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アドラステア王女のイングリッシュ・オープニング

元凶の女子2人を調べるため、キャンパスライフ♪

https://hatuyuki-ku.com/?p=707

(気に入らない!)


 『白い騎士』になった室矢重遠と向き合う若い男は、自身も誓約(オルコス)を身に着け、ロングソードの柄を握り直しつつ、そう思った。


 上から降り注ぐ視線の1つ、王族が集まったバルコニーに、アドラステア・リーディ・シェラフィール王女もいるはず。


 重遠と同年代に見える、エドワード。


 奇しくも、同じような白い誓約(オルコス)で、武器はロングソードだ……。


 しかし、ピカピカの新品で近衛兵のような白いアーマーを身に着けている重遠に、嫉妬を隠し切れない。


(誓約(オルコス)を管理しているウィットブレッド公爵家の令嬢を義妹にしたからといって! 貴様のような異邦人が身に着けていいものではない!)


 室矢カレナが廃品と言ったように、円卓(ラウンズ)は残された装備を使っているだけで、修繕すら碌にできず。


 いずれ力尽きる、伝統マラソン……。


 従騎士として腕がいいエドワードは、ヒビもある鎧を恥ずかしく思いつつ、自分に言い聞かせる。


(ディアグレイ男爵家で次男の俺が、アドラステア王女殿下から直々に声をかけられたんだ!)


 重遠と対戦することを知ったアドラステアが、頭を下げてのお願い。


 けれど、あなたの勝利を信じています、ではなく――


(こいつは素人だから、上手くやってください……)


 保護者のようなセリフに、ドキドキしていた気分はトーンダウン。


 その場面を思い出したエドワードは、息を吐く。


 だが、ここで接待すれば、アドラステアに貸しを作れる。


(こいつは、正騎士の待遇! それを倒したとなれば、俺の昇格も早まるだろう)


 でなければ、やっていられない。


 もしかしたら、王女殿下に招かれてのアフタヌーンティーぐらいは……。


 他の騎士から嫉妬されるし、自分が偉くなったほうが確実だ。


(どうせ、恋愛になる相手じゃない!)


 現代であろうと、ロイヤルファミリーの窮屈さは不変。


 国王になる兄に対して、それを承知したうえで傷をつけないように支えていけと周りから言われ続けた弟が嫌になっての放り投げも、ネットがある現代ならではの問題。


 悲劇を繰り返さないため、兄弟で幼いうちから遊ぶようにセッティングしたが、それでも王族という重みはある。


 平和な現代では玉座が回ってこない第二王女のアドラステアも、ラウンズの騎士として、義務を果たす。


 パブリックスクール、公務を合わせて、トリプル!


 テスト期間、サロンなどの社交が重なれば、寝る時間を削るほど……。


(親しみやすく、いつも優しい。それなのに品があって、自分が稼いだお金をラウンズに還元している……。同期の女子に聞いた限りでは、剣の腕もいいとか)


 自分の役割を果たしている王族のわりに、余裕を感じる。


 同年代の女子と比べても、異常なほど――


(今は、王女殿下の好感度を稼ぎつつ、俺の昇格だ!)


 ここで期待に応えれば、正騎士までの時間が短縮されるばかりか、自分が『王女の騎士』となれるチャンス。


 絵に描いたような王女に認められれば、まさに騎士物語。



 ◇ ◇ ◇



 バルコニーにいる騎士服のアドラステアは、男子2人を見下ろしながら、呟く。


「エドワードさんに、悪いことしちゃいましたね……」


「あなたを巡って、騎士2人が決闘することで? どうせ、あなたの騎士が勝つように依頼したんでしょ? 私の彼くん、強いですよーって」


 揶揄(からか)ったのは、第一王女のジェシカ・リーディ・シェラフィール。


 ニヤニヤしたままの姉に、アドラステアは苦笑する。


「重遠は、こっちの戦い方を知らないと思うので! たぶん、弱いです」


 肩透かしのジェシカが、呆れた。


「何をしたいの? 満座で恥をかかせたら、嫌われるだけよ!? 命は奪わないにせよ、手足の1本をもらうでしょう! あなたが『自分の騎士』と円卓会議で宣言したせいで――」

「お姉様? 重遠は、そういった心配がいりません。ただ……」


「ただ?」


 苦笑したアドラステアが、説明する。


「重遠をやる気にしてくれるかなって……」


 ロイヤルファミリーの注目を集めつつ、ジェシカは息を吐く。


「ご立派な誓約(オルコス)を身に着けているし、ユニオンで騎士の体験と……。今のラウンズは貴族同士で馴れ合っている側面が強いけど、時計塔みたいな観光地と同じにして欲しくないわね?」


 チラリと見るも、重遠の義妹である室矢カレナは、我関せず。


 肩を上下させたジェシカに、アドラステアが話しかける。


「私、チェスが得意です」

「……ええ、知っているけど?」


 首をかしげた、ジェシカ。


 クスクスと笑ったアドラステアは、息を吐く。


「ユニオンまで来てくれたから、重遠が別の国に行く必要はないと思いません?」


「あなた、ちょっと怖いわよ?」


 顔を引きつらせたジェシカが、黙る。


 いっぽう、アドラステアは微笑んだまま、顔に影が差す。


(私、待っていたんですよ? でも、あなたは来なかった……)


 1周目では、王族から廃嫡されての修道院。


 自分が育てている花々で季節を知り、空を眺めては遠い日本にいる重遠を想う。


 分かっていた。


 納得済みだった。


 わずかな時間だけ愛し合った重遠と再会することなく、没する。


(その思い出を支えに生きていくのに、人生は長すぎた……)


 明日は、きっと訪ねてくれる。


 戸惑う私を連れ出してくれるかもしれない……。


 そう思いつつ、眠りにつく。


 重遠と会えた喜びは、夢から覚めることで終わる。



 握りしめた手の中で、何かが壊れる音。


 王女として育てられたアドラステアは、そう簡単に表情を崩さない。


 だが、怒っている。


 微笑んだまま、一筋の涙。


(1周目のあなたは、自由に生きました! なら、2周目の私が好きにしても、文句は言いませんよね?)


 今のアドラステアには、超空間のネットワークと未来知識がある。


 そもそも、ユニオンの王女にして、円卓の騎士だ。


(定番のイングリッシュ・オープニングで、チェスを始めました! 躱してくださいね、重遠? できなければ……)


 クスッと笑ったアドラステアは、いよいよ戦う重遠を見下ろす。


(2周目の人生は、私がもらいます!)


 もう1人の自分の嘆きを知ったことでの、大義名分。


 そして、母国への訪問。


 アドラステアの頭の中には、重遠がユニオンで生涯を終えるまでの手順がある。


 確実に止められるのは、室矢カレナだが――


「チェスなら、負けるほうが悪いのじゃ!」


「そうですよね? フフフ♪」


 カレナにも、思うところはある。


 そもそも、男を待つことに関しては大先輩だ。


 アドラステアの気持ちは、痛いほど分かる。


 重遠にこっそり教える気もない。



 好きの反対は、嫌いではなく無関心。


 愛憎。


 ユニオンの一部である王女のアドラステアが一緒にいるためには、重遠もユニオンの一部にするしかない……。


 すぐに殺されて心中にされないだけ、ありがたく思え!



 ユニオンは、チェスで重要な役割を果たした国だ。


 そこで王女として生まれたアドラステアが、勝負を仕掛ける。


 負ければ、重遠は日本に帰れないだろう。


 ユニオンで即位した女王のエピソードを知るべきだった。


 王族と女の情念を融合させているだけあって、なかなかに凄い!


 忘れてはならない。


 どれだけ愛らしくても、親しみやすくても、リベラルに思えても、アドラステアは女王になれる立場の王女だ。


 まして、2周目で色々と考えさせられた後……。


 手段を選ばなくなるのは、当然だろう。

過去作は、こちらです!

https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31

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