第二話 名前を知らないふり
第二話です。
たぶんこの二人、
近いのにめちゃくちゃ遠いです。
よろしくお願いします。
授業中。
窓の外では、春の風がカーテンを揺らしていた。
教室の声は眠くなるくらい単純で、教室の空気
もどこか気だるい。
湊は頬杖をついたまま、ぼんやり前の席を見る。
朝比奈 雫。
今日もほとんど喋っていない。
友達が話しかければ返事はする。
でも、自分から輪に入ることはなかった。
別に珍しいことじゃない。
クラスにはそういう奴もいる。
なのに今日だけ、妙に目に入った。
『眠い』
朝送られてきたメッセージを思い出す。
ただの偶然。
そう思っているのに、視線が向いてしまう。
その時。
雫が小さく欠伸をした。
窓から入った風で、黒髪が少し揺れる。
綺麗だな、と一瞬思った。
すぐに、
「......何見てんの」
隣の男子に肘で小突かれる。
「別に」
「朝比奈?」
「違う」
「いや絶対そうだろ」
にやにや笑われて、湊は眉を寄せた。
「違ぇって」
小声で話す。
その瞬間。
前の席の雫の肩が、ほんの少しだけ揺れた気
がした。
笑った......?
いや、気のせいかもしれない。
放課後。
湊はコンビニでレモン炭酸を買った。
空は少しだけ曇っている。
イヤホンをつけたまま歩いていると、スマホが
震えた。
『帰宅』
”雨”からだった。
『おつかれ』
『そっちも』
『今日はマシだった?』
少し間が空く。
画面には「入力中......」が浮かんでは消えた。
『微妙』
短い返事。
でも、そのあと。
『ずっと眠かった』
湊は思わず笑った。
『授業寝そうだった?』
『ギリ耐えた』
『えらい』
『褒められた』
たったそれだけなのに、
少しだけ気分が軽くなる。
湊は歩道橋の途中で立ち止まった。
夕方の風が少し冷たい。
『そういえばさ』
『ん』
『レモン炭酸うまい』
『あー分かる』
『炭酸苦手だけどあれだけ飲める』
送信。
その瞬間だった。
遠くから、誰かが階段を上がってくる音がする。
湊は何気なく振り返った。
そして、止まる。
朝比奈 雫だった。
コンビニの袋を片手に持っている。
雫は小さく会釈する。
その時。
コンビニ袋の隙間から、
レモン炭酸の黄色い食べるが見えた。
湊の視線が、一瞬だけ止まる。
でも。
いや、そんな偶然くらいあるだろ。
そう思い直して、スマホを見る。
通知。
『それ美味しいよね』
”雨”からだった。
湊は少しだけ、胸がざわつく。
前を歩く雫の黒髪が、風で揺れた。
一方その頃。
雫は歩道橋を下りながら、自分のスマホを強く
握っていた。
心臓がうるさい。
さっきのメッセージ。
『炭酸苦手だけどあれだけ飲める』
その通知が来た瞬間。
目の前にいた湊の手には、
同じレモン炭酸があった。
偶然。
そんなの、分かってる。
でも。
タイミングが、あまりにも重なりすぎていた。
雫は小さく息を吐く。
そして、スマホ画面を見る。
トーク欄には、
さっきまで打っていた文章が残っていた。
『今日、学校でーー』
そこまで書いて、
全部消す。
指先が少し震えていた。
読んでくださってありがとうございます。
たぶん雫は今、
かなり混乱してます。
でもまだ、
「そんなわけない」で止まってます。




