第三者による、別視点からの見解
『……………私たちは、私は、決して同じ轍は踏まない。踏まないわ、御婆ちゃん』
パチリ。
女の人の言葉が途切れたところで、僕は地上の様子を一旦打ち切りました。
ぐっと伸びをし、背骨と肩を解します。
「やれやれ」
一つの国が辿った結末。
それはとても単純で因果応報な、奇跡に奢った人々の末路です。
(けれど、ねぇ)
しかしながら、こうして一歩引いて見てみれば少々思うこともあるわけでして。
そもそもです。国が滅びることとなった発端は女の存在ですが、では、何故女は少女に成り変わろうとしたか。
それはあの国が豊かで、精霊が少女に従っていたからに他なりません。元の貧しい国であったなら、または、他国の神子のように少女が精霊に懇願をしていたら。女は決して少女の立場に立とうとは思わなかったはずです。
それを踏まえて。
「もしも」「ならば」という仮定は至極無意味ですが、ここはあえてそれを語ることとしましょう。
『もしも、最初から少女と王が出会わなければ』
「まあ、国は貧しいままだったでしょうね」
少女が神子の座に就かなければ、あの国の繁栄はありえません。
が、王はその中でも必死に国のために尽くし名声はなくとも立派な王と慕われ、国民は日々の小さな出来事に感謝しながら精一杯人生を歩み、女は生国でそれ相応の人生を送ったでしょう。
憶測に過ぎぬと言われればそれまでですが、この可能性が一番高かったと思われます。
ですが、少女と王の出会いでその運命は捻じ曲がりました。
「桁外れの力というのは厄介なものです。己だけでなく、周囲も巻き込んで狂わせる」
奇跡のような力の傍にいて影響を受けぬ人間というのは希少です。
そして往々にして、その奇跡を振りまき狂わせた根源は周囲の事など気にもしていないもの。
目の前でニコニコしている人物のように。
「何を見ていたの?」
「少し、地上の様子を」
「そう」
「主様が、かつて十年ほど滞在していられた国。その国の行方を見ていました」
「ふーん」
いつの間にか傍に来ていた、かつての少女。僕がお仕えしている主様。
今は少年の姿をしているその人物に向かって、僕は詳細を加えて答えを返しました。しかし主様は気のない返事をすると、すぐに興味を別の場所に移します。
少なからず己が関わった出来事の結末だと言うのに微塵の関心も示さないのは、主様が薄情なわけではありません。
主様にとって、まさしく些事だからでしょう。
―――乞われ、気が向けば力を貸す。その結果、栄えるも滅びるも好きにすればいい。
主様はそういう立ち位置の存在です。
理不尽。天災。或いは奇跡。地上の者は時々、「神」とも呼ぶみたいですね。
(さて、国が滅んだ本当の一番の原因は、はたしてなんだったのでしょう?)
欲を出し、更なる繁栄を望んだ王か。
不相応な望みを抱き、人を惑わせた女か。
繁栄に慣れ、感謝と恩を忘れた国民か。
徒に奇跡を与え、無情に去っていった少女か。
なかなか甲乙付け難いのではないかと、傍から見た僕は思ったりもするのです。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。