昇進試験
数日後
ノエルはいつも通りカウンターに立っている
客を迎え秘密の部屋へと案内
勤務にもすっかり慣れ、少しばかり余裕も出てきた
そんなある日のこと
マスターが音も無く隣へ来て一枚の封筒を差し出した
「ノエルさん昇進試験の案内です」
「えっ!」
あまりに突然の言葉に、ノエルは口を開けたまま固まった
「実力と適性が認められた者には昇進のチャンスが与えられます」
「まだ新人ですけど……?」
「あぁ君なら合格できると思う」
マスターは優しく──どこか寂しそうに微笑んだ
――
緊張しながら封筒を開ける
試験内容が簡潔に記されていた
『応接室に入り「指定された荷物」を回収せよ
――魔力値が高い物ひとつ――
疑問を持ち――疑問を持たない者だけが明日を迎える事が出来る』
……荷物?
「荷物をひとつ?」
「悪いが質問には答えられないよ試験だからね」
まぁ当たり前か
「ただ、君は【今のまま】に適性があると思って試験を決めた 気楽にやってほしい」
(私なら簡単という事か?じゃあラッキーじゃん)
「はいっ頑張ります!」
ノエルは力強く返事をした
マスターは静かに頷いた
「ひとりで奥の部屋に入ってくれ」
――
ノエルは応接室に入る前に少しだけ震える
「大丈夫、私は受付嬢!掃除もできる!何でもできる!」
気合いを入れてドアを開ける
中は前と変わらず高級感に包まれていた
だが──空気が違う
あれが【荷物】という物が並んでいる
・いつもより小さい黒い袋が1つ
・魔力がこもった高価な魔力石
・ガーゴイルのウロコ
・上級魔法書
「……これが荷物?」
試験の意図を理解出来ずに考えこんでしまう
てっきり冒険者ギルドのように【魔力石の鑑定】でもやらされるのかと思っていた
まさか全部違う種類の物とは
魔力値は……鑑定
やはり魔力石が1番魔力値が高い
「こんな簡単なの受付嬢なら誰でも出来ない?」
カウンターでやれば1分で終わる試験だ
試験案内の
『疑問を持ち――疑問を持たない者』
という意味が引っかかる
う~ん
「あっ!損失魔力値は?」
追跡調査依頼などで使う方法だ
今ある魔力値では無く、元あった魔力値を測定する
当たりだ
黒い袋の方が【損失魔力値が回復すれば】総量は高い
中身は何なんだろう?
ノエルはすぐに顔を横に振った
「だめだめ勝手にいじるのは受付嬢として信用問題だから」
両手でしっかり袋を持ち上げ肩に担ぐ
かなり重い
だが、いつものとは違い私でも何とか運べる
これで合格できる……!
出口に向かって歩き出した――その時
──カサッ
袋の中で何かが動いた気がした
『今ならまだ引き返せる』そんな不安が襲いかかった
「気のせい……だよね!」
――
袋をカウンターに持ち帰るとマスターが待っていた
「……素晴らしい」
マスターは目を細め、静かに袋を受け取った
「魔力値に疑問を持ち、中身には疑問を持たなかった それが大事なことです」
「はい!」
ノエルは何も知らない笑顔で胸を張った
「これは私の方で処理しておきます 今日は勤務終わりで良いですよ」
試験の日はそれだけで勤務終了とはホワイト過ぎる
「はいっ失礼します」
しばらくして、マスターはスキップして帰るノエルの背中を静かに見送った
マスターは袋を運びながら、小さく呟いた
「……君はまだ【闇】に居ながら【光】の側にいる」




