太陽と嵐を司る神
「下界の者を倒すこと。それが、あなたの使命よ」
ヴィオレットは神らしく男に啓示を伝えた。
「わかりました」
男は何も聞かず、ただ自分の運命を受け入れた。
まさか、ここまであっさりと受け入れられるとは思ってもみず、少しだけ拍子抜けをした。
だが、この者の魂ならそうなるのも当然かとヴァイオレットは思い直した。
「あなたに私の力を授けるわ。どう使うかはあなた次第よ。力はあなたの魂によって変化するわ」
ヴァイオレットは言い終ると、男の返事を待たずに力を授けた。
男は突然、神の力を手にしたことにより体が重くなり、意識が遠のいた。
「次に目が覚めた時には、力が使えるようになっているわ。他にもあなたほどではないけど、一部の人間にも特殊な能力も使えるものが出現しているわ。でも、神の力を持っているのはあなただけよ。そのことを忘れないでね」
男は眠気に抗えず、遠のく意識のなか運命の女神と名乗った彼女の声に導かれるように意識を手放した。
次に目を覚ました時、男は見慣れた天井が目に入り、変な夢だったな、と思っていると鏡に映った自分の目が黒から青に変わっていて、驚いて尻もちをついた。
いろんな人に自分の目の色のことを尋ねるが、他の人には黒に見えているのか、男の様子がいつもとあまりにも違うので風邪でもひいたのではないかと心配して、家に尋ねてくる人が後を絶たなかった。
そのせいで、男はあれが夢かどうか確かめるための神の力が自分に本当に与えられたのかを確認するまで三日かかった。
「上手くいきましたね」
時の神はヴァイオレットが男に力を無事に与えられたのを確認すると、淡々と言った。
「はい。ですが、あの人間にとっては、これからつらいことばかりおとずれるでしょう」
「申し訳ないと思っているのですか?」
ヴァイオレット時の神にそう尋ねられても自分の感情がどういうものなのかよくわからず「よくわかりません」と答えるしかなかった。
「そうですか」
時の神はそれ以上何も言わなかった。
ヴィオレットは何となく時の神が怒っているような気がした。
顔は陰になっていてよく見えなかったが、晒しだす空気がいつもより少し冷たく、肌がピリついたせいもあり不穏に感じた。
「泊っていきますか」
神に時刻など関係ないが、空は暗い。
いつもは一人で過ごす夜も、今日ばかりは一人で過ごしたくなく、気づけばそう口にしていた。
「いえ。大丈夫です。私は、これで失礼します」
先ほど感じた空気は気のせいだったかと感じるほど、時の神の空気はいつも通りに戻っていた。
「そうですか。わかりました」
ヴァイオレットはいつもの夜を過ごすだけだと自分に言い聞かせ、時の神を見送った。
ヴァイオレットは今夜だけは何もしたくなく、ただ男の未来が少しでもいいようになるよう願った。
※※※
空が青くなり、太陽が現れ、ヴァイオレットは気持ちを切り替えた。
男は自分の使命を受け入れた。
ヴァイオレットも自分の使命を果たそうと、仕事にとりかかろうとすると、天花園に誰かが訪ねてきた。
気配から時の神ではないとわかった。
誰だろう、と思いながら、知っているような気配を感じ、その相手を思い出そうとするが無理だった。
諦めて、その者に会いに行こうと正門に向かうと、相手をみて「あぁ。そうだった。護衛がつくことになったのだ」と、昨日のことを思い出した。
「いらしたのですね。どうぞ、お入りください。太陽と嵐を司る神」
太陽を司る神なだけあり、全てを照らすような温かさをヴァイオレットは感じだ。
「ああ。そうさせてもらう」
太陽と嵐を司る神はヴァイオレットに微笑んだ後、天花園に足を踏み入れた。
動くたびに、腰ほどある美しい金髪が靡く。
太陽の光に照らされ、更に輝きを増す髪。
女神たちは太陽と嵐を司る神が通るたびに、容姿だけでなく髪の毛さえもうっとりした表情で眺めるが、ヴァイオレットは「眩しいな」と思うだけで特に何も思わなかった。
ヴァイオレットは自分の神殿に案内すると、「好きに過ごしてくださいと」と一言だけ言って仕事にとりかかろうとその場を後にする。
護衛の意味わかっているのかな、とあまりにも予想外な言動をするヴァイオレットに太陽と嵐を司る神は呆気に取られてしまう。
どうしたものかと、神殿の窓から少し離れた場所で花のお世話を始めるヴィオレットを眺めた。




