借金まみれのおっさん
オリエンテーションでは学費の支払い方法についての説明があった。それによると3年間で300万コルトかかるということだ。
もちろん事前に募集要項などでも説明はあったようだが、この世界に日本から転移した俺はそんなものを知る由も無く驚愕した。
ベルトホルト先生の話と併せてエリスからも聞いた話によると貴族などのお金に余裕のある裕福な家であれば親が一括で支払い、平民であれば在学中に、学園が発行するクエストをコツコツとこなし生徒自身が学費を支払うようだ。
人によっては、在学中に支払いができずに卒業後に返済する者もいるらしい。
この世界で天涯孤独の俺は、オルニア学園に入学したことによりいきなり300万コルトの借金を背負わされたということだ。
色々と金銭面を考えていかないと英雄になるどころか生活するだけでいっぱいいっぱいになってしまう。
クエストについても説明があり、冒険者ギルドではレベル10以上が目安のアイアンランクの冒険者にしか受けられないクエストが多いが、学園では無印ランクのかけだし冒険者でも受注できるクエストを扱っているとのことだ。
また生徒の8割は学生寮に入り生活するということも知った。
そういえば、合格通知と一緒に入寮希望をする者はどうたらという用紙も入っていた気がする。
俺は【乙女のオアシス】に住んでいたいので特に気にしていなかったが。
エリスも学生寮に入ると聞いて俺も寮に入りたいと少し思ったが、学生寮の規則は割と厳しいようだ。
基本は外泊禁止で21時以降の外出も禁止。更には学園内の成績によっては、個室ではなく何人かでひと部屋をシェアする相部屋タイプになる。
日本でサラリーマンとして一応は自立していた俺としては、いくら異世界とは言え自由を奪われるような生活はご免だ。
それに、俺の唯一の武器であるアビリティはクエストをクリアした際に経験値がたくさんもらえるというものだ。
その武器を活かす為に、学園生活を送りながらも【山賊の隠れ家亭】での弁当配達や、早朝の香草摘み兼モンスター狩りなどのクエストは並行して行っていきたい。
改めて学生寮には入らない方が良いと判断する。
だが、8割の生徒が入寮するとなると、そこで人間関係が構築される可能性は高い。
エリスはその美貌と天真爛漫な性格で同性の友人はたくさんできるだろうし、恋心を持つ男子生徒も掃いて捨てるほど湧いて出てくるだろう。
ポポロも、気は弱いが優しい性格なので人に嫌われることは無く、俺以上に気のあう友人を作っていくだろう。
学園生活開始早々ぼっちコースまっしぐらだな。
だが、ぼっちというのは『話しかけてそっけない反応をされたらどうしよう?』とか『あの輪の中には入っていけないな。』とか『え?なんでこいついきなり話しかけてきてるわけ?とか思われたらどうしよう。』と尻込みしてしまい自らぼっちスパイラルに陥ってしまうケースが多い。
日本のサラリーマン生活で鍛えられたおっさんは、そういった躊躇いなどとは無縁になっているのでぼっちフラグを折りまくることができる。
まず、自分がぼっちを感じている時には意外と同じような想いを抱いている人が多い。
また変な絡み方をしない限りは、迷惑がられることは無いし距離感を測っていれば問題ない。
むしろ表情には出さないものの話しかけてくれて良かったと思っている人も多い。
そして少ない可能性ではあるが、うざがられたとしても別に失うものは無く、2度とこちらから話しかけなければいいだけの話である。
そういった対人スキルと、気持ちの図太さというのはサラリーマン生活をしていると否が応でも鍛えられるものだ。
学費や寮の話の後は、部活動の話に続いた。
オルニア学園には、剣術部・槍術部・武術部・魔術部などの戦闘系、詩学部・料理部・美術部などの文科系、歴史研究会・オカルト研究会・ガイア様研究会などのニッチなものまで様々な部活がある。
どの部活も楽しそうだが、俺は部活をやっている時間にクエストをこなしたいし、モンスターとの実戦を繰り返していった方が強くなれる気がするので部活には入らないことにする。
今日はこの後、寮生活のオリエンテーションを行うということで、寮に住む者以外は解散となった。
「ナツヒ君は部活も学生寮にも入らないんだ。」
「うん。俺は夜や早朝にクエストをこなしたり、モンスターと戦ったりしたいからね。」
「え!夜も早朝もクエストやってモンスターとも戦うの?ナツヒ君がモンスターと戦うなんて意外だな。」
確かにこれまでの俺の立ち回りを見ていれば、戦闘か好きなようには見えないだろう。
ボスクラスとザコ敵の差はあるかもしれないが、ザ・ホープリッパーと同じレベル7のステップウルフを3匹まとめて倒したこともあるなんて夢にも思うまい。
「まぁモンスターと言っても弱いやつだけどね。」
「へー。でも楽しそう!私もいつか行ってみたいなー。」
「おう、いいね!学校生活に慣れたくらいに行こう!適当に俺から誘うよ。」
思いがけずエリスと2人で出かける約束ができたが、レベルの高さがバレてしまうのは回避できなさそうだなと思う。
エリスにバレても問題は無さそうだが、口の軽さや内面的な部分は少し慎重に見定めていきたい。
*
エリスと別れの挨拶を済ませ、俺は一度【乙女のオアシス】に帰宅する。
自室のふんわりとしたベッドに身体を投げ出し、天井を眺めながら考える。
ついに入学はできたが、学費の300万コルトは予想外の出費だ。
早くアイアンランクになって冒険者ギルド発行のクエストをこなしまくってお金を稼がなければいけない。
確か冒険者ギルドの牛の獣人アリナによると、ギルドから一定の成果が認められるとランクが上がるとか言っていた。
今日は【山賊の隠れ家亭】の弁当配達のバイトも無いので、冒険者ギルドに行って詳しく聞いてみることにする。
*
「ナツヒ君。あ!ついにオルニア学園に入学したんだね!おめでとう!」
乳白色のほんのりウェーブがかかった髪が、牛の獣人特有であろう爆乳の上にかかっており、目から俺の脳内に幸せな何かが流れ込み満たしてくれる。
アリナが俺の制服姿に気付き黒目がちな目を細め、笑いかけてくれるので思わず顔が綻んでしまう。
「はい!無事に入学できました!ありがとうございます。それで今日はちょっと聞きたいことがあるんですけど・・・」
俺はアリナにアイアンランクに上がる為の、ギルドへの貢献度の具体的な内容を聞いた。
結論から言うと、冒険者ギルドで無印でも受注できるクエストをクリアして一定以上のポイントを貯めると、アイアンランクに昇格できるとのことだった。
ちなみに、クリア時のポイントに関してはギルド独自のポイントが設定されており、詳しい内容は冒険者に明かされていない。
それと無印でも受注できるクエストというのは、極端に報酬が悪かったり依頼人の身元が不明だったりと、いわくつきのものもあるのでギルドとしてはあまりお勧めしていないらしい。
その点、俺は依頼人からの報酬が少なくても、クエストクリア時に経験値がたくさんもらえるから報酬は少なくても大して問題ではない。
早めに、無印ランクを抜けてアイアンランクになってからお金は稼げばいい。
「アリナさん!報酬が悪くても良いので僕にできそうなクエストを紹介して下さい。」
「うーん。ナツヒ君は確かレベル11だったわよね?」
「はい!」
「それならいけるかなー。ずーっと誰も受注しないクエストがあってね・・・。」
そう言いながら、アリナが取り出した紙にはつたない文字でこう書いてあった。
『わらわのぶろーちをごぶりんどもからうばいかえしてほしいのじゃ!やつらはえるれへいげんのどうくつにすんでおる。ほうしゅうはすきにとらせる。しゃるる。』
しゃるるというのは、依頼人の名前だろうか。明らかに子供が書いていったって感じだな。
「アリナさんこれは?」
「うん、1ヵ月程前にローブをかぶった小さな女の子が来て置いていったの。身元を確認する前にいなくなってしまったけど、ギルドの正式なクエスト依頼用紙に書いてあるから捨てることもできなくて・・・。それにみんないたずらとしか思っていないし、ゴブリンと戦うのも割に合わないし誰も受けてくれないってわけ。」
なるほどな。普通の冒険者なら、クエストをクリアするのは報酬目当てだろうから依頼人の身元もわからない上に、報酬が「好きにとらせる。」なんて子供からのクエストなんて受けないだろう。
だが俺は、クエストクリアした時点で経験値が多くもらえるし、アイアンランクに上がる為のポイントも手に入る。
①レベルを上げて強くなる②アイアンランクのクエストを受注しコルトを貯める。この2つの目的達成の為に繋がっているので報酬は最悪もらえなくても問題ない。
しかもこのクエストの依頼人である子供は本当に困っているのだろうし――いたずらでなければ――俺くらいしか受注する冒険者もいないだろう。
俺はこのクエストを受けることにした。
「アリナさん。僕このクエスト受けます!」
「本当に!?ありがとう!じゃこちらでナツヒ君が受注したってことで登録しておくね!」
『クエスト【小鬼たちのお宝】を受注しました。』
アリナのクエスト受注を認める言葉と同時に、ガイア様の声が頭の中に鳴り響く。
冒険者ギルドの正式なクエスト受注に少し胸を躍らせる。
「ナツヒ君のレベルなら大丈夫だと思うけど、ゴブリンは狡猾だから一応気をつけてね。」
「はい!ありがとうございます!では行ってきます!」
「うん。またねナツヒ君!」
手を振るだけでぷるんぷるんと揺れるアリナの胸を尻目に俺は冒険者ギルドを後にした。




