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ウィットブレッド公爵家は、カレナの実家

室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!

https://hatuyuki-ku.com/?p=707

「申し訳ないが、即答できん……。次の予定があるゆえ、失礼する! この館にゆっくりしてもらって、構わんよ?」


 上品な身なりをした初老の男は、にこりともせず、向かいで立ち上がった。


 彼の後ろで控えていた執事やメイドが、動き出す。


 男と正面で向き合ったまま、俺も立ち上がる。


「お時間をいただきまして、ありがとうございました!」


 頭を下げれば、初老の男は立ち止まる。


「室矢くん……だったね? 東洋人でこちらの魔術師とは、珍しい! 我がウィットブレッド公爵家も代々、そういう魔術を扱ってきた。現代は、もう下火だがね? 貴族のたしなみと考えてくれ。公爵家の令嬢であるカレナの紹介ゆえ、君の素性や実力は疑わない。だが、爵位をホイホイと与えるわけにもいかん!」


「はい、浅慮でした」


 俺の返答に、ウィットブレッド公爵は息を吐いた。


「爵位で身を守ろうとしたのは、間違っていない! 東洋人が欧州のボーディングスクールで暮らすとなれば……。ロンドンは、オカルト関連の場所が多い。観光をしたら、どうかね? お詫びと言っては何だが、ユニオンに滞在している間の費用は我が家で持つ」


「重ねてお礼申し上げます、公爵」


 頭を下げた俺に、では失礼する、という声で、去っていく気配。


 パタンと、大扉が閉められた。


 頭を上げた俺は、脱力しながら、ソファに座り直す。


 向かい合っている、長い金髪を夜会のようにアップで金色の瞳をしている女子が、座ったままで会釈。


「申し訳ございません、室矢さま! その……。お父様も、あれで考えていますから」


「ウィットブレッド様のご配慮、ありがたく思います」


 俺は、アタフタとする令嬢を見返した。


(ジェニファー・ウィットブレッド……)


 ユニオンの貴族として、今でも存在感がある、ウィットブレッド公爵家の娘。

 1周目では、留学生の1人として、浅からぬ縁があった。


 今は、もちろん他人。


(この様子だと、2周目だな!)


 傍から見れば、初対面で外国人の俺に親しげ。


(それも、日本人に対して!)


 壁際にいる執事やメイドは、俺に値踏みする視線だ。


 その雰囲気を察した室矢カレナが、話しかける。


「ジェニファー? 私が無理を言ったからな……。ダメ元じゃ」


「カレナは、どうするつもりですか? お父様も許可しましたし、ウィットブレッド家の者として歓迎しますが」


 苦笑したカレナは、首を振る。


「ありがたいが、遠慮する! 重遠といるのでな? お主に変な噂が立ったら、マズい。ロンドンで、ここにも立ち寄りやすい高級ホテルに宿泊したいが?」


 父親が費用をもつと豪語したことで、ジェニファーは笑顔で頷く。


「構いません! すぐに、全員分の予約を」

「……はい、お嬢様」


 担当らしきメイドが会釈して、こちらの人数などを聞き、静かに立ち去る。


 しばらく話して、ホテルの予約がとれた報告を受けたら、俺が帰ることを告げた。



 ◇ ◇ ◇



 ジェニファー・ウィットブレッドは、洋館の自室で、ため息をついた。


(まったく……。わざわざ、ヨーロッパへ来るとは!)


 1周目でも、ユニオンを揺るがすほどの騒ぎだった。

 現地へ来たとなれば、国が滅んでもおかしくない。


 とはいえ、ウィットブレッド公爵家に代々いたカレナの願いを撥ねつけた。


(少しは、役に立っておかないと……)


 今のカレナが機嫌を損ねただけで人を殺すとは思わないが、罪悪感を抱く。


 立ち上がったジェニファーは、父親の許可を得ることなく、敷地内にある魔術関連の倉庫に立ち入る。


 コツコツコツ……。


 今は蛍光灯やLEDがあるものの、念のためにスマホや懐中電灯を携帯。


 かび臭い古書、触ったら崩れそうな巻物、いかにも儀式に使いそうな置物。


 通路のスペースをはさみ、左右に金属のラックが壁のように並び、それらを展示している。


(代々の当主は、倉庫に入れるだけ……)


 目録はあっても、照合や、由来のリサーチをせず。


 ハンカチで鼻と口元をおおったジェニファーが、薄暗い空間を足早に進む。


 けれど、片手で口を押えている彼女は、少女の声を聴く。


『こっち……』


 ビクッとしたジェニファーが立ち止まり、空いている片手で懐中電灯のスイッチを入れた。


 丸い光が、薄暗い倉庫の棚と、そこに100年は鎮座しているものを次々になめまわす。


「誰ですか!?」


 ジェニファーは、出口へ走り出すべきだった。


 けれど、公爵令嬢としての所作や矜持が、それを許さない。


 もしも迷い込んだ人物がいて、助けを求めたなら……。


『こちらに、来てください』


 ビクビクしながらも、声がした方向へ丸い光を向け、歩き出す。



 倉庫の奥。


 極限状況のジェニファーは、床に描かれている六芒星と五芒星の魔方陣に気づかない。


 円周には、ラテン語、または古英語で何かが書かれている。


 中央には、小さな棺のような物体。


 黒檀による木箱に、赤い紐と黒い紐で縛ってある。


『ここから、出して?』


 女子中学生ぐらいの声が、ジェニファーの頭の中で響いた。

過去作は、こちらです!

https://hatuyuki-ku.com/?page_id=31

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