後日譚 ② ― 残響する。//SUMMER’S ECHO ―
最後の夏は、めまぐるしく過ぎていった。
みんなで海へ出かけ、山を登り、笑い合いながら旅を続けた。
サルカターラ地方には、竜の遺骨のほかにも、いくつもの巨大生物の骸が残されており――その神秘を巡る日々は、まるで夢のようだった。
グレンプーラ地方では温泉を巡り、アズルプレト地方では、天空都市と、一面に咲き誇るアクィハレトの花畑を見に行った。
やりたいことリストの項目には、
ひとつ、またひとつとチェックマークが増えていく。
そのたびに、アルミナの胸には嬉しさがこみ上げる。
けれど同時に、どこか切なさも広がっていく。
――こんなにも、世界は広い。……なのに。
なのに。
「ボクの命は、八月で終わってしまう」
静かな病室のなかで、アルミナはそっと祈りを捧げた。
ラテルベルに託した、大切な依頼。
――この心臓を使って、ブリキの人形を創ってほしいんだ。――
思えば、あの願いは、すこし酷なことだったかもしれない。
けれど今なら思える。
今のラテルベルなら、きっと、大丈夫だ。
アルミナは、愛する双子のきょうだいに想いを込めて、
深く、静かに、祈りを重ねた。
後日譚 ②
―― 残響する。//SUMMER’S ECHO ――
7月24日。
その日、ラテルベルとアルミナは、
聖鉄ハンネ騎士団の装甲車に揺られながら、ある場所を目指していた。
それは「やりたいこと」ではなかった。
――たぶん、「やるべきこと」だと、そう思ったから。
やがて辿り着いたのは、
白銀の世界にひっそりと佇む、小さな村だった。
「お二人とも。対瘴気魔法は、ちゃんと発動していますか?」
騎士団の女性が、後部座席を振り返って尋ねる。
「「はいっ!」」
ラテルベルとアルミナは、声を揃えて力強く応えた。
装甲車の扉が開き、ラテルベルが雪の上に足を下ろす。
ザクッ、と小気味よい音が鳴る。
雪の感触は久しぶりで、どこか懐かしく――
そして、空気はひりつくほど冷たかった。
顔を刺すような冷気が頬を撫でていく。
――
数人の騎士団員に護られながら、二人は村へと近づいていく。
やがて、雪に半ば埋もれた木製の看板が現れた。
そこに記されていたのは――『ガラ』。
この場所こそが、二人の生まれ故郷だった。
だが、かつて暮らしていた頃の面影は、ほとんど残されていなかった。
変わった――というより、変わり果てていた。
人の気配はどこにもなく、
村はすでに、廃村と呼ばれる姿へと成り果てていた。
静まり返った通りの先――
雪を踏みしめる鈍い足音が、かすかに響く。
そこには、数体の屍人が、ふらりふらりとさまよっていた。
◇
ラテルベルがアルミナの車椅子を押しながら、
二人で向かったのは――
すべてが終わり、そして始まった、あの家だった。
凍りついた扉を、斧で砕きながら中へ入る。
扉の先にあったのは、かすかに記憶の奥で消えかけていた、あの部屋。
まるで時間だけが取り残されたかのように、そこには、凍結という名の“額縁”の中に閉じ込められた、かつての暮らしの痕跡があった。家具も、壁も、記憶も、白銀の結晶に封じられたまま、今なお誰かの生活を静かに描いているかのようだった。
「大丈夫?」
アルミナがそう声をかけてから、二人は奥へと進んだ。
――そして、その場所は、あの日のまま残されていた。
狭い廊下の突き当たり。
物置の前にあるガラス窓は、粉々に砕け、冷たい風が吹き込んでいた。
「っ――!!」
ラテルベルは、あの瞬間の記憶に息を呑む。
けれどすぐに、拳を握り直し、深く息を吸った。
二人は、用意してきた白いユリの花をそっと手向け、目を閉じる。
静かに、祈りを捧げた。
「ごめんね、ラテルベル。あの時は、無茶なお願いをして」
「ううん。……わたしのほうこそ」
「いつもおどおどして、アルミナに守られてばっかだった」
「双子のきょうだいを守るのは当然だからね」
アルミナは、微笑みながら言った。
「ねぇ、アルミナ。約束しよ」
ラテルベルはそう言うと、人差し指と小指でサインを作り、それを額へ当てる。
魔女の祈り――オルデキスカのサインだ。
「約束。わたし、ラテルベルは人形師見習いとして――」
「大切なきょうだいの依頼を受けます」
「すっっっごいの創るから、覚悟しててください」
アルミナもそっと微笑み、
同じように、誓いのサインを額へと重ねた。
「約束、ラテルベルへ」
「あなたは、とても――とても強い人です」
「だからもう。怯えなくていいんだよ」
その約束の言葉は、
やがて空から舞い落ちる雪のなかへと、静かに溶けていった。




