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カレナが仕留め損ねた、増幅器のアン

室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!

https://hatuyuki-ku.com/?p=707

 俺たちは、高級ホテルから送迎車へ詰め込まれて、夜中の公爵邸に逆戻り。


 うろんげな視線を向ける執事に案内された先は、敷地内にある倉庫だった。


 制服の警察官と、刑事らしきスーツ姿の男たちが、日本と同じような鑑識による調査をしているようだ。


 カシャッ! とデジタルカメラの動作音や光が響く、薄暗い倉庫の最奥。


 周りにスタンドで設置したライトで照らされ、映画やドラマの撮影現場のようでもある。


 スーツを着た中年男が、ここの主らしき初老の男に話しかけた。


「私たちは、これで失礼します! 何かありましたら、ご連絡を」


「うむ、ご苦労……」


 昼に会ったウィットブレッド公爵だ。


 覇気がないのは憂鬱になる倉庫だから、と言い切れない。


「撤収だ! 現場は、公爵家にお任せする。ここの私物と機材を間違えるなよ?」


「了解!」

「準備、できました!」

「第二小隊、警戒しつつ移動する!」


 警官の一行が機材をまとめて、設置したライトと、いくつかの目立つマークだけに……。


 一部の警官がこちらを見るも、立ち止まらず。


(有名な、スコットランドヤードか……)


 推理小説でよく出ていたが、実物は初めてだ。


 普通の警官は、銃を持たない。

 市民からの反発で、その意向をくんだ歴史があるようだ。

 腰のホルダーに収まっているのは、ペッパースプレーや、テーザーガン。


 いっぽう、ボディアーマーと短めの小銃を両手で構えたまま銃口を下げている、特殊部隊みたいな警官も。


(凶悪犯を処理する武装警察? ここに、それだけの危険があると)


 ドカドカという足音が、出入口へ遠ざかっていく。



 警察が調べていた場所には、いかにもな魔法陣。


 中央に置かれているのは、上の蓋が開かれたままの棺。


(サイズは小さいが、棺だろう……)


 入るのは、小柄な子供か、大きめの人形ぐらい。


 高そうな木材で作られており、入れ子のようにもう1つの棺がある。


 よく見れば、2つの棺の間にガラスのような物体も――


「これは、封印じゃ……。外側の棺が黒檀(エボニー)で、内側の棺は鉄樫(アイアンオーク)。どちらも、魔力を吸う! その間にあるのは水銀ガラスで、やはり中に入れた物の影響を遮断するため……。ソロモン系として、私がやった」


 室矢カレナだ。


 聞けば、厳重に封印したらしい。


「お前が? 中には、いったい何が――」

「カレナァアアッ!」


 初老の男の絶叫が響き渡り、その年齢とは思えぬ力で、カレナの襟をつかみ上げた。


 低身長のカレナは、成すがまま。


 両手で絞り上げられた状態で、空中にプランプランと浮かぶ。


 平然としているカレナに対して、ウィットブレッド公爵は顔が真っ赤だ。


「貴様のせいでっ! ジェニーに何かあれば、絶対に許さんぞ!?」


 持ち上げられているカレナは、静かに告げる。


「お主が説教を望むなら、それも良かろう……」


 人形のような顔で見つめられた公爵は、ハッとする。


 周りの視線に気づいたようで、カレナを床に置く。


 気まずそうな公爵に、彼女が見上げる。


「ジェニファーは、私の家族でもある! お主が、私をまだウィットブレッド家の者と見なせば……」


「すまん……」


 昼とは全く違う、素の表情で、ウィットブレッド公爵は頭を下げた。


 周りの召使いが動揺する気配。


 カレナの声。


「私は嬉しいぞ、ルパート? お主が、娘を心配する父親で……。ヤードは頼りにならん! すぐに説明するが……」


 わざとらしく言葉を切ったカレナは、周りを見た。


 頷いた公爵が、確認する。


「この場であることが、必要か?」


「いや? 再封印する場合に必要だから、備品の紛失はするな! それだけじゃ」


 カレナの返事で、密談に向いている部屋へ移動する。



「あの棺に封印されていたのは、少女の姿をしたビスクドールじゃ!」


 カレナは、観光案内か、博物館の学芸員のように説明した。


 長い金髪に青い瞳、白い肌をした、女子中学生のような人格の怪異。


 名前は、アン。


「カレナ? そいつは――」

「お主が想像した女とは、無関係だ! ずっと封印されていた奴だぞ?」


 何もない空間から取り出したかのように、指2本ではさんだ写真を差し出す。


 受け取った公爵は、ソファの後ろにもたれつつ、古ぼけた写真を眺める。


「こいつか! ジェニーに働きかけて、封印を破らせた……。なぜ、当時に滅ぼさなかった?」


「ほぼ不可能だったから! アンは、愛称だ……。正確には、アンプリフィカートォ」


「増幅器……。何だ、それは?」


 さすが、公爵。


(ラテン語に即応した……)


 そう思っていたら、カレナに戻された写真が、今度は俺に。


 時代を感じるものの、清楚系で幼さが残る美少女。

 クラシックな黒ドレスで、両肘は球体関節だ。


 カレナの姉妹のようだ、と感じる。


「アン自体は、そこまでの脅威ではない! だが、やつは他の怪異をブーストするのじゃ! そして、自分のコピーをどんどん作る。『本体を叩けば、他が一斉に滅びる』というわけにもいかん……。スリープに入ったコピーに対しては、私も感知できるとは限らん」


 悩み始めた公爵が、問いかける。


「逃げたやつは、その時の本体だったと?」


「そうだ! アンを解放したジェニファーをすぐに殺さなかったのは、楽しんでいるのだろう。死の刻印を刻み、私を悩ませることで……」


 カレナの推理に、公爵はため息をついた。


「猶予は?」


「私がジェニファーについて、引き伸ばす! 代わりに、重遠(しげとお)を出そう。あやつが私たちの役に立とうと倉庫に入ったのは、事実じゃ」


 ようやく落ち着いた雰囲気になった公爵は、チラリと俺を見た。


 すぐに、カレナへ向き直る。


「彼の実力は知らんが……。気持ちだけ、受け取る! もう連絡を済ませているゆえ、専門の部隊に任せよう」


 眉を上げたカレナは、苦笑する。


「ほう?」


「円卓の騎士……。円卓(ラウンズ)だよ!」


 一気に、不安になった。


 ちょっとだけ期待した俺の気持ちを、どうしてくれる?

過去作は、こちらです!

https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31

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