師が師なら、弟子も弟子
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
https://hatuyuki-ku.com/?p=707
ブルックウッド墓地。
ロンドンから列車ですぐに行ける、広大な共同墓地だ。
元々は遺体が入った棺を安置する車両と会葬者や遺族を乗せる専用列車だったが、空襲などの理由で廃止され、現在は別の鉄道会社が普通列車を走らせている。
主な宗派の区画があり、軍人の埋葬も……。
今では廃線となった、死者のための線路跡を走り続けている人影が3人。
それぞれに動きやすいアーマーを身に着けていて、若い男2人、若い女1人。
ガシャガシャと金属がこすれる音、地面を削る音が続くも、そのスピードは自動車並み。
円卓の騎士の見習い、従騎士だ。
上からの月光と星の輝きで、頭を保護している飾り、両肩や上半身、両腕を覆っているアーマーの鈍い輝きだけが見えるが、どれも古ぼけている。
細かいヒビ割れ、あるいは、欠けている部分も……。
男2人が横並びで並走しつつ、その後ろに女が走っている。
女は、男たちの背中に叫ぶ。
「ねえ! やっぱり、マスター達と合流したほうが!」
「スマホが通じる場所まで戻っている時間は、ねえよ!」
「あの人形を見失った! 早く、見つけないと……」
先行している男たちは、どちらも止まる気がないようだ。
走っている女は、息を吐くも、警戒し始める。
「2時方向、4人ぐらい!」
その叫びで、男たちが急停止。
左腕のガントレットについている丸い盾を上げつつ、右腕でショートソードを抜く。
もう1人は、背負っていた長柄のハンマーを両手で構えた。
同じく止まった女が、左腕に固定しているクロスボウに矢をつがえる。
気づかれたと悟った集団は、廃線の脇にある暗がりから、一斉に飛び出す。
異能者のようで、一瞬で迫りつつ、銃口を向けた。
「「「死ねぇえええええっ!」」」
従騎士であっても、円卓だ。
パンパンパンと乾いた銃声が響くも、狙った場所に3人はいない。
「ギャアアアアッ!」
ショートソードで切り裂かれた不審者が、悲鳴と血しぶきを上げつつ、倒れる。
「……くっ!」
男は至近距離で撃たれるも、左腕のラウンドシールドで弾きつつ、とっさにショートソードを投げつけた。
首に刺さったショートソードで、恐慌状態に陥った不審者は、銃を取り落としつつ暴れるも、拳まで保護したガントレットの一撃で膝から崩れ落ちる。
「おらあっ!」
長柄のハンマーを振り上げた男は、上から叩きつけた。
それにビビった不審者が背中を見せて逃げようとするも、頭の上半分を凹ませつつ、滑った先の肩まで砕く。
「ガッ!」
残りの1人にも、クロスボウから数本の太矢が刺さって、ドサリと倒れ伏す。
立ち止まった従騎士は、倒れた4人の絶命を確認した。
「チッ! どいつも、ダメか」
「死霊術師をトップにしている、邪教の奴らだな……。この機会に、討伐しておくか?」
男2人に対して、女は慎重だ。
「戻ろう? 邪教の集団が待ち構えているなら、危険だよ!」
「お前は、それでいいのか? 俺たちの誓約がボロボロなのも、マスターに発言力やコネがないからだぞ?」
男は、自分が身に着けている軽鎧を指さした。
もう1人も、同意する。
「そうだ! こんな深夜に呼び出されたうえ、マスター達はウィットブレッド公爵邸で優雅に過ごしているんだろ? やってられねえ! ブルックウッド墓地が、どれだけ広いと思ってやがる。それも、この時間帯に……」
そう言われれば、女も否定しきれない。
悩んでいる女に、男たちが説得する。
「人形は見失ったが、邪教のやつらをぶっ飛ばせば、大手柄だ!」
「そうそう! こんなチャンスは、滅多にない! 褒美でまともな誓約に変えてもらうか、正騎士への昇格も早まるぜ? こんな生活とも、おさらばだ! 待機するだけの夜警じゃなく、騎士らしい仕事でな?」
人形も見つけて、壊すか滅ぼせば、ダブルチャンス。
言いながら笑う男たちに、女は息を吐く。
「危険だと思ったら、引き返そう? それだけ、約束して!」
「ハイハイ」
「心配性だな? 見習いとはいえ、誓約を身に着けた騎士が3人もいるんだぜ――」
ガサガサッ
暗がりの茂みが揺れたことで、3人はそちらを見る。
「ひぃいいいっ!」
隠れていたと思しき不審者が、顔を隠せるフードを纏ったまま、一目散に逃走。
女は、クロスボウを構える。
「私が仕留める――」
「待て! このまま、追うぞ?」
後をつければ、邪教の隠れ家に行けるだろう。
逃走した人形がいる可能性も高い。
「行くぞ!」
「おう!」
「……大丈夫かな?」
風のように走り出した3人は、逃げる不審者を追う。
◇ ◇ ◇
朝日を見られるぐらいの時間に訪ねてきた執事は、真顔だった。
「このような時間に訪問したこと、大変申し訳ございません……。けれど、旦那様からの厳命でして」
いつもより頭を下げた執事は、室矢カレナはジェニファー・ウィットブレッドに付きっきりで、そちらの推薦もあると告げた。
「すぐに行きましょう」
「恐れ入ります……。車を待機させていますので」
昨日の深夜とは打って変わった、低姿勢。
運転手は別にいるため、その執事に車内で尋ねる。
「何があったんですか?」
「円卓の従騎士3人が、帰ってきません! 連絡もないようで……」
どうやら、返り討ちにあったらしい。
「あなたが話せる範囲で、公爵とラウンズの正騎士たちの状況を教えてください」
「旦那様は『すぐ現場へ行くか応援を呼んで欲しい』と仰いましたが、正騎士たちはそれを嫌がったまま……。ジェニファー様もお体の具合がよろしくないようで、私たちは気が気ではありません! どうか、お願い申し上げます!」
「最善を尽くします……」
昨日の館で、言い合っているだけか!
いい加減にしろよ、あいつら!
騎士の務めは、ちゃんと果たせ!
過去作は、こちらです!
https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31




