか。どうせこの世界で生きていくんだ。こういう異世界トリップの物語では元の世界に戻ることを第一目標にすることもあるが、生憎、俺が味わっているこれは、そういうタイプではないようだし。


 何せ、一度死んでいるんだから。


 と、人が物思いに耽っていたら、アースがおどけるように声を掛けてきた。


『さてさて。我が相棒よ、とりあえずだ。あれをどうにかしようか?』


 しかし、あれだな。魂から声が聞こえるのって気持ち悪いな。思念波って奴? よく知らんけど。


「あれって?」


『あれだよ、あれ。右見ろ』


「右?」


 言われるがままに右を見てみた。


「グルルルルル……!」


 明らかに猛獣っぽい何かがいた。


 全長は象くらいあるな。ライオンみたいな毛の生えた、でかいトカゲって感じの生き物だ。

 口から牙をむき出しにして、涎が止めどなく溢れている。血走った眼はこちらを睨んでいた。


「って、モンスターじゃねえか!」


『この世界の第三級猛獣、「ライイル」だ』


「第三級!?」


 このでかさで!?


「た、戦うしかないか」


 いきなり初戦かよ! せめて村人Aと会話してから戦いたかったぜ! 傷薬的なものはねえの? ないよね!


 まあ、いいぜ! 俺には神から与えられたスキルが…………ん?


「……なあ、アース」


『何だ、龍馬』


「お前さ、俺の他の能力、『全能制覇オールブック』や『功罪誘発トラブルメーカー』についても知っているか?」


『ああ、知っているぜ。でも、そんなに詳しくは知らないぜ。同じ神が創造した能力だけど、違う神が創造した能力でもあるんだ。と言っても、どっちも単純な能力だからそこまで説明は必要ないけどな』


「うん。俺もそんなに詳しく聞く気はなかったよ、でさ、俺の『全能制覇』だけど、あれさ、つまり俺って今、覚えている能力ゼロの状態なんだよな?」


『だな。何せ、始めたばっかりなんだから。それと、お前のその能力でコピー出来るのはあくまで人間族か亜人族、魔族の使った魔法や超能力、武術だ。目の前の怪獣が火を吹いても、それはコピー出来ないぞ』


「それから、お前の能力だけど暴走するんだよな」


『ああ。今のお前はまだ弱い。それなりに強いが、俺を使いこなすにはまだまだ弱過ぎる。今使えば死ぬまで暴れ回って死ぬだろうな』


「今、俺手ぶらだな」


『そりゃな』


「つまり、あれだ。あの化け物、素手で倒すしかないってことか?」


『そういうことになるな』


「そうかそうか……って、出来るか!」


 前世の記憶はねえけど、俺のこの体格を見る限り、俺、喧嘩とかしたことねえよ! しかも初っ端の相手が何であんな凶暴そうなトカゲなんだよ! いかついよ、あいつ! よく見れば、体中傷だらけじゃねえか! 猛者だよ、猛者! 連戦を生き延びた猛者だよ!


『つべこべ言うなよ、相棒。さっきも言ったろう? お前は現時点で世界トップクラスなんだぜ? あんなトカゲ、楽勝だ』


 いや、それはお前が言っているだけで、本当にそうとは……って! トカゲがこっちに突進してきやがった!


「グラアアアアアアアア!!」


「う、うおおおおおおおおお!」


 こうなりゃヤケクソだ! 殴り殺してやるぜ! 俺が噛み殺されない内にな!


 俺は拳を振り回した。


「グラ!?」


 手に何かがぶつかった確かな感触。


見れば、あの凶暴そうなトカゲが宙を舞っていた。


 ズシン!


 地面に墜落。体を痙攣させていて、動きそうにない。


『な? だから言ったろう? パワーのごり押しで、お前は第二級までなら無傷で倒せる。相性にもよるだろうがな』


 アースは自分のことのように自慢げだ。実際、自分のことのようなものだから当然と言えば当然なのかもしれない。

 このパワーは間違いなく、アースのものなのだから。


 対して、俺は呆気に取られていた。


『ともかく、これからよろしくな、相棒』


「ああ……。これからこのパワーに滅茶苦茶に振り回されそうだけど、よろしくな、相棒」


 順風満帆で前途多難な人生の幕開けは、『トカゲを一発KO!』から始まった。



■■■


「あ」

「どうしたよ、青いの」

「うん、緑の。新しい竜が来たみたいだよ」

「……竜が来だと?」

「わーいわーい。仲間が増えるよー」

「うるせえぞ! 黄色いの」

「どんな竜?」

「赤いのみたいに赤い? 青いのみたいに青い? 僕みたいに黄色? 緑のみたいに緑? それとも黒さんみたいに黒い? 白さんみたいに白い?」

「いいや。無色透明みたいだ」

「無?」

「それじゃまるで、『あいつ』じゃねえか」

「『あいつ』の同類だと?」

「それは嫌だな。仲間じゃないね。どうする? 殺す? 生かす? しばらく見てみる?」

「殺そうぜ、殺そう。どうせ俺達とは分かり合えない」

「しばらく、見守ろうよ」

「世界が狂い出すかもしれんぞ?」

「その時はその時だよ。僕らが、新たなる英雄を作ればいいだけの話だ」

「今の世界に、頃合の人間はそんなにいねえぞ?」

「あれ?」

「どうした、黄色いの」

「あの三人は何?」

「あれは、何だ? この世界の人間ではないようだが」

「おお! 一つは赤いじゃねえか! 気が合いそうだ! あとの奴もお前好みっぽくねえか、青いの!」

「わーい、あの女の子可愛いよー」

「期待出来そうだな」

「うん。そうだね。彼らは希望だ。だけど、新しい龍もまた希望なんだ。彼ら以上に、彼は希望だ」

「同時に絶望でもある。か?」

「うん。だからこそ、見守りたいんだ」

「青いのらしいね」

「ああ。僕らはいつだって僕らさ。だからこそ、この世界を任されたんだ。今は亡き、純白と漆黒からね」

「そうだな」

「そうだね」

「そうだな」

「そうさ」


「「「「神よ、彼らに我らの加護を与えんことを」」」」


 それは、この世界を守護する偉大な生物達の会話。


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