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恋愛脳のせいでシリアスが台無し

室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!

https://hatuyuki-ku.com/?p=707

 死者が安らかに眠るはずの広大な墓地の一角で、ゾンビたちが円で囲む。


 青空の下で、冒涜的な光景。


 その外縁から悠々と現れた男は、ゆっくりとフードを外した。


 しわがれた声にも関わらず、20代半ばの青年。


「えっ?」


 あまりに意外で、シャーリーの声が漏れた。


 そちらを一瞬だけ見た青年は、纏っていたローブを捨て去る。


 美男子ではないが、イケメンと評されるランク。

 おまけに、軍服のような長袖と長ズボンだ。


 アイロンをかけたばかりのように、輝いている。


(まるで、死んだ戦友を悼みに来た若手の軍人……)


 白銀のプレートアーマーを身に着けたままの室矢(むろや)重遠(しげとお)は、まだ動かない。


 黒幕らしき青年は、変声期を使っているように若々しい声となり、自己紹介。


「あーあー……。円卓の皆さま、お久しぶりです! フフフ! ワシ……僕は気にせぬが、こちらのほうがいいか」


 経験豊富なレノックスは、主導権を奪いにかかる。


「貴殿が、我らの従騎士3人を殺したうえにゾンビとしたのですな?」


「ハハハハ! 今の円卓は、ボケ老人を派遣するのかい? 見れば、分かりそうなものだが……。ああ! 僕こそ、偉大なる死霊術師のドゥクスだ! 貴様らが呼ぶときには、敬称を忘れるなよ?」


 それぞれに背中を預けつつ、周りのゾンビを警戒している、重遠たち。


 ちょうど、重遠がニヤニヤしている青年と向き合っている構図――


「黙りなさい、ドゥクス!」


 青年の背後から、人形のような少女が姿を現した。


 ストレートの金髪ロングで、白い肌。


 美しい造形だが、無表情。

 その青い瞳は、中心で外向きの円陣を組む面々を見上げた。


 重遠たちが写真で見たような、クラシックな黒ドレスを着た女子中学生……。


 スカートの端をつまむことで球体関節の肘を見せつつ、見事なカーテーシーを披露する。


「お初にお目にかかります! 私は、アン……」


 同じ年齢に見える室矢カレナを見据えた。


「少し見ない間に、ずいぶんと神々しくなったものね? いえ、違う……」


 重遠とカレナを見比べたアンは、無表情のまま、口元をゆがめた雰囲気。


「なるほど……。気に入った! その男をくれれば、あの娘につけた死の刻印をなくしてもいいわよ? 今までの所業も、それで許すわ」

「何を言っている!? 貴様、裏切るのか?」


 驚くドゥクスに対して、アンは冷めた視線を向ける。


「このドレスを仕立てたぐらいで、満足するとでも? 私がいなければ、この墓地の片隅でひっそり暮らすだけのくせに」

「黙れ! 僕の死霊術は完璧だ! 見ていろ……。今に、こいつらも忠実な手下に――」


 戦闘機が加速して、空気の壁を突破したような轟音が鳴り響いたかと思えば、周りのゾンビどもが空高くに舞い上がった。


 重力に引かれて、硬い地面で砕かれる。


 右拳を振り抜いたままの重遠は、ガントレットの一部になっている腕をガシャリと引く。


 大きく空いた包囲に、周りを見たドゥクスは、後ずさる。 


「くっ! そ、その程度で……。すぐに補充すれば――」

「次は、あなたの名前を聞かせてもらうわ♪ ごきげんよう」


 艶っぽい声。


 重遠を見ながら告げたアンは、隠し持っていた大型のリボルバーを自分の側頭部に突き付けて、躊躇わずにトリガーを引く。


 ダアンッ!


 少女の頭が、横に跳ねた。


 その勢いのまま、横から地面に叩きつけられる。


「はあっ!?」


 間抜けな声を上げたドゥクスが抱き起こそうとするも、アンは人形のように風化していき、塵となった。


 その瞬間に、重遠たちを倒すべく地面から這い出たゾンビたちが一斉に倒れ伏す。


「ぐうっ……。がああああっ!」


 苦しみ始めたドゥクスは、見る見るうちに骨と皮だけの爺さんへ。


 しわがれた声で、忌々しげに言う。


「ワ、ワシには、核爆弾があるぞ! 何かあれば、すぐ起爆するだろう……」


 苦し紛れとしか思えないが、その可能性をゼロにすることも難しい。


 重遠たちが迷っている間になけなしの力で新たなゾンビを生み出し、そいつらに担がれつつ、離れた洞窟へ消えていく。


 残ったゾンビをやっつけたシャーリーが、長いハルバードの先にある斧の部分を地面に下ろした。


「はあっ……。どうするの? うちの応援を呼ぶか、軍に要請する?」


 シャーリーは、突撃する気がないようだ。


 その師匠であるレノックスも、左腰の鞘にソードを納めつつ、悩む。


「参りましたな……。十中八九、ブラフでしょうが」


 たとえ1%でも、爆発したら100%。


 取り返しがつかない。


 これまで把握していないだけに、慎重な対応――


「洞窟と外には、人や建造物がありません! テオフィル、あなたの力を見せるときですよ?」


「お任せください……」


 洞窟まで、かなりの距離だ。


 少し前に歩いた重遠は、白銀のプレートアーマーがこすれる音と共に、両足の幅を広げた。


 足元を固めたことで、両手が独特な動きを見せる。


 首をかしげたシャーリーは、ぽつりと呟く。


「え? こんな距離で、何をするの?」

過去作は、こちらです!

https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31

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