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愚者ノ檻 そのー

ここからハイスピードで行きます!


ぴちゃん ぴちゃん


何処かに滴り落ちる雫の音で目を覚ました僕は、焦点の合わない眼で辺りを見渡した。


「どこだよ……ここ」


まず目に入ってくるのは、石畳。床だけでは無く、壁、天井、全てが石畳、否、石レンガで出来た小部屋に僕はいた。


密室ではなく、目の前にまっすぐ通路があり、そこから風がびゅうびゅうと吹き込んでいた。


壁につけられた松明には青白い炎がともり、これまた尋常ではない。


しばらくして、幾ばくか落ちついた僕はここに来る経緯を思い出すことにした。


「そうだ……メイドに案内されて…ッくぅ……それで……うぅ…あ…」


思い出そうとすると、鈍痛が目の奥に奔る。ここから先は、思い出してはいけないような気がして、胃がムカムカとしてくる。


「…それで………部屋がッ……暗く…ぅあ…それ…で…ッひっ、あっ、あっあっ、ぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁ…………」


あまりの吐き気に嘔吐きが止まらず、ビタビタと口からよだれと吐瀉物が這いだした。


思い……出した…そうだ、莉奈がッ俺のことをッ!!クソッ、クソッ、クソッ!!!

裏切りやがった……アイツらだけはッ!!……絶対に…殺してやる……!!


「アアアアアアぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!!!!!」


世界の何処かで、1人の復讐者が産まれ、慟哭した。



◆★◆


「くそ……まずはここから出ねぇと……何処だよここは……」


師匠の度重なるアップデートにより、スマホなんて目じゃないレベルに進化したステータスカードのマップ機能を使おうとステータスカードを取りだそうとする─────だが、師匠に貰った腕輪にいくら魔力を流そうとも全く反応しない。


もしやと思い、魔法を使う。


「『灯火』…………ッチ、ここもあの部屋と同じか。面倒くさいな」


王宮にある忌々しいあの部屋と同じで、魔法を使おうと、魔力を体の外に出すと即座に分解され、霧散してしまうため、魔法を発動できない。

通りで《時止まりの箱庭》も使えない訳だ。

コイツは流した魔力で時空間魔法を展開し、異空間に保管してあるアイテムを出す魔道具である。しかし、『出す』手順の魔法がここでは使えないため、魔道具として機能しなくなっている。


まさか身体強化も使えないのか、と、少し不安になったが、魔力を体の外に出さない分には関係ないようだ。少し、いや、かなり精神的に助かった。

武器もなく、頼りになるのは自分の体だけ、そんな状態で身体強化すら使えなかったら、流石に師匠の扱きを受けてきた俺でも厳しいものがあったからな。


「……行くか」


身体強化を使い、強化された感覚で気配を探りながら通路を進む。

直線的な通路が終わり、十字路に差し掛かる───その時、十字路の右側からこちらに向かって来る気配を察知した。


師匠に教わった戦闘術である魔闘術は、ガチの実戦的な武術である。


基本の足構えから始まり、体術、剣術、刀術、槍術、杖術、槌術、扇術、鞭術etc…………と、いくつあるのか分からないほどの派生がある。

理由は至ってシンプルなモノで、戦争で武器が無くなったり、破損しても生き延びられるように、多数の武器を扱える武術となったそうだ。


その派生全てに共通するのが、型の数とそのコンボである。

全十二の型は全て繋げられるようになっており、一の型から十二の型へ、十二の型の途中から三の型へ、と言ったように繋げることができる。

それは剣を使っている時も同じで、剣の四の型から蹴術の型へ、また剣の型へと行くこともできる。

一言で表すならば、魔闘術マジ万能、である。


そして、気配を察知した俺は無手の構えを取り、警戒する。

極度の集中により、刹那の時間がゆっくりと流れる。そして、右の通路から現れたのは、黒い狼であった。


まだ気づかれていない……ならば。


「ッ……!!!」


両足を揃えて地を蹴り、地面とほぼ水平に跳ぶ。跳びながら右の手を抜き手の形にし、黒狼の手前で右脚を着き、さらに踏み込む。


「う……らあッ!!!」


腰をひねってパワーを最大限つぎ込んだ抜き手は、こちらを振り向きかけている黒狼の首を貫通した。


ボォウッ


俺の手が貫通している黒狼が燃えて消える。後に残ったのはコートとグローブについたドロドロの血と、炎から転がってきた紅い玉と、小さな宝箱だけであった。


「この消え方は……確か、ダンジョンの魔物の……?」


師匠に教わった知識の中に、ダンジョンというものがある。今の魔物の魔石とドロップアイテムだけを残して消えるのは、ダンジョン生まれの魔物の特徴の一つであった。


また、魔力を分解する魔法封じの力も、ダンジョンだからと言う理由で納得できる。


…だが、そうなると厄介だな。


黒狼の魔石を見下ろしながら考える。


ここが何処かの森とかならまだ良かった。食料はどうとでもなるし、広大な場所であろうが限界はある。俺の身体能力や、方向感覚であれば突破はそえ難しい物ではなかっただろう。

しかし、ダンジョンはそうもいかない。魔力溜まりが歪み、地上とは別空間となった此処は、方向感覚も頼りにならず、広さも地下や横にいくらでも広がるので、どうしようも無い。


さらに此処は遺跡型のダンジョンのため、食料にも困ってしまう。魔物は魔石とドロップアイテムのみを残して消えてしまうため、食料は取れない。ドロップアイテムに食料があることを期待するしかないため、かなり厳しい物となるだろう。


だが、こんなネガティブな事ばかり考えても仕方が無いので、取りあえず此処の出口を探すことにした。


早くでなければ……早く……復讐を………!!!


★◆★


結果として、出口は見つからなかったが、上層と下層への階段は見つかった。その二つを見つけ出すのにかかった時間は、およそ半日。こんなことで時間を潰したくなど無いのに……!!

少しばかり悩んだが、上層に向かうことに決めた。

磨かれた石の階段を上り、扉の前に立つ。

扉には川から這い上がる死体や、火炙りにされている人々彫られている。見るだけで気分が落ちるレリーフだ。


「気持ち悪ぃ……」


ドパンッと、足蹴にして開けて中に入る。


部屋の中は、はびゅうびゅうと風が吹く荒野であった。

草木の欠片もない無数の刀が刺さっている荒野に、一つの陰が佇んでいた。


『客かね……歓迎はするが、対価は戴くぞ』


紅の当世具足に身を包んだその影……いや武士は、老いてしゃがれた声を出しながらこちらへと振り向いた。

鎧のあちこちから、黒い焔を漏らしながらこちらを見据えてくる。


「言うじゃねーか、老害がよ」


『は……舐めた口を…死に晒せ、若人がッ!』


紅の当世具足は、近場の刀を抜き取り俺に突貫してくる。


「人様みてーに言葉喋んな、魔物(ゴミ)がよォッ……!!!」


俺も刀を抜き取り、突貫してきた紅の武士の体を居合斬りで切り上げ、吹き飛ばしたのであった。







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