ウィットブレッド公爵家は、カレナの実家
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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「申し訳ないが、即答できん……。次の予定があるゆえ、失礼する! この館にゆっくりしてもらって、構わんよ?」
上品な身なりをした初老の男は、にこりともせず、向かいで立ち上がった。
彼の後ろで控えていた執事やメイドが、動き出す。
男と正面で向き合ったまま、俺も立ち上がる。
「お時間をいただきまして、ありがとうございました!」
頭を下げれば、初老の男は立ち止まる。
「室矢くん……だったね? 東洋人でこちらの魔術師とは、珍しい! 我がウィットブレッド公爵家も代々、そういう魔術を扱ってきた。現代は、もう下火だがね? 貴族のたしなみと考えてくれ。公爵家の令嬢であるカレナの紹介ゆえ、君の素性や実力は疑わない。だが、爵位をホイホイと与えるわけにもいかん!」
「はい、浅慮でした」
俺の返答に、ウィットブレッド公爵は息を吐いた。
「爵位で身を守ろうとしたのは、間違っていない! 東洋人が欧州のボーディングスクールで暮らすとなれば……。ロンドンは、オカルト関連の場所が多い。観光をしたら、どうかね? お詫びと言っては何だが、ユニオンに滞在している間の費用は我が家で持つ」
「重ねてお礼申し上げます、公爵」
頭を下げた俺に、では失礼する、という声で、去っていく気配。
パタンと、大扉が閉められた。
頭を上げた俺は、脱力しながら、ソファに座り直す。
向かい合っている、長い金髪を夜会のようにアップで金色の瞳をしている女子が、座ったままで会釈。
「申し訳ございません、室矢さま! その……。お父様も、あれで考えていますから」
「ウィットブレッド様のご配慮、ありがたく思います」
俺は、アタフタとする令嬢を見返した。
(ジェニファー・ウィットブレッド……)
ユニオンの貴族として、今でも存在感がある、ウィットブレッド公爵家の娘。
1周目では、留学生の1人として、浅からぬ縁があった。
今は、もちろん他人。
(この様子だと、2周目だな!)
傍から見れば、初対面で外国人の俺に親しげ。
(それも、日本人に対して!)
壁際にいる執事やメイドは、俺に値踏みする視線だ。
その雰囲気を察した室矢カレナが、話しかける。
「ジェニファー? 私が無理を言ったからな……。ダメ元じゃ」
「カレナは、どうするつもりですか? お父様も許可しましたし、ウィットブレッド家の者として歓迎しますが」
苦笑したカレナは、首を振る。
「ありがたいが、遠慮する! 重遠といるのでな? お主に変な噂が立ったら、マズい。ロンドンで、ここにも立ち寄りやすい高級ホテルに宿泊したいが?」
父親が費用をもつと豪語したことで、ジェニファーは笑顔で頷く。
「構いません! すぐに、全員分の予約を」
「……はい、お嬢様」
担当らしきメイドが会釈して、こちらの人数などを聞き、静かに立ち去る。
しばらく話して、ホテルの予約がとれた報告を受けたら、俺が帰ることを告げた。
◇ ◇ ◇
ジェニファー・ウィットブレッドは、洋館の自室で、ため息をついた。
(まったく……。わざわざ、ヨーロッパへ来るとは!)
1周目でも、ユニオンを揺るがすほどの騒ぎだった。
現地へ来たとなれば、国が滅んでもおかしくない。
とはいえ、ウィットブレッド公爵家に代々いたカレナの願いを撥ねつけた。
(少しは、役に立っておかないと……)
今のカレナが機嫌を損ねただけで人を殺すとは思わないが、罪悪感を抱く。
立ち上がったジェニファーは、父親の許可を得ることなく、敷地内にある魔術関連の倉庫に立ち入る。
コツコツコツ……。
今は蛍光灯やLEDがあるものの、念のためにスマホや懐中電灯を携帯。
かび臭い古書、触ったら崩れそうな巻物、いかにも儀式に使いそうな置物。
通路のスペースをはさみ、左右に金属のラックが壁のように並び、それらを展示している。
(代々の当主は、倉庫に入れるだけ……)
目録はあっても、照合や、由来のリサーチをせず。
ハンカチで鼻と口元をおおったジェニファーが、薄暗い空間を足早に進む。
けれど、片手で口を押えている彼女は、少女の声を聴く。
『こっち……』
ビクッとしたジェニファーが立ち止まり、空いている片手で懐中電灯のスイッチを入れた。
丸い光が、薄暗い倉庫の棚と、そこに100年は鎮座しているものを次々になめまわす。
「誰ですか!?」
ジェニファーは、出口へ走り出すべきだった。
けれど、公爵令嬢としての所作や矜持が、それを許さない。
もしも迷い込んだ人物がいて、助けを求めたなら……。
『こちらに、来てください』
ビクビクしながらも、声がした方向へ丸い光を向け、歩き出す。
倉庫の奥。
極限状況のジェニファーは、床に描かれている六芒星と五芒星の魔方陣に気づかない。
円周には、ラテン語、または古英語で何かが書かれている。
中央には、小さな棺のような物体。
黒檀による木箱に、赤い紐と黒い紐で縛ってある。
『ここから、出して?』
女子中学生ぐらいの声が、ジェニファーの頭の中で響いた。
過去作は、こちらです!
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