最終話 「自業自得だろ。……じゃあな」
リディアがいなくなった『紅蓮の牙』は、見る影もなく落ちぶれていた。
回復術を使える者はおらず、魔術での援護はすぐに魔力切れを起こし使い物にならない。
以前なら簡単に倒せた魔物に苦戦し、依頼は失敗続き。
とうとうギルドからも信用を失い、まともな仕事を受けられなくなった。
だが、彼らは自分たちの非を認めなかった。
「全部あの女のせいだ!」
ガルドは酒をあおった。
「俺たちが落ちぶれたのも、あいつが英雄になったのも、全部あいつが俺たちを裏切ったからだ!」
「そうだ! あいつが俺たちの手柄を横取りしたんだ!」
実際には、リディアが抜けた途端に彼らの実力不足が露呈しただけだった。
それでも彼らは逆恨みをやめなかった。
やがて、彼らは旅人への恐喝や商人への強盗に手を染めるようになった。
さらにはリディアの名を騙り、英雄への寄付金だと偽って金を集め始めた。
ーーしかし、悪事は長く続かなかった。
被害者たちの通報を受けた憲兵隊が捜査を進め、ついに彼らを逮捕したのだ。
「離せ! 俺たちは冒険者だぞ!」
「英雄リディアの元仲間だ! こんな扱いをしていいと思ってるのか!」
憲兵隊長は冷ややかに言い放った。
「その英雄の名を騙り、民を脅して金を奪ったのは貴様らだ。言い訳は牢獄で聞こう」
「ち、違う! 俺たちは……!」
「連れていけ!」
こうして、『紅蓮の牙』の面々は牢獄へと送られた。
数日後。
リディアは王都の冒険者ギルドで、その話を耳にした。
「へえ。あいつら、捕まったのか」
受付嬢が心配そうに尋ねた。
「リディアさん、元仲間だったんですよね。気になりませんか?」
「まあ、そりゃ多少はな」
リディアは腕を組み、少しだけ考えた。
「けど、自分で選んだ道だろ。あたしが追放されたことと、あいつらが悪事を働いたことは別の話だ」
「……そうですね」
「人を傷つけておいて、他人のせいにしてりゃ、そりゃいつか報いを受けるさ」
彼女は椅子から立ち上がり、剣を背負った。
「ま、もういいだろ。あたしにはあたしの仕事がある」
「次の依頼ですか?」
「ああ。東の村で魔物が出たんだと。放っておくわけにもいかねえだろ?」
リディアはニッと笑った。
「じゃ、行ってくるぜ!」
ギルドの扉を開けると、外には彼女を待っていた子どもたちがいた。
「英雄様! 今度はどこに行くの?」
「東の村だ。魔物退治さ!」
「気をつけてね!」
「おう! お前らも元気でな!」
子どもたちに手を振り、リディアは街道を歩き出した。
剣も、魔術も、回復術も。
彼女の力は、誰かを見返すためのものではない。
困っている奴がいたら助ける。
傷ついた奴がいたら治す。
ーー守るべきものがあれば、どんな相手にも立ち向かう。
ただ、それだけだ。
「さて、今日もひと仕事するか!」
青空の下、銀髪の女剣士は豪快に笑った。
かつてパーティから追放された彼女は、今や国中から愛される英雄となった。
そして彼女は今日も、誰かのために剣を振るう。
「助けが必要なら呼びな。あたしが来たからには、もう安心だぜ!」
――完――




