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2|〈魔法の授業①〉『キィズ魔法体系』

『キィズ魔法体系|Keys Magia System』。


 それが、今この世界で最も使われている魔法の名前だ――。



 時は、神代57世紀。当時の魔法は、王や権力者だけが行使できる特別なものだった。その原初の魔法は、賢者の石を用いて万物を創り出す力であり、現在では【祖式錬金術/アルキミア】として知られている 。祖式錬金術には賢者の石が必須であり、その賢者の石を創り出す「ストーン」の魔法は、石霊枝族(セキレイシゾク)という種族だけが扱えるものだった。そのため、王や権力者たちは石霊枝族を捕らえ、賢者の石を創らせる奴隷として従えていた。…… その時代に、石霊枝族の子として生まれたのがラピス。


 のちに、魔法の父と呼ばれることになる、預言者ラピスだ。


「権力ではなく、意志を持つ者が力を得る。それが理想の魔法だ。

 学ぶ意志こそが鍵となり、その門は全ての者に等しく開かれる」


 この理想を掲げたラピスは、神代77世紀までの約20世紀を費やし、【キィズ魔法体系】を完成させた。彼は預言者として神の声を翻訳し、その記録から神声(シンセイ)文字を創造。さらに神声文字を基に古代アーキ語を編み出し、これらの文字と言語を用いてキィズ魔法体系を構築した。

 キィズ魔法体系は、祖式錬金術のように賢者の石を必要としない。代わりに「魔力血液」を使用し、この血液は人間の体内に流れる第三の血管『魔力血管/ヘデラ』と、大地に流れる『龍脈/レイラ』から引き出される。普段、魔力血液は白く濁っており、魔法を発動すると白銀色に輝き出す。


 このキィズ魔法体系という新たな魔法の誕生によって、ラピスの理想通り、人々は誰でも魔法を使うことができるようになった。言わば、それは"魔法革命"の幕開けであり、世界を一変させる出来事であった。……魔法はもはや支配層の象徴ではなく、新たな時代を切り拓く力となったのだ。



   02.〈魔法の授業①〉『キィズ魔法体系』


 

 キィズ魔法体系は、三大学問を筆頭に、複数の『学問』に分類される。その中で、さらに細分化された「領域」という学派に分かれる。どの学問や領域を学ぶかは、魔法使いの自由である。


 三大学問の一つ目は。

 夢追い人の学問――『キィズ=アルキミア』――。


 魔法使いの間で最も人気のある学問が、このキィズ=アルキミアだ。その名の通り、祖式錬金術/アルキミアを基に創られたもので、「魔法錬金術」とも呼ばれている。領域は火式、水式、風式、土式、雷式といった王道の魔法から成り立ち、さらに錬金薬学や回復魔法もこの学問に含まれている。

 ただし、人気ゆえに多くの魔法使いがこの学問を選ぶ一方で、才能や努力の差が如実に現れ、頂点に立つ者と凡庸な者との間には天と地ほどの開きがある。 まさに、夢追い人の学問だ。


 そして、三大学問の二つ目は。

 探求者の学問――『キィズ=アニマ』――。


 まず、領域には多種多様な精霊術が揃い、それに加えて、封印魔法、召喚魔法、結界魔法などもこの学問に含まれる。三大学問の中でも、最も多くの領域に派生するのがキィズ=アニマの特徴だ。この学問を選ぶ魔法使いは、探究心旺盛な学者肌の者が多く、「探求者の学問」として評価される一方で、時には「魔法マニアの学問」と揶揄されることもある。……どうせみんなキィズ=アルキミアを選ぶんだろう。でも俺は違う、違うんだ。俺はアニマだ。……そんなひねくれ者もいたりします。


 最後に、三大学問の三つ目。

 技術者の学問――『キィズ=マキナ』――。


 キィズ=マキナは、非常に実務的でありながら革新的な学問である。アルキミアやアニマを専攻する魔法使いたちからは「ロマンを捨てた学問」などとバカにされることもあるが、実際には最もロマンに満ちた学問といえるかもしれない。

 その領域には、魔法機械工学をはじめ、魔法兵器工学、魔法情報工学、魔法電磁気学、魔法熱力学、さらには魔法エネルギー学など、多岐にわたる分野が含まれる。これらの領域では、現実社会に密接に関わる技術を学ぶことができ、この学問を修めた者は高い就職率を誇る。安定した生活を手に入れることができるという点でも、多くの可能性を秘めた学問といえるだろう。



「……ふむふむ。って!! キロ先生っ!! 三大学問くらいわたし知ってますよ」


「先生と呼ぶな。――で、ラテルベルが専攻してるのは?」


「キィズ=アルキミア領域:第Ⅰ契(ダイイッケイ)! 火式魔法錬金術――ですっ!!」


 勢いよく手を挙げながら、ひまわりのような笑顔を浮かべて、ラテルベルが元気よく宣言する。

 その明るい声は部屋中に響き渡り、窓の外で作業していた庭師の男が驚いたように手を止め、こちらを振り返った。 「図書館では静かにしなさい」と、キロシュタインは真顔で注意する

 

「じゃあ。魔法を使って、これを燃やしてみて。いい? 派手に、ね??」


 そう言いながら、キロシュタインが机の上に置いたのは、手で軽く丸められた紙の塊だ。


「わっ――わかりました!! ……では。燃やします」



 ……   ぶ わ ぁ。



 それは、あまりにも小さな火だった。

 ラテルベルが人差し指と中指をピンと立てて紙の塊を指すと、たしかに火は熾り、パチパチと燃え始める。だが、その火は驚くほど弱かった。弱火どころか、か細い炎がゆっくりと広がるだけで、熱さすらほとんど感じられない。この火で焼き芋を作ろうとなると、泊まりは覚悟しなければ。


 これが、ラテルベル・ラズライト。

 包み隠さずに言うと、彼女は魔法がへったくそだった。


「……はぁ。…………はぁああ」


「二回もため息しないでくださいよ、キロさん!」

「こんな小さな火でも料理はできます! ガス代の節約になるんです!」


「へー、そうなんだ。――じゃクラヴィス出して」


「あっ興味ない時のやつですね、この反応。了解ですー」


 ラテルベルは、キロシュタインに雑に扱われながらも、カバンの中から一冊の本を取り出す。

 それは赤い装飾や紋章で飾られた分厚い本で、表紙にはアーキ語でラテルベルの名前と『フラマの踊り子』というタイトルが刻まれている。裏表紙には、神声文字と幾何学的な図形が組み合わさった魔法陣が美しく刻印されていた。この本は、魔法の「式」を記録する為の魔導書――。



 『魔法契約書/クラヴィス』だ。

 


「……あんた。魔法譜(クラフト)の書き方だけは綺麗なのよね」


 キロシュタインはラテルベルのクラヴィスを手に取り、ページをめくりながら素直に感心したように言う。そこには、神声文字で記された式と、空白には、太陽を模した紋章が描かれている。




 ―――― ◇◆◇ ――――


 アルヴァス・リンカ・ハルトアス・サスリオ

 ライザス・カイナルス・シリカン・ヴァリス

 マルシア・オスラニア


「|⟨—⟩| |⟡⟢|/|⟴⟬| |⟣⟤|/|⟾⟷| |⟠⟢|/|⟐⟮| |⟧⟡|/|⟾⟶| |⟹⟪|/|⟙⟧⟪| |⟡⟿|(/|⟠⟪| |⟢⟮|/|⟯⟸| |⟐⟤|/|⟶⟾| |⟬⟣|/|⟧⟢| |⟴⟤|⇔」


 ―――― ◇◆◇ ――――




「エルハルトの火灯告式とマルシェの小火球告式、ザフィードの増炎告式。あとは汎用……拡張告式、持続告式。触媒は安定触媒だけ。術紋は、太陽紋。記譜法は簡式……小学生レベルの魔法ね」


 ラテルベルの魔法契約書『フラマの踊り子』に記された式を、キロシュタインは冷静かつ完璧に解析していく。指で神声文字を一字一字なぞるのは、彼女の癖だった。


 午後の陽光が窓から差し込み、机の上に柔らかな影を落としている。図書室には、彼女たち二人だけ。規則正しく時を刻む振り子時計の音と、ページをめくる微かな紙の擦れる音だけが、静寂の中に溶け込んでいた。


 ラテルベルは黙ったまま、息を潜めるようにしてキロシュタインの手元を見つめている。ふと、風が吹き込んでカーテンが揺れ、差し込む光が揺らめいた。魔法契約書の文字がきらりと光を反射し、一瞬、そこに炎の残像を宿したように見えた――。

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