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第二十章

 大体、オレこと高藤哲治が男子を好きになったのは、女子が苦手だということも原因だと思う。

 小学校のとき、女子はでかくて偉そうでおっかなかった。オレは小学校までは前から2番目のどちびで運動音痴だったし、勉強もできなくて要領も悪かったから、しっかりものの女子たちからはしょうもないやつだと思われていた。

 そして中にはオレをいじめる嫌な女もいた。


・・・


 小6の頃だ。

 いつも何かとオレに嫌がらせをしてくる小林っていう女が、休み時間にオレが席を外した瞬間に、オレの消しゴムをどこかに隠したんだ。

 席に戻って消しゴムがないことに気がついたオレは、下に落としたかもと思って机の下を覗き込んだりしていた。そんな必死に探すオレの様子を見て、小林はくすくすと笑っていやがったのだ。

 オレは「またあいつか」といやーな気持ちになりながら、こっちをチラチラ見ている小林に声をかけた。


 「あのさ、消しゴムがなくなったんだけど、見てない?」


 小林はゲラゲラと笑いながら言った。


 「さあ、知らな~い。高藤の消しゴムってどんなだっけ?」


 「MONO消しゴムだよ」


 「えー、特徴がないからわかんないよ」


 言いながらクスクス笑って、ごみ箱をチラチラと見ている。

 オレははっとして、クラスの後ろにあるごみ箱を覗き込んだ。


 「あった!」


 オレはごみの中から消しゴムを拾い上げた。頭にきて小林の前に立って叫んだ。


 「お前が捨てたんだろ!」


 「はあ? んなことしてねえよ! 何勝手に人を疑ってんだよ! なんか証拠でもあんのか!? ああん?」


 オレと向かい合うようにして、腹を立てた小林が立ち上がった。オレより10センチは背が高い。オレはキツネみたいな目つきの憎たらしい女の顔を見上げて言い返した。


 「だっ、だって消しゴムがどこにあるかって聞いたら、ごみ箱をチラチラ見てたじゃないか! 犯人でなかったら、そんなことできないだろ!?」


 「バッカじゃないの!」


 小林の目がさらに上につり上がり、子供向けのアニメに出てくるキツネそっくりになった。


 「たまたま見ていただけに決まってるじゃん! じゃあ何か? あたしが何か見ると、それは全部泥棒の証拠なのかよ!?」


 ぐいっと顔を寄せてきた小林の目を見続けられなくて、思わずオレは目をそらした。すると小林がその場でくるくると回転しながら、 


 「ほーら、天井見たよ。次は廊下ね。教卓も見ちゃったよ!」


 とあっちこっちをわざとらしく見回して、バカにしたような態度で言った。


 「さあ、あたしが今何を盗んだか教えてくれるんだろ、名探偵?」


 マシンガンのようにまくしたてる小林の論理に頭がついていかない。オレは下を向いて黙りこくった。


 「はっ!」


 オレの肩を小林が突き飛ばした。途端にオレはよろけてしまった。それでも何も言い返せないオレの姿を見て、小林はあざ笑った。


 「邪魔だよ、どきな」


 チャイムが鳴って授業が始まる。オレは悔しくて悔しくてたまらなかった。でも、小林には頭でも力でも敵わない。そんな自分が情けなくってたまらなかった。



 そんなある日、ついに事件が起こった。オレが席に座っているときに、小林は目の前で立ち止まったかと思うと、筆箱に入っているオレが大切に使っていた鉛筆をつかんで


 「ちびっこい鉛筆だな。廃棄処分してやるよ!」


と言って笑いながら窓から投げ捨てようとしたんだ。

 オレはかっと頭に血が上り、思わず小林の腕をがっと握った。


 「やめろよ!」


 そのときに気がついた。身長が少しずつ伸びていたオレは、それに合わせて腕力もついていたらしい。小林の白い腕をつかんでぐいっと引っ張ったら、あっけないくらいにやつの体が床に倒れたのだ。


 「キャーッ!」


 クラスの女子たちの悲鳴が上がった。オレは怒って興奮していたから、そのままの勢いで夢中で鉛筆をやつの手から乱暴にもぎ取って、床に転がる小林を見下ろした。



 そのあとは大変だった。クラスが男女で真っ二つに割れた大ゲンカになったのだ。もともと小林が他の人、特に男子に意地悪をしていたのはみんな知っていたから、男子は全員オレの味方に回った。

 それに対して、集団になるのが好きな女子たちが、男子が女子に暴力をふるった!というその一点で結託したのだ。しかもその頃にはオレをいじめていたあの女はしくしくと泣き出していた。

 泣くなんてずるい!と思ったけど、それによって余計に女子がオレに対して敵意を持ち、


 「高藤! あやまんなさいよ!」


と怒鳴り出してしまったのだ。



 そのとき真っ先にオレをかばってくれたのが、当時同じクラスだった唐沢隆だ。スポーツ刈りで真っ黒に日焼けした唐沢は、このころから女子と見劣りしないくらい背が高くて頼もしかった。


 「哲治はシャーペンを取り返しただけじゃねえかあ! いじわるをする方が悪いだろお! 小林が謝るのが先だろがあ!」


 「なにいっ! 女子に乱暴する男子は許されるってのかよ! 突き飛ばして泣かせてんじゃねえよ、高藤に謝らせろ!」


 クラスで一番ケンカが強い、これまた背の高い志村という女子が吠え、同じグループのこれまたケンカが強い女子2人が志村の横にぴったり張り付いて仁王立ちし、


 「謝れよ! ちび!」


 「おい、高藤、前に出ろ! この弱虫が!!」


と、他の男子に守られているオレに向かって怒声を浴びせかけてきた。

 すると他の男子たちも女子に言い返し、もういつクラス中で殴り合いが始まっても不思議じゃないくらいにクラスの雰囲気は険悪になっていった。



 チャイムは鳴り終わったが、うちのクラスではケンカが続いていた。

 その頃には学校中にケンカの話が広まったらしく、大量のギャラリーがオレのクラス前の廊下に集まっていて、そっちも大変な騒ぎになっていた。

 そこへ担任の田中先生と教頭先生、他のクラスの担任達が飛んできて、ケンカは中断。オレのクラスは授業どころではなくなり、田中先生と教頭先生によるクラスの学級会が始まった。

 結局そのときは喧嘩両成敗、ということで、いじわるした小林も悪いけど、乱暴したオレも悪い、ということになった。クラスの前であの女に謝ったときの悔しさ、怒りといったらなかった。オレは机に突っ伏してしばらく泣いた。本当に悔しかった。


・・・


 ……とまあ、そんなわけだから、小学校のときの女子とのいい思い出なんてほとんどないし、当時は女子を好きになる人の気持ちがさっぱりわからなかったんだよね。

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