68 ターニングポイント
第4次B計画の日程も残り2週間になった。ちょっと華やいだような、ちょっと寂しいような空気が流れている。
これ、高校の卒業式の前みたいな雰囲気ね、とサニアが言う。言われてみればそうだな。中流階級の高校なら卒業しても街中で出会うこともあるだろう。
でもここでは、参加者は全国各地から集まっているから、誰かに会いたいと思っても本気で会いに行かなければ会えないだろう。そして故郷の惑星に帰ってしまえばみんなそれぞれに仕事や学校で忙しくなる。だからもう会うことがない人たちだと思うと寂しい気持ちになる。
朝食が終わってそんな事を考えていると、静かに所長が近づいてきて、昼食後に私のコテージまで来てください、と言った。
「え?」
と振り向いたときには所長はもうそこにはおらず、食堂の出口のところでアウラにもなにか言っていた。
所長がいなくなるとアウラの目線がキョロキョロと動いて、やがて僕の上で止まった。
「どういうこと?」アウラの目がそう訴えていた。
僕は無言でアウラの横を通ってラボに向かって歩く。僕は振り返らなくてもアウラが付いてくるのがわかった。
無人のラボで向き合うと、押し黙ったアウラの心臓の鼓動の音が聞こえそうだ。
「やっぱりバレたかな」
僕は口火を切った。
なんで今頃?そういうアウラの顔色は悪い。元々色白なのに、血の気が失せて真っ白な顔をしている。
バレたとして、なんで今頃言ってくるわけ?
「そ、それは、途中でなんか言ってきて、僕たちが処分を受けることになったら他の参加者の人の中に12人とペアになった人と11人としかペアになれない人がいて不公平になるから。とか?」
僕は自分でそう言いながらヘンな理屈だと思う。
だから今まで何も言わずに黙ってたというの?その間に私かジェイミィのパートナーがまた妊娠したらどうなるの?
「うーん、でもそれならB計画としては成功だから、、、でもやっぱりそれはないかな」
B計画の僕の最初のパートナーはアウラで、僕が何もしていないのにアウラに妊娠反応が出た。結局子供は流れてしまい、子供の父親が本当は僕ではないということは誰にもバレていないと思っていた。
最初は結構ビクビクしていたけど、誰も何も言わないし、僕だって最近は忘れがちになっていた。
けれど、どうして今頃になって?これならすぐに何らかの処分が下されていたほうがマシだとさえ思った。
ともかく。何を言われたとしてもジェイミィは「何も知らなかった」で通してね。
あいかわらずアウラはそんなことを言う。
そんなことできるわけがない。僕の中で一番幸せにならなければならないのはアウラなのに。
けれどそんなことできないと僕が言ったところでアウラが納得するはずがないから、僕はうん、と言うしかなかった。




