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第二十一章

 そんなオレだったけど、一度だけ女の子を好きになったことがある。中2のときに同じクラスになった、青山実子という眼鏡をかけた小柄な美術部の女子だ。


・・・


 中学生になったオレはクラスでほとんど誰とも話さず、休み時間には席で寝ていた。ところが席順が前後になった青山さんと、4月から始まった『未来少年コナン』というNHKの冒険アニメがきっかけで話をするようになったんだ。

 とはいえ、このアニメは面白いんだけど、中学生にはちょっとこどもっぽい。だから中2にもなって見ていると言うのはちょっと恥ずかしかった。ところが青山さんは大のアニメ好きで、自分から『未来少年コナン』の話をオレにし始めたのだ。


 「高藤君、昨日の『コナン』は見た?」


 「ああ、見たよ。ジムシィと出会ったね」


 青山さんは後ろの席のオレの方に体を向けて、眼鏡の位置をちょっと直すと、ニコニコしながら話し続ける。


 「コナンもジムシィも運動神経が普通じゃないよね。あんなに動ける人、オリンピック選手だっていないんじゃないかな」


 「たしかに~! んで、カエルの干物をおいしそうに食べてたじゃん? オレ、あれは食えないなーって思って見てた」


 「わかる! でも、一緒にテレビを見ていたうちのおばあちゃんが『戦争中はカエルをよく食べていたのよ。鳥肉みたいで結構おいしいんだから』って言ってた」


 「うわ、そうなんだ。ちょっとオレ、想像できないんだけど!」


 「私も~!」


 などと盛り上がっているうちに、先生が来て授業が始まった。青山さんは前に向き直り、彼女の後ろで一つに縛った長い髪の毛がオレの目の前で揺れた。


 太陽の光が当たって、ちょっと茶色っぽくつやつやと光って見える青山さんの髪の毛に、ふと触りたくなった。そして彼女の細い肩を後ろから抱きしめて、髪の匂いを嗅ぎたくなった。

 それ以来、オレにとって青山さんは気になる人になった。青山さんのことを考えると、胸がきゅっと締め付けられて、胸の鼓動が止まらなくなる。

 男子の体を目にすると相変わらずそわそわするけど、そんなこと以上に青山さんのことがたまらなく気になるのだ。



 「もうすぐ夏休みだね」


と、青山さんがいつものようにオレの方を向いておしゃべりを始めた。


 「そうだね。やっと学校が休みになって嬉しいよ」


とオレが言うと、青山さんがちょっと目を伏せた。

 あれ?と思っていると、少しためらった後で、青山さんがメモ帳を手渡してきた。


 「あのね、夏休みの間に暑中見舞いを書きたいから、住所教えてもらえる?」


 オレは胸がドキンと弾むのを感じた。


 「え、ああ、いいよ」


 汗ばむ手でシャーペンを取り出し、メモ帳に住所を書いた。ほいっと渡すと、


 「ありがとう」


と青山さんはメモ帳を両手で大事そうに持ってにこっと笑った。


・・・


 郵便受けを覗いてみたら、あのとき約束していた青山さんからの暑中見舞いが入っていた。『未来少年コナン』のヒロイン、ラナが麦わら帽子をかぶってこっちを向いて笑っている。青山さん手描きのイラストだった。

 はがきの下には、「毎日暑いですね。宿題が多くて大変です」と書いてあった。


 「うまい絵だなあ」


とオレはつぶやいて絵をじっと見たが、なぜかあのとき期待していたほど嬉しくなくて、イラストが妙に白けて見えた。


 「きっと夏の光がまぶしすぎるからだな」


とオレは自分を納得させた。

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