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27|『太陽の衣を手に入れ隊 ③』

 テイルソニアの夜、追走劇。

 

 煌めく街灯が石畳を照らし、

 頭上には浮遊地区の光がゆらめいていた。


 夜の喧騒に紛れ、一つの影が駆け抜ける――。


 銀色の毛並みが夜の光を反射し、獣の瞳が鋭く輝く。

 狼男――「月喰いのハヴァロ」。


 その背後には、数人の盗賊たち。


 彼らは大通りへと躍り出ると、

 猛スピードで走る車の屋根に飛び乗った。


 ――ドン!


 車のボディが沈む。

 それを足場に、再び跳躍。


 車の屋根へ、さらに屋根へと駆け抜けていく。


 ――。

 ハヴァロは、息を荒げながら走り続ける。

 その胸には、言葉にできない焦燥があった。


(俺は、何をしてるんだ?)


(ただの盗賊じゃない……俺たちは……義賊になるんだろ!?)


 彼の手の中に握られた「太陽の衣」。

 それは、今にも燃え上がりそうなほど、鮮やかな赤い光を宿していた。


「っ……そうだよ、こんなもん、金持ちのやつらが持ってたって意味ねぇんだよ!」


 そう叫ぶように、自分に言い聞かせる。

 でも――。


 彼の胸の奥で、何かがざわめいていた。


(……けど、これ、本当に盗んでいいものか?)


 彼の頭には、キロシュタインの冷静な瞳がちらついていた。



 ◇



「ひっさしぶりに、いっくよー。せーの」

 

 トン!

 

 ノアはホウキに乗って、

 地面を軽く蹴り上げ、宙に浮いた。

 

「……あの、私も乗れますか」


 ツキナが控えめに尋ねる。


 ノアは、サムズアップしながら振り向いた。


「どうぞどうぞ~! ノア急行、まもなく出発しまーす!」


「シュッパツスルゼ!!」


 ホウキの先端にちょこんと座るポリプが、

 楽しげに宣言する。


「では……失礼して。……おぉ!」


 ツキナがノアの後ろにそっと乗り込む、

 ホウキが一瞬だけ沈み込むが、問題なく浮いた。


「私は地上から行くから」


 キロシュタインはそう言い残すと、

 歩道を駆け出した。


 ◇


 ノアとツキナを乗せたホウキが、

 夜空を切り裂くように加速する。

 

 同時に、ハヴァロたちは疾走を続け、

 反対側の歩道へと着地すると、裏路地へと消えた。

 

「ッ……!」


 ノアは即座に旋回し、

 低空飛行で人波の間を縫うように滑る。


 街の通りはまだ賑わいが残り、

 驚いた人々が声を上げながら左右に散っていく。

 

「あっ、あーすみません。お騒がせしてまーす!!」


「スマンナ!!」


 ノアとポリプは律儀に謝りながら、

 ホウキはさらに高度を上げた。



 狭い路地を抜けていくハヴァロ、

 突然マーケットに飛び出し、


 ――ギャッ!?


 通行人が驚いて後ずさる。


 ハヴァロと盗賊団は、勢いよく、

 マーケットを駆け抜けていく――。


 空中に果物や魚が舞って、もう無茶苦茶。


「――詠唱開始(アンカー)!!」


 ノアは腕に装着した羅針盤の針を回し、

 魔法を発動する。それぞれにくっつき合う磁力を与え、

 果物をもとあった場所へと戻していく。


 ツキナも詠唱する。


「……影生(カゲナリ)


 詠唱と同時に、ツキナの幻影が現れ、

 幻影は地上を駆けながら、

 ツキナはホウキの上で降ってくる魚をキャッチしていく。


「ホンマ、スマンナ! チャントカタヅケテイクンデ!!」


 ポリプが、マーケットの人たちに謝っていく。


 

 そして、盗賊団たちは再び大通りへと出て、

 停まっていた車を盗んで逃走しようとするが、


「――ポリプっ!! 出番だよ!!」


 ノアが叫ぶ。


「ガッテンショウチノスケダゼ!!!」


 ポリプはぴょんと跳び、

 盗賊団が乗った車の屋根へと飛び乗った――、


「――詠唱開始(アンカー)!!」


 ノアが、ポリプを対象に、

 羅針盤の針を魔法で回転させる。


「デンジパルスダゼ!!」


 ポリプを中心に発動されたのは、

 強力な電磁パルス――EMPだ。


 車の電子機器が誤作動を起こす。


「……チッ。動かない!!」

「逃げるよ、みんな!!」


 盗賊団は一斉に車から飛び出し、

 先を行くハヴァロを追って駆けていく。


 

 裏路地へ入ったハヴァロたちは、

 建物の隙間を跳び、壁を蹴りながら一気に屋上へ駆け上がる。


 

 ノアもそれを追い、ホウキの角度を調整。


「よーし、一気に――」

 

 グンッ、と体が引っ張られる。

 

 加速。


 空気が後方へと流れ、視界が一瞬ブレる。

 屋上へ向かい、一直線に飛翔する。



 そこは、屋上庭園だった。



 ハヴァロを先頭に、盗賊団は、

 次の屋上へと一直線に駆けていく。


 だが、ツキナの幻影が彼らに迫っていた。


 それに焦ったのか、盗賊団の一人が足を踏み外して、

 屋上から落下――、



「よっ――と。大丈夫そ?」



 ノアが、ホウキを急降下させ、

 落下する盗賊の手を握った。


 その時、一瞬見えた彼の顔はとても幼く見えた。


「触るなッ!!」


 その盗賊は礼も言わずに、

 壁を蹴って屋上へと駆け上がっていく。



 ◇ 



 一方、キロシュタインは――、

 歩道を悠然と歩いていた。


 夜風が、彼女の髪と、

 イブニングドレスのスカートをなびかせる。

 

 彼女は手元のノートを広げ、さらさらと鉛筆を走らせる。


 街の構造が、数秒で描き起こされていく。


「……この道を抜けたら、浮遊地区への連絡橋がある……なるほど」


 鉛筆を回しながら、ふっと息をつく。



 …………、


 ……、



 ハヴァロが、

 一瞬だけ振り返り――舌打ちした。


「時間稼ぎだ、やれ」


 盗賊たちが立ち止まり、

 ホウキで追うノアたちへと向き直る。


「足止めね……」


 ノアが速度を緩める。

 

 その間に、ハヴァロは屋上から屋上へと飛び移り、

 浮遊地区へと消えていった――。



   27.『太陽の衣を手に入れ隊 ③』



 浮遊地区への連絡橋――。


 キロシュタインは、連絡橋の欄干に腰掛け、

 削ったばかりの鉛筆を軽やかに滑らせながら、

 ノートへ魔法譜を書き記していく。

 

 眼下には、複雑に絡み合うテイルソニアの街並み。

 頭上には、青みを帯びた満月と瞬く星座が広がっていた。


「~~ン♪」  


 彼女の鼻歌が、夜風に溶けていく。


 そこへ、一人の少年が足音を忍ばせながら近づいてきた。

 坊主頭で、痩せこけた少年。

 

 キロシュタインは、顔を上げて微笑む。


「あぁ――、待ってたよ。……ハヴァロくん」



 ◇



 テイルソニア・とある屋上――。


 ノアとツキナがホウキから降り立ち、

 盗賊たちと向かい合う。

 

 暗闇で気がつかなかったが、

 数人のその盗賊はみな、

 ノアと同じ十代の少年少女だった。


 服は擦り切れ、身体はどこか痩せこけている。

 瞳には怯えと警戒が交じり、

 何かを奪われることへの恐怖が染みついている。


「まさか……子供だったとは」


 ツキナが静かに呟く。

 ノアも、わずかに目を伏せて頷いた。


「なによ!! それ以上近づくなら、容赦しないわよっ!!」


 盗賊の中の一人の少女が、震える声で叫ぶ。

 その手には、小さな短剣が握られていたが、その手は明らかに震えている。 


「なーんだ、盗賊っていうから、もっと怖い人たちを想像してたよぉー」


 ノアが、いつものように軽く笑う。

 しかし、その声のトーンは先ほどよりも低かった。

 

 ツキナは、ノアを一瞥し、冷静な声で問いかけた。

 

「……ノア、どうしますか……?」


 ノアは手首の羅針盤、その針を魔法で回しながら、


「うん? もう終わったよー」と静かに呟く。


 羅針盤は白銀色に輝いていた。


 キィズ=マキナ領域:第Ⅴ契、魔法電磁気学――。


 一人の少年が一歩前に踏み出そうとする。

 次の瞬間――。


「なっ……足が……動かない!」


 少年の体が地面に縫い付けられたかのように硬直した。 


「くそッ……!!」「私も! ッ、動かない!!」「なんで……!?」


 盗賊たちは混乱し、もがく。

 ノアは、飄々とした口調で言った。


「磁力でガッチリ固定。しばらく動けないよ?」

「ほら、君たちの足にはN極、床にはS極。ぴったんこだね~」



 と、その時――。


 屋外階段を上ってくる足音が二つ。

 夜の静寂の中、足音がコツ、コツと響く。

 ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる。

 

 現れたのは――。

 キロシュタインと、坊主頭の少年だった。



 ◇



 キロシュタインは、浮遊地区への連絡橋の欄干に腰掛け、

 ノートにさらさらとペンを走らせた。


「3分50秒、ね……」 


 鉛筆の先を回しながら、静かに呟く。


(変身魔法の持続時間は、消費魔力から逆算すると約4分……)

(でも、実際に見た限り、彼の魔力量では4分も持たない)


 彼女はニヤリと微笑む。


(つまり――)


(「変身が解けるタイミング」で、あえて敵を追い込めばいい)


 彼女は、ノートに「ターゲットポイント」として×印を記した。


「さて、そろそろ出てくる頃かな?」


 そして、次の瞬間――。


 目の前の影が揺らぎ、少年が飛び出してきた。


 キロシュタインは、顔を上げて微笑む。


「あぁ――、待ってたよ。……ハヴァロくん」


 少年は、キロシュタインの言葉にビクッと肩を震わせた。


「なっ、なんで俺がハヴァロだって分かった……ッ!」


 少年の姿は、さっきホテルで太陽の衣を盗んでいった、

 あの狼男とは似ても似つかない。

 

 年はキロシュタインよりもおそらく下で、

 薄汚れた服装、皮膚にはあばら骨が浮き出ていた。

 背は低く、2メートルどころかキロシュタインとさほど変わらない。


 キロシュタインは欄干に腰掛けたまま、鉛筆をくるくると回す。


 純白のイブニングドレスに、月光の青が溶けて混ざり、

 夜の空と光の街、隻眼の少女が織りなす幻想的な調和。


 その光景は、まるで一枚の絵画だった。


「3分50秒よ」


 キロシュタインはぽつりとそう言い、少年の目をまっすぐ見つめた。


「キィズ=アニマ領域:第Ⅵ契、変身魔法――」

「君はその魔法を使って人狼に変身していた」

「変身魔法は、キィズ魔法体系の中でも魔力の消費がとくに多い……」

「さっき、人狼になっている君の姿を見て、」

「わたしは変身が解けるまでの時間を頭の中でざっと計算した」


「その時間が、3分50秒なのよ」


 少年は、それがどうしたというように、

 鋭い目つきでキロシュタインを睨む。


「変身が解ける瞬間を見られるわけにはいかないでしょ?」

「とすると。君は、人通りが少ない場所で変身を解こうと考える」

「ホテルから3分50秒以内に辿り着ける、人通りが少ない場所……」


 キロシュタインは言葉を止め、

 ノートの一ページを開いて少年に見せた。

 

 そこには、細かく描かれたテイルソニアの街の地図。

 その中に、×印が記された場所が一つ――。


「それがここ。……まぁ、ぜんぜん的外れの可能性もあったけどね」


 少年は、追い詰められてもなお、

 鋭い目つきでキロシュタインを睨み続ける。


「――だっ、だからって。俺がハヴァロだって分かるはずがない!!」


「いや。なんで俺がハヴァロだって分かった、って自分で言ってたじゃない」


 少年は、言葉を失い、硬直した。。


 その時――。

 橋の欄干に、一匹のハエがゆらゆらと飛んでくる。

 

 キロシュタインはそれを見て、小さく息を呑んだ。


 一つ深呼吸をしてから立ち上がり、

 キロシュタインは、少年に言う。


「……返して。アンタが盗んだ太陽の衣、持ってるでしょ」

「友達へのプレゼントなのよ。それ。……15万カザラルもしたんだから」


 少年は、なおも知らんぷりを決め込もうとする。

 

 キロシュタインはため息を吐き、

 それから大きくあくびをしながら伸びをした。


「ふぁーっ!! ……眠い」


「な、なんだよ! お前何者だよ!!」


 少年が叫ぶ。

 だが、キロシュタインは気にもせず、普通に会話を始める。


「君さ、人って殺したことあるの?」


 少年は、唐突な質問に動揺しながらもはっきりと答える。


「っ――ないよ。あるわけないだろ。……なんでそんなこと聞くんだよ」


「さっきホテルでとあるおじいさんに言われたのよ」

「ケガをしたくなかったら関わるな、って」

「だから? 人殺しも厭わない悪逆非道な盗賊団なのかなと」


 キロシュタインにそう言われて、

 少年は強く首を振って否定した。


「俺たちハヴァロ盗賊団はそんなことしない!!」

「俺たち盗賊団は……みんな、生きるのに必死で……」

「こんなこと言ったら怒られるかも、だけど。……義賊に、なりたいんだ……」


「俺たちは、義賊に――」


 そこで、突然少年が沈黙する。


 ――銃口。


 キロシュタインがホルスターからピストルを取り出し、

 少年の心臓に狙いを定めていた。


 ハヴァロの全身が震えていた。

 夜風が冷たいはずなのに、背中を流れる汗が止まらない。


 目の前の少女が、無言で銃を構えていた。


 その仕草は、あまりにも自然で

 ――あまりにも冷静すぎた。


「や、やめろ……!! 返す!! 返すから!!」


 ハヴァロは、ズボンにシミを作りながら必死に叫んだ。


 だが、キロシュタインは何も言わない。


 ただ、ピストルの銃口が、彼の心臓を正確に捉えている。

 指先の動き一つで、簡単に命が消える距離。


「……なぁ、お前……本当に、撃つつもりかよ……?」


 震える声で問いかける。


 そんな少年を見ながら、

 キロシュタインは優しく微笑む。


「――ハヴァロくん」

「……アンタに呪いをあげる……動かないでね……」


 そう言いながらキロシュタインは、

 ピストルを構えたまま少年の目の前まで近づき、


 そして――。


 少年の手にそっと、

 金色のカザラル貨幣を一個握らせた。


 その瞬間、ハヴァロの体がビクリと震えた。

 手の中にあるのは――金のカザラル、一個だけ。


 金色のカザラル。

 それ一個で、一万カザラル(100万円)の価値があるものだ。


 「……なんだよ、これ……」


 彼は、小さく呟いた。


 ただの金属の塊のはずなのに、

 まるで体温を奪われるように冷たかった。


 キロシュタインは、静かに囁く。


「なんだよ……なんで、これを……」


「それが呪いよ。わたしからのプレゼント」


 カザラルの重みが、ずしりと彼の手に食い込む。


 (……呪い……?)


 ただの"一個のカザラル"なのに――。

 なぜか、胸の奥に重くのしかかるものがある。


 キロシュタインは、

 ピストルをホルスターに戻し、静かに少年の前から離れる。

 

 少年は、金のカザラルをポケットに入れ、

 代わりに小さな鍵を取り出す。

 

「……これ、ロッカーの鍵。盗んだものはそこに隠してある」


「――うん。ありがとう、ハヴァロくん」


 キロシュタインはそう言いながら、また優しく微笑んだ。


 ハヴァロは最後にこう呟く。


「俺たちは、義賊になれると思うか?」


 キロシュタインは少し考えた後、こう答えた。


「それは、アンタが決めることよ」




 …………、



 ……、




 あの後、無事に『太陽の衣』は取り戻され、

 後日、ゼロシキ商会に送られることになった。


 ハヴァロ盗賊団の行方は知らない。


 キロシュタインも、ノアも、ツキナも。

 彼らとは何も会話を交わさず、屋上でそれぞれ、別々の方向に去った。



 時刻は、深夜0時過ぎ――。



 三人は、ホテルの部屋にある露天風呂で体を休めていた。


 ノアは、浴槽の縁に顎を乗せ、ぐでぇぇっと全身の力を抜く。

 お湯の中でゆらゆらと揺れる彼女の髪が、まるで水草のようだった。


「ふぁぁ~~~……天国ぅ~~~~……」


 湯の温もりが、骨の芯まで染み渡る。

 血が巡り、全身の緊張がほどけていく感覚が心地よかった


 白大理石で造られた豪奢な露天風呂には、

 入浴剤で白くとろみを帯びた温かい湯が張られている。

 

 ガラスのフェンスの向こう、白い湯気がゆらめく中、

 夜のテイルソニアの景色が広がる。

 

 マーケットの賑わいも落ち着き、

 星礼院のある巨大庭園には、

 静寂と幻想的な灯りが満ちていた。


 キロシュタインは、

 デッキチェアの上でバスタオルを布団のようにかぶり、小さな寝息を立てていた。


 ツキナが、ノアの隣に歩み寄り、静かに尋ねる。


「……あの、ノアさん」


「ん、なぁ~に?」


 ノアは湯に溶けるような声で答える。


 ツキナは、

 ノアのリラックスした姿をちらりと見ながら、改めて問いかけた。


「……お二人は、どうやって知り合ったんですか?」


 ノアは、ゆるりとした調子で語り始める。


「キロちゃんとの出会いねぇ~。それはそれは~奇妙な~」


 彼女は、お湯に沈みかけていた体をシャキッと起こし、

 何かを思い返すように、指先でお湯の波紋を作った。


「……ん? そういえば、どうしてだっけ??」


 目を細め、記憶の糸をたぐるように、ぽつりぽつりと呟く。


「キロちゃんが不思議な椅子に座って……」

「地上世界に……そこで私と出会って……約束をして……」


 その瞬間。

 ノアの指が、水面に落ちる。


 ――ぽちゃん。


 彼女の眉がピクリと動いた。


「真っ黒なカルディアが現れて……」


 記憶を手繰るように目を細めると、突然、目を見開いた。


「――そうだ!! 未来の私とキロちゃんに会ったんだよ!!」


「なーんだ。ぜんぶ覚えてるじゃありませんかー」


 はしゃぐように言ったノアだったが――。


 ツキナの視線には、彼女の瞳の奥に、

 一瞬だけ"戸惑い"がよぎるのを捉えていた。

 

 まるで、何かが噛み合っていないような――。


「……そうなんですか」

「なんとなく……すごかったことだけ伝わりました……」


 ノアの話す"未来の自分とキロシュタインに会った"という出来事。

 それはあまりにも突拍子がなく、理解しがたいものだった。


 だが――。


 ノアの表情に浮かんだ、ほんの一瞬の"違和感"。

 その細かな変化を、ツキナは見逃さなかった。


(……この二人の"出会い"には、何かある……?)


 ツキナは、胸まで湯に浸かりながら、

 夜のテイルソニアの街をぼんやりと眺めた。

 

 キロシュタインはすでに寝息を立てている。

 ノアは、一瞬考えたあと、また緩い笑顔に戻っていた。


(……今は、深く聞かないほうがいいかもしれませんね。)

 

 ツキナは、そう思いながらも――。

 ノアとキロシュタインの関係に、

 何か"秘密"があるのではないか、という感覚を拭えずにいた。


 ――ノアはふと、胸を張って高らかに言う。


「そう! 私とキロちゃんの出会いは、まるでおとぎ話のような、」

「壮大で、ダイナミックで、ファンタジーで、そして――大爆発だったのだ!!」

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