73 手紙
今夜もサニアは僕の受験勉強に付き合ってくれていた。僕はふと気になって聞いてみた。
「大学の入試って専門学校のよりも難しいの?」
うん、まあ、多少は。
そっか、そうだよね。でも僕がもう1年B計画に参加して大学へ行くとしてもあと1年ある。
大学にも人気があるところとそうじゃないところがあるから、大学ならどこでもいいというならなんとかなるんじゃない?
あと元々お金を持っている人たちだから、イザとなれば浪人するということもできるし、1年みっちり勉強すればかなり出来ない子でも大丈夫なんだと思う。
「上流階級も大変だね」
親にしたら自分の子供が自分より下の階級になってしまうのは避けたいんじゃないかしら。それにそういう思いは技術者階級より上流階級の方が強いかもしれない。
そういうものなのか。中流階級だって自分がとか自分の子供が貧民窟に落ちるのはイヤだし、そういう感情は階級にかかわらずみんなあって当たり前か。
「なんかごめん、サニアも忙しいのに僕の勉強に付き合わせてしまって」
それは別にいいわよ。私もジェイミィに幸せになって欲しいから、ジェイミィは自分のやりたいことをするべきだと思うし。
「なんか母親みたいなセリフだね」
そう言うとサニアは笑った。サニアは黙っているとちょっと冷たい感じがする美人だけど、笑うとかわいらしい感じになる。
次の日、僕は所長のコテージに行って、僕ももう1年B計画に参加すると告げた。
1人で言ってもよかったんだけど、アウラも一緒だ。
受胎の可能性が高い若い間のもう1年を無駄にしてしまうかもしれませんよ。
リリシャ所長はそう言った。
B計画に参加していたからといっても35歳までに子供を作ることが出来なかったら不適格者になることは免れませんし。
なるほど、彼の心配はそこか。
「大丈夫です、理解しています」
僕はそのことに関しては心配はしていなかった。ここに来る前の身体検査で生殖能力があるということが証明されたからだろうか?
いや、違うな。ヤコブの言ってた「18歳で結婚した時はまさかこんなことになるなんて思ってもいなかった。」というやつか。
理由も無く自分だけは大丈夫と思ってしまう。35歳とか、先ずぎて実感がないだけかもしれないけど。
それから僕は手紙を書いた。
まず母に。何をどう書いてもケンカになりそうだった。
昨夜はサニアのことを母親みたいだと言ったけど、現実の母親はあんなにものわかりがいいわけじゃない。
僕に幸せになって欲しいと思っているのはわかるけど、彼女の考える幸せと僕の考える幸せの方向性が違うから。
だから、所長やアウラの言っていたように、「もう1年帰宅が遅れることになりました」という報告だけにした。
そしてエリナにも、と思ったら、出せる手紙は1通だけだそうで、僕は迷った挙句母への手紙に同封してエリナに届けてもらうことにした。
3月16日、17日は更新をおやすみさせていただきます。




