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3|〈魔法の授業②〉『告式+術紋+触媒=魔法譜』

:前回のまとめ

・原初の魔法は王や貴族だけが行使できるもの。

 その名前は、【祖式錬金術/アルキミア】。

・祖式錬金術には、賢者の石を使用する。

・賢者の石を創り出す「ストーン」の魔法を扱えるのは石霊枝族だけ。

・石霊枝族のラピスという男が、新たな魔法体系を完成させる。

・それが。今現在、最も使用されている【キィズ魔法体系】。

・キィズ魔法体系では、魔法を発動するために魔力血液を使用する。

・魔力血液は、人間の体内に流れる魔力血管か、大地に流れる龍脈から引き出す。

・キィズ魔法体系では、神声文字と古代アーキ語が使われる。

・キィズ魔法体系には「学問」と、「領域」という学派が存在する。

・三大学問の一つ、キィズ=アルキミアは。

 祖式錬金術を基に創られた学問で、一番人気がある。ザ・王道。

・三大学問の一つ、キィズ=アニマは。

 多種多様な精霊術を中心に、数多くの領域へと派生する。

・三大学問の一つ、キィズ=マキナは。

 実務的でありながら革新的。就職に役立つ。

・魔法の式を書き記す「本」の名前は、『魔法契約書/クラヴィス』。



 …………、


 ……、



「――魔法の公式は?」


「それくらいわかりますよー。『告式+術紋+触媒=魔法譜』です!」


 ラテルベルが元気に答えると、彼女のやわらかな髪がふわりと弾み、空気に軽やかな波を描いた。  


「正解。……ちょっと待っててね」

 

 そう言うと、手元のノートに何かを書き始めるキロシュタイン。

 ラテルベルは、まるで何か秘密を見つけるかのように、その動きをじっと凝視していた。


「(うぉお~。キロさん、やっぱりすごいなー。告式も綺麗だし、術紋を描くのも上手い)」


 キロシュタインは、丁寧に削った鉛筆で、風のように軽やかに、さらさらと神声文字をノートに書き並べていった 。ラテルベルの真似をして描いた太陽紋も、驚くほど上手だ。


「キロさん。なに書いてるんですか?」


「――あんたの魔法譜を、わたしなりに書き直してみたの。写してみて?」


「いっ――いやぁ……無理、ですね。キロさん。ね、無理ですよ」


「写してみて? ラテルベル??」


「わ、わかりましたっ。わかりました、けど。完全式なんて絶対無理ですよー」


 それから数分かけて、ラテルベルは自分のクラヴィスに、キロシュタインが書いた魔法譜を一言一句丁寧に書き写していく。まるで楽譜をなぞるかのように、音もなく――。白銀色の魔力血液と瑠璃色のラピスラズリ粉末を混ぜ合わせた専用のインクは、文字を青く輝かせていた。



   03.〈魔法の授業②〉『告式+術紋+触媒=魔法譜』



 【告式+術紋+触媒=魔法譜】。

 それは、キィズ魔法体系における魔法の公式である――。

 

 魔法の楽譜『魔法譜/クラフト』を魔法契約書/クラヴィスに書き記して完成させることで、術者は魔法を発動できるようになる。その魔法譜を構成する三つの要素が、告式、術紋、そして触媒だ。



 告式/ローグは、一小節、七文字までの神声文字で構成される、魔法の「骨組み」である。告式は魔法を発動するための最小単位で、コマンドのような役割を果たす。たとえば、火を起こす魔法譜を完成させるためには、着火を実行する告式や、火の大きさを指示する告式などを組み合わせていく。


 基本的に、告式は先代の告式解析師、通称「告解師(コッカイシ)」と呼ばれる、告式の発明・解析を専門とする魔法使いたちが発明したものを使用する。エルハルトの火灯告式やマルシェの小火球告式といった、名前が付けられたものがその例である。同じ着火を実行する告式であっても、さまざまなバリエーションが存在する。なぜなら、術者によって魔力血液に馴染む告式とそうでないものがあるからだ。(キロシュタインのような魔法マニアの場合、好きな告解師の告式にこだわることもあります。)


 ラテルベルが、魔法譜を書き写しながら得意げに言う。


「とりあえず告式さえあれば、魔法を発動することができるんですよね」


 キロシュタインが落ち着いた声で答える。


「そうね。でも、告式だけじゃダメ」

「術紋で表現や感情を加えないと、無機質な魔法になっちゃうから」



 二つ目の要素、術紋/シンボルは、術者の感情や個性を反映し、主に魔法の視覚的な側面を担う。術紋はページの空白に自由に描かれ、幾何学的な図形や動物、植物、風景画、抽象画、紋章など、さまざまなカテゴリーにわたる。また、描かれる術紋によって、魔法陣のデザインも変化する。



 三つ目の要素、触媒は、魔法温度の調整や告式の補助として使われる記号である。音楽記号のようなもので、告式の終わりに書き記すのが決まりだ。告式を構成する神声文字には、母音や子音のほかに、熱音や冷音という分類があり、使用された熱音、冷音の数や組み合わせによって、魔法の温度が変化する。魔法温度は、「°Θ/度シータ」という単位で表され、完成した魔法譜の温度が、150度シータを超えるとオーバーヒートが発生し、クラヴィスが燃え、逆に-200度シータを超えるとオーバーフロストが発生し、クラヴィスは凍結して砕けてしまう。そのため、魔法温度を安定させる触媒を適度に使う必要がある。しかし、触媒を使いすぎるとクラヴィスが反転し、呪いの書「シヴァルク」となってしまうので、使い過ぎにも注意しなければならない。――ただし、例外として、シヴァルクを使用する魔法も存在する。その場合は、魔導書の装丁も禍々しいものとなる。


「キロさん、シヴァルクの実物って見たことありますか」


「資料でなら、あるわよ」

「まぁ、実際に使ってる魔法使いはレアすぎて会ったことはないけど」


 

 この三つの要素には、それぞれ専用のインクが用いられる。

 告式には、術者の魔力血液とラピスラズリ粉末を混ぜ合わせた青いインクが用いられ、術紋には、術者の魔力血液と染料を混ぜ合わせた色とりどりのインクが使われる。そして、触媒には、瘴気を含んだ黒いインクが使用される。(熟練の魔法使いでも、インクを間違えることがあります。)


「インクの間違い……あるあるですよね。キロさん」


「あるあるすぎて話のネタにしたら座がしらけるレベルよ」



 告式、術紋、触媒を組み合わせてオリジナルの魔法譜を完成させる。

 それが。キィズ魔法体系という世界観の神髄である。 




 …………、



 ……、




 キロシュタインの魔法譜をクラヴィスに書き写していくラテルベル。

 その横顔を、キロシュタインは静かに、しかし真剣な眼差しで見つめていた――。


 


 ―――― ◇◆◇ ――――


 アルヴァリオン・エラミスラ・ハルトシア・リンゼアム

 シェリオル・カイナリア・ヴェルスティア・オスラニア

 マルセア・サリオナ


「|⟨—⟩⟡⟢⟴⟬⟯⟾| ⇔ |⟾⟷⟧⟡⟴⟡⟿| ⇑ |⟐⟮⟠⟧⟾⟢⟤| ⇔ |⟴⟡⟐⟸⟯⟧⟠| ⇑ |⟹⟪⟯⟴⟧⟠⟡| ⇔ |⟙⟧⟪⟿⟐⟤⟡| ⇑ |⟯⟸⟾⟡⟐⟠⟣| ⇔ |⟧⟠⟾⟯⟣⟤⟐| ⇑ |⟾⟿⟴⟤⟧⟠⟡| ⇔ |⟐⟮⟾⟧⟤⟿⟐| ⇔」


 ―――― ◇◆◇ ―――― 




 最後に、ページの空白に太陽の紋章を描き、完成――と思いきや、瞬く間に文字がページから浮き上がり、形を伴って舞うように宙を漂う。実体化した文字は、火をつけたかのように燃え上がり、一瞬で灰と化してしまう。「灰化」――つまり、魔法の契約に失敗したということだ 。


 魔法の第一段階は、『契約』。

 自身のクラヴィスに魔法譜を書き記し、告式と術紋が鮮やかな赤に染まれば契約成功。告式と術紋がページから浮き上がり、灰化してしまうと契約失敗となる。告式と術紋には、術者の血に馴染むものとそうでないものがあり、相性が悪い場合、血が拒絶反応を起こして、書き記した魔法譜が灰となって消えてしまうのだ。


 血に馴染む魔法を探求するところから、キィズの魔法は始まる。


 契約に失敗したラテルベルは、また……と、自分を責めていた。

 たしかに、どんな告式も術紋も馴染まない魔法使いはいる。

 魔力血液の性質なんて、持って生まれた個性で、人それぞれ違いがあるのは当然のことだ。

 だが、キロシュタインは気づいていた。

 ラテルベルが魔法を上手く使えないのは、その性質のせいではないと。

 ここ数日、二人で自習をする中で。

 キロシュタインは彼女の様子にどこか気をかけていたのだった。


「大丈夫よ、そんなに落ち込まなくても。完全式を書け、って無茶言って、イジワルしたのわたしだし。……、……ラテルベル。話したくないなら話さなくていいんだけど。あんたって、昔、血瘴病(ケッショウビョウ)に罹ったことがあるんじゃない? その後遺症で魔力血液の純度が低くなった、とか」


「そう――ですね。……罹ったことはあります。キロさんの言う通り、その後遺症で魔力血液が濁ってしまったんだと思います。……て、へへ。気づかれてたんですね。さすがキロ先生です」


「……わたしの……お姉ちゃん以外の家族が、ね。血瘴病が原因で亡くなってるの。あっけなく。……だから」


「そっ――そう、だったんですか! ごめんなさい」


「謝るな、あと先生と呼ぶな。わたしから話し出したんだし、あんたは気にしない」


「は、はい!」


「それで? 感染したのはどこなの?」


「あっ――ちょっと待ってください。いま脱ぎますので」


「脱がなくていいから。見せるだけにしなさい」


 ラテルベルは、焦った拍子に手元がもつれた子猫のように慌てふためきながら、ブラウスの袖をぐいっとまくり上げた。その下には、まるで蔦が絡むような黒い血管が、腕の皮膚にくっきりと浮かび上がっていた。瘴気で穢れた魔力血管――間違いない。血瘴病の典型的な症状の一つである。


 血瘴病は、最悪の場合、死に至る重病だ。

 死者の世界から溢れ出た瘴気によって引き起こされる感染症であり、キロシュタインの両親と祖父もこの病の犠牲となった。生者の世界と死者の世界の間に緩衝帯として創られたこのアスハイロストという地では、瘴気から完全に逃れる術は存在しない。それ故。この世界の人々は、浄化魔法を用いて瘴気を薄めながら、薄氷の上を歩くような危うい均衡を保ちつつ生き延びている。


 瘴気の影響は、血瘴病の他にも幾つかあり。

 例えば。死後、浄化魔法を使われずに放置された死体が、屍人と化すのも瘴気の影響だ。


「やっぱりそうなんだね。……で? どうして話してくれたの?」


「えっ――えぇあ……? それは、だってキロさんだから」


「わたしだから??」


「なぁあああああああ…………っ!!」


 キロシュタインのからかうような顔が鼻の先まで近づいて。

 何も言い返せなくなったラテルベルは、顔を真っ赤にしながら、とりあえず叫ぶ。


「ね? 年上のくせに、恥ずかしいんだ?」


「ッ――シぃーー。危ない危ない。危うく後輩に恥をかかされるところでした」


「友達って認めてくれたからでしょ? わたしは嬉しかったよ」


「うっ……そ、そうですよ。……キロさんのことは友達だって思ってますから」


「それはよかった。――じゃあ、今日の自習はこれで終わり。帰りましょ」


「あっ、はい! わたしノアさん探してきます!!」


「うん、よろしく。ここの後片付けしてから追いつくね。ってか、あの子、まだ工学部の教室にいるんじゃない? なんか、鉄と海水を混ぜてメタルポリプ作るとか言ってなかったっけ」


「そういえば、ですね! 見てきます。今日もありがとうございました~キロ先生っ!」


「先生と……まぁ、いっか。先輩に先生って呼ばれるのも面白いよね――」








※以下は、ノアのノートを写したものです。

 キィズ魔法体系の設定に興味がある方はどうぞ。


☆|〈設定・世界観〉により詳しくまとめています。









 ―――― ◇◆◇ ―――― 


『キィズ魔法体系についてのまとめ』


 学籍番号:Φ12-031X

 名前:フェイト・ノア=ユーリスニュア


 ―――― ◇◆◇ ――――



1. 魔法発動の基本プロセス


魔法を発動するためには、専用の魔導書である魔法契約書/クラヴィスに魔法譜クラフトを書き記し、契約を結ぶ必要があります。魔法譜は、以下の3つの要素で構成されます。


告式ローグ)   :魔法の論理的な基盤となる。

術紋シンボル)  :術者の感情や個性を反映し、魔法に色彩や効果を与える。

触媒しょくばい) :魔法の制御や威力の調整に必要な記号。


完成した魔法譜はクラヴィスに刻まれ、その内容に応じて本の装丁や裏表紙の魔法陣が変化します。魔法譜を使い続けると、術者は魔法との深い結びつきを得て、魔法を詠唱なしで発動できる段階『血宿(けっしゅく)』に進化します。


---


2. 魔法発動のプロセスと段階


魔法を発動する過程には、以下の二段階があります。


1. 『契約』 : 術者がクラヴィスに告式や術紋を記し、魔法譜を完成させる最初の段階です。この段階では、魔法を発動する際に詠唱が必要です。


2. 『血宿けつしゅく』 :魔法譜が術者と完全に馴染み、思考するだけで魔法を発動できるようになる段階です。


なお、第三段階として"黄金律"と呼ばれる伝説的な状態も存在しますが、これはごく限られた術者のみが到達できるとされています。


---


3. 魔法譜の構成要素


(1) 告式


〈概要〉

:魔法を発動するための最小単位で、最大7文字までの神声文字で構成されます。

:術者の魔力血液とラピスラズリ粉末を混ぜ合わせた専用のインクで書き記します。


〈記譜法〉

・簡式  :二文字の神声文字で統一。

・複式  :二文字から七文字まで幅広く使用。

・完全式 :七文字の神声文字で統一。


〈特性〉

:神声文字には"熱音"(フィラン)と"冷音"(イサリム)があり、組み合わせによって告式の性質が変化します。

:告式は、術者ごとに魔力血液との相性が異なり、馴染まない場合は灰化し消滅します。


(2) 術紋


〈概要〉

:術者が描く図形や絵で、魔法の感情的・視覚的な側面を担います。

:魔力血液と染料を混ぜ合わせた専用のインクで描きます。


〈特徴〉

:術者の個性を反映し、魔法の追加効果や演出を強化します。


〈段階〉

:術紋も"契約"と"血宿"の二段階があり、術者が使い込むことで強化されます。


(3) 触媒


〈概要〉

:魔法譜の調整や強化に用いる記号です。

:瘴気を混ぜ合わせた専用のインクで書き記します。

:触媒の使いすぎはクラヴィスを"呪いのシヴァルク"へと変化させるリスクがあります。


---


4. 魔法温度『°Θ(度シータ)』と調整の重要性


 魔法温度°Θは、魔法の安定性に直結する重要な要素です。


〈上限〉: 150°Θを超えるとクラヴィスが燃える"オーバーヒート"が発生します。〈下限〉:-200°Θを超えるとクラヴィスが凍結し砕ける"オーバーフロスト"が発生します。


 術者は、神声文字の熱音と冷音のバランスを考慮し、

 触媒を適切に活用して魔法温度°Θを調整する必要があります。


---


5. 魔法譜の完成とクラヴィスの変化


 完成した魔法譜はクラヴィスに記録され、

 その内容によって次のような変化が現れます。


1. 〈本の装丁〉:魔法譜の属性や術紋に応じて、クラヴィスの外観が変化します。

2. 〈裏表紙の魔法陣〉: 魔法譜の構成要素が反映され、術者ごとに異なるデザインとなります。


 例として、火の魔法を記したクラヴィスの背表紙には、

 炎や太陽を基調とした魔法陣が浮かび上がることがあります。


---


6. まとめと術者の役割


キィズ魔法体系は、告式、術紋、触媒という三つの要素を巧みに組み合わせ、術者の個性と創造力を反映する魔法の学問です。この体系における術者の役割は、魔法の論理性(告式)と感情性(術紋)を調和させつつ、魔法温度°Θの危険を管理しながら、クラヴィスという魔導書を通じてオリジナルの魔法を生み出すことにあります。

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