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第十五話 魔女と盗人

「結構よ。それで、君のお名前は?」


「エド・アルセン。今はそう名乗ってる。」


「今は、ね。なんだか随分と訳ありみたいだね。」


偽名であることが分かるように今の名前を伝えたが、セシリアはどうでもいいことのように流した。


「ま、いいか。それでエド君。さっきも聞いたけど、君は何をしにこんな場所に来たのかな?」


そんなことよりも、彼女は俺が何故ここにいるのかが気になるらしい。


「ただの物見遊山、なんて言ったら信じるか?」


惚けるような言葉をセシリアは鼻で笑ってみせる。


「まさか、あり得ないよ。」


セシリアは素っ気ない口調で俺の軽口を受け流した。


「烏を真似てコソコソと壁の中に入ってくるような人がこの場所に侵入することの意味を知らない筈がないでしょう?」


呆れたようにセシリアは言った。軽い冗談のつもりだったが、どうやらお気に召さなかったようだった。


「半分くらいは本当だけどな。ある程度見物したらそのまま出ていくつもりではあった。だけど、帰り際にこの辺りに建っているにしては妙に新しい塔があると思って立ち寄ってみたんだよ。まさか出られなくなるなんて思ってもみなかった。」


「ふーん、じゃあ、この塔に来たのはついでってわけだね。」


少しガッカリした様子でセシリアは言った。


「つまり君は単なる墓荒らしってことか。」


ここで墓荒らしであることを認めるべきなのかと、暫しの逡巡が沈黙を誘う。


「何かな?」


黙っている俺を見て不審気にセシリアは眉を顰めた。


「いや、別に…。」


「心配しないでも墓荒らしがいるなんて言いふらしたりしないよ。コソ泥がいるなんて教えたってこの塔から出してもらえるわけじゃないからね。」


「お見通しってわけか。まぁ、こんなところに観光客が来るはずもないしな。隠そうとしたって余計な心配か。逆に墓荒らし以外がこんなところに来ていたら驚くところだ。」


「まるで墓は荒らすためにあるって言ってるみたい。普通はお墓参りに来るところでしょ。」


「こんなおっかない墓、誰も墓参りなんてしないだろ?」


肩をすくめてそう言った。王族でさえこの墓場には近寄りたくはないだろう。


「そうかもね。でも、そう思うならどうして来たの?」


「仕方なくだよ。アンタも最高刑のことは知ってるだろ?」


自分で言っておいて、思わずため息が出る。


「有名だからね。英雄グリムリードが一夜にして反逆者扱い。そうして課された刑が最高刑。噂だと寿命で死ぬまで続く拷問刑だっけ?」


俺は首肯して応えた。


「誰もがこの墓には王家が知られたくない秘密があると思ってる。しかし、秘密を暴こうと墓に近づけば死ぬより酷い目にあう。」


口には出さないが、王家の墓にかつて侵入したことで記憶を失ったことを思い浮かべた。


「できればこんな所近寄りたくも無かった。」


本心からそう思う。文字通り全てを忘れて、生きて来た。何も覚えてないからこそ、王家の墓という場所が何よりも恐ろしく思えた。


「変わってるね。嫌なのにここまで来るなんて。」


「嫌でも来るしかなかったってことだよ。アンタも好きでこんな塔に閉じこもってるわけじゃないんだろ?」


「さぁ、どうかな。私は私自身の意思でここにいるとも言えるし、逆にそうじゃないとも言うことかできる。」


「矛盾してないか?」


「そうかもしれないね。敢えて言葉にするなら、今この瞬間に、この塔に居るということこそが私に課された運命の一部。私が望むとも望まなくとも、私はここに居るしかなかった。きっと出ていくことだってできたけど、それを選べば引き返せないと知っていた。ここにいたいと思うのも、ここから出ていきたいと思うのも、両方私の本心だった。いつかはきっと、違うかもしれないけどね。」


しみじみと語るセシリアはどこか疲れた様子だった。


「どうかなエドくん。君は仕方なくここに来たなんて言うけど、本当は君は勝ち取ろうとしているんじゃないの?私とは違ってね。」


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