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34|『メフィスト・ワルツ|第3番』Cパート

 ラテルベルとメリッサの戦闘空域に、

 Pray of Color、通称「POC(ピーオーシー)」が到達した。 


 ラテルベルの無線に、

 エリカライトの弾けるような声が飛び込んできた。


「お待たせ! ごめんね、出撃にちょっと時間かかっちゃって!」


 その声を聞いた瞬間、

 ラテルベルの胸にじんわりと温もりが広がっていく。


 かつて――

 ジェミニ計画によって集められ、

 フラトレスの箱庭で幼少期を共に過ごした、家族のような存在……。


 ブラックオパール《クロ》とホワイトオパール《シロ》、

 そして――ラズライト《エル》。


 今はそれぞれ、

 カガルノワ、エリカライト、ラテルベルという

 「名前」と「居場所」を持つに至った。


 選んだ道は違っても、

 こうして再び、同じ空の下で並び立てる。


 ラテルベルは静かに無線に応える。


「――カガルノワ、エリカライト」

「一緒に終わらせよう」

「あのフラトレスの箱庭から続く、わたしたちの物語を――!」


 その言葉を受けて、

 カガルノワがわずかに微笑み、短く返す。


「プホラ・フラスコがいるって聞いたから来たんだけど……」

「どこにもいないじゃない。――だったら何のために来たのよ」


 そのツンとした言い方は、

 まぎれもなく、かつてのクロ――カガルノワのままだった。


 ラテルベルもカガルノワと同じ違和感を抱き、

 足元に広がるブルクサンガの街並みに目を落とす。


 すでにブルクサンガ環状線――魔法陣の横軸は、

 四分の三ほどが描き終えられていた。


 トラムが走るレールの上には、

 神声文字が次々と浮かび上がり、

 都市の輪郭に沿って巨大な円形魔法陣が描かれていく。


 同様に、

 縦軸となる大観覧車ブルクサンガ・サン、

 時間軸となる旧市街の天文時計も、

 青白い輝きを纏いながら、


 それぞれの「役割」を果たしつつあった。


 ――順調だ。何もかもが順調に、過ぎている。


 だからこそ、違和感があった。


 グリム、ネビュラ、メリッサ――

 幹部たちは次々と姿を現し、確かに戦場に立っていた。


 なのに。


 肝心のボス、プホラ・フラスコの姿がない。

 サンタキエロの姿も――影も形も、ない。


 いったい、いま彼らはどこで、

 何をしているのだろうか。




   34.『メフィスト・ワルツ|第3番』Cパート




 カルディア戦は続く――。


 コックピットの中、

 メリッサは唇を吊り上げて笑った。


「ふふっ、いいじゃない」

「二対一なんて、燃えるわね」


 NEROはコウモリのような巨大な翼を羽ばたかせ、

 重厚な機体とは思えぬほど軽やかに宙を舞う。


 そして、空気を裂くように――


 雷撃が奔る。


 その軌道を読み取ったエリカライトは、

 すかさず詠唱する。


「――銀氷の盾(フリューデ)!」


 POCプレイ・オブ・カラーの右腕が前に突き出され、

 銀色の魔法陣が展開される。


 魔力の結晶で編まれたひし形の盾が顕現し、

 瞬間、NEROの放った雷撃がその盾に直撃――


 火花を散らして、拡散する。


 続けて、カガルノワが淡々と呟いた。


「ロックオン。――撃て」


 今度はPOCの左腕が前に突き出される。

 漆黒の魔法陣が淡く輝き――砲撃の気配が、戦場に満ちる。


 その中心から、砲弾が一直線に放たれた。


 NEROは即座に回避行動を取ろうとしたが、



 ――ズゥンッ!!



 砲弾は右脚の装甲に直撃。

 聖鉄の装甲が軋みを上げ、脚部の一部が大きくえぐり取られる。


 煙と火花が噴き出し、NEROのバランスがわずかに崩れた。


 エリカライトは、隣に座るカガルノワにハイタッチを求めたが、

 ……当然のように無視された。姉妹のいつものやり取りだった。


 無線から、ラテルベルの興奮した声が弾ける。


「す――すごいっ!!」


 それに対し、カガルノワの返答は冷ややかだった。


「なにバカみたいなこと言ってんの」

「私たちはこれが本職。毎日こうやって戦ってる」

「あんたとは違ってね」


 その一言が、ラテルベルの胸を鋭く刺す。


 エリカライトが割って入る。


「もぉ! あんたねぇ、ちょっと言葉が強いのよ」

「ハンネ騎士団で戦うって決めたのはわたしたちでしょ?」


 カガルノワは隣で声を荒げる妹に軽くため息をつき、

 小さく呟いた。


「……わかった。わかったから、静かにして」

「戦いに集中できない」


 そして少し間を置いてから、

 誰にも届かぬような声で言う。


「……別に……あんただって、やればできるんだから……」


 ラテルベルはその言葉が聞き取れず、

 訊き返そうとした――が。


「さあッ、もっと壊してちょうだい」

「――パララ・パラララ!!」


 メリッサが詠唱し、

 NEROから再び鎖が放たれる。


「ぅ――大丈夫!!」


 ラテルベルは自分に言い聞かせるように叫び、

 赤き炎から盾を形作り、鎖を防ぐ。


 だが、その鎖に流れていた電流がO2を直撃。


 機体の装甲を駆け巡った電撃が、

 ラテルベルの神経を焼き、コックピット内に悲鳴が響く。


「ッああ……!!」


 その様子を見て、カガルノワが舌打ちをした。


「……ばか、なにやってんのよ」


 POCの機体を一気に前進させ、

 O2の前に立ちはだかるように展開。


 ラテルベルの無線に、エリカライトの声が響いた。


「ラテルベル!」


 ラテルベルは震える声を押し殺しながら、答える。


「ぅ――へ、平気です!!」


 そして深く呼吸を整え、

 再び操縦パネルに両手を添えた。


 背筋が、すっと伸びていく。



 ◇



 カガルノワが無線で言う。


「ラテルベル、ここに手を重ねて」


 その瞬間、

 POCの左手がゆっくりとO2に伸びてきた。


「わ、わかった!! ――こう?」


 ラテルベルはO2の右腕を操作し、

 そっと、POCの手に重ねる。


 すると次の瞬間――


 ラテルベルの脳内に、

 轟音のような奔流が流れ込んできた。


「ッ……これは!?」


 駆け巡る魔法譜(クラフト)

 膨大な情報が神経を駆け抜ける。


 彼女の中で、

 かつてキロシュタインに教わった

 「共鳴魔法」の概念が呼び覚まされる。


 その感覚を確かめるように、

 無線越しにエリカライトの声が響いた。


「そうっ! わたしたちとラテルベルの共鳴魔法!」

「二人で作ったんだよー。どう、すごいでしょ?」


 ラテルベルは目を見開き、確信を込めて頷く。


「うん……! これなら、いける!!」


 カガルノワの声が続く。


「じゃあ――いくよ、ラテルベル」


 その言葉を合図に、

 ラテルベル、カガルノワ、エリカライト――


 三人の声が、ひとつに重なった。


 共鳴、開始。



「「「――詠唱開始(アンカー)!!」」」



 O2とPOCの重ねた掌に、

 赤と青、黒と白――異なる魔法構造が交差し、


 告式が重なり、術紋が輝き、

 魔法陣が高密度に展開されていく。


 そして――



「「「太陽の戦車(アグニッション)!!!」」」



 二機の巨体が、手を前に突き出す。


 魔法陣が幾重にも回転し、

 熱を孕み、加速する。



 ――魔法波、解放ッ!!



 轟音。閃光。


 生まれたのは、

 紅蓮のたてがみを纏う二頭の馬。


 その脚は燃え、尾は火炎を引き、

 空を走る軌跡は星の尾のように輝いていた


 その背に輝く太陽を曳きながら、

 まっすぐに――NEROへと駆け抜ける。


 その光景は、まるで空を裂く彗星のようだった。


 逃げ場などない。


 メリッサは、コックピットの中で詠唱を叫ぶ。


「――パララ・パラララ!! エッソゥ―デ!!」


 NEROから放たれる雷撃が、

 まばゆい光を放ちながら太陽の戦車を迎え撃つ――が……。


 雷が、焼かれる。


 紅蓮の戦車はすべてを焦がしながら突き進み、

 空を裂く炎となって、NEROを直撃する。



 ――終幕。



 燃え上がるNEROの機体内部。

 炎に包まれながら、メリッサは狂気の笑みを浮かべる。


「まだッ!! まだ、私は……」


「もっともっと楽しみたいのよッ!!」


 その叫びが、爆風にかき消された。

 

 静寂の中に残ったのは、

 炎の尾を引く軌跡だけだった。

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