第十六話 ワタリガラスの残像
「勝ち取る、か…。」
勝ち取ろうとしている。
そう言われて、確かにそうかもしれないと思った。自分の中に存在していた曖昧ながらも強い衝動に急に名前が与えられたような気がした。
「俺は自分の運命から逃げて、その袋小路で追い詰められたと思っていた。だけど、本当は違ったのかもしれない。自分の運命を勝ち取りたいという欲望を抑えつけていた。」
言葉にしてみることで、己が持った勝利の欲求という存在についてより腑に落ちた気がした。
「王家の墓に来るような人間はみんなそうだって私は思うよ。君の嫌々でとか、仕方なく来たなんて全部ただの言い訳。だって、これから王権を手にして王になろうという人間は、どんなに敗北を恐れたって、その心の奥底で望むものは絶対的な勝利だけなんだからさ。」
「ああ、そうだな。そうかもしれない。俺は言い訳をしていた。弱みを握られて脅迫されたのを言い訳にして、自分が王権偉宝を横取りして、俺を都合よく使おうとしたことへの落とし前をアイツにつけさせるつもりだった。本当は脅されたからとか、そんな理由よりも、レガリアを手にしたアイツが俺を差し置いて全てを手に入れようとすることが、それが一番許せなかった。全てを手に入れたいという欲深い己の本心から目を背けていた。」
「だったら最初からそう言えばいいじゃないか。回りくどいこと言わないで、レガリアを奪いに来たってさ。というか、脅されたからって普通王家の墓には行かないって」
脅されて来たというくだりが面白かったのか、セシリアは少し笑って見せた。
「なんか不思議な気分だ。俺の中にある全てを勝ち取りたいって気持ち、アンタに言われて始めて自覚するなんてさ。」
ほんの僅かな会話で自分の中にあった隠れた本心に気付かされるなんて、セシリアには人の心を暴くような力でもあるのではないかと錯覚させた。
隠し事だらけの俺が言えたことではないが、この塔に居ることといい、俺の変身能力を造作もなく解いたことといい、謎の多い女性だ。
「復讐したい気持ちだって君の本心だろう?」
「どうだろうな。俺にもわからないが、アンタが言うならそうかもな。少しの会話で俺の本心を暴いてみせたアンタならな。」
俺の言葉にセシリアは肩をすくめて反応した。
「心を覗ける、なんて思われてるなら、それは買い被りと言うものだよ。大昔にワタリガラスを連れた騎士がいたんだ。夜を喰らって空に太陽を齎した伝説の騎士。彼は何度負けても勝利のために立ち上がった。君がワタリガラスの姿をしていたから、君も負けず嫌いなのかと思ってさ。」
「ワタリガラスの騎士、か。聞いたことねぇが…。」
「そりゃそうだよ。今の王家の宿敵だからね。とっくに歴史から消されてる。でも、誰も知らなくても私は知ってる。だから、ワタリガラスは私にとっての勝利の象徴。」
「だから思わずってところか?」
セシリアはゆっくりと、それでいて力強く頷いた。
「ワタリガラスならきっと負けず嫌いだってね。」
「じゃあ、俺が猫ちゃんの姿でこの塔に入ってたらまた違っていたわけだ。」
「まあ、そういうことだね。魔法使いって名乗るとどう言うわけか心を覗いてるって思われて実は大変なんだよね。」
「紛らわしいこと言うからだな。魔法使いじゃないのならきっとアンタは一流の詐欺師だ。」
「君は塔に忍び込んで出られなくなった三流の盗賊だね。」
冗談めかしてセシリアは言う。
「せめて二流と呼んでくれ。」
「それは君の心がけ次第かな。」
「そーかい。なんにしても、一応礼を言わせてくれ。アンタのおかげで自分が何をしたいのか分かった。だから、ありがとう。」
たとえ彼女の言葉が偶然によって生まれた言葉だったとしても、その言葉がなければ俺はモヤモヤしたまま王家の墓に挑むことになっただろう。心の持ち方は勝利を左右する。
それを晴らしてくれたのなら、きっとセシリアは俺の恩人なんだと思った。




