11、月夜のお風呂
あれから皆でひとしきり遊び倒したあと、そろそろお風呂に入ろうか。ということになりまして。
んで、まずは女子からとなりました。
「んじゃ真琴くんもいこっか!」
「いやいや! 僕は男だからね? 当たり前のように誘わないでよっ」
「あっはっはー、冗談だってば!」
うぅ、なんだか遊ばれている。
……まあでも悪い気分ではないんだけどね。
なんていったら薫ちゃんに睨まれそうだけど。
そういえば前、こんな事を言われたっけな。
「お兄ちゃんはいじられキャラに慣れすぎだよ! もっと男らしいところをみせるべき!」
だって。
男らしいとか……それこそ僕のキャラじゃない気がするんだけど。
「んじゃ、お風呂行ってくるけど……わかってるよね男子? 覗いたら死刑だからね」
「うっせー、わかってるよ。早く入ってこいよ。あとがつかえてるんだからさ」
「真琴くん、男子の見張り頼んだわよー、信じてるからね?」
えっ! ぼ、僕にそんな大役を?
「え、えっと……善処します」
僕の言葉を聞いて安心したのか、女子はそろってお風呂場に向かっていった。
信用してくれるのは嬉しいけれど、正直暴走した男子を止められるとは、僕には到底思えない。
「さて、男子の諸君! もちろんわかってるよな?」
「もちろんだとも同士よ」
「さあいざゆかん戦場へ」
はやっ! 女子がでていってからまだ1分もたってないよ!?
「いやいやいや、さっきの話聞いてたでしょ? ダメだってば! それに洗浄と戦場をかけたのかもしれないけど、上手くないからね!」
僕は必死に説得しようと試みる。
「お、気がついてくれたか俺の高等ギャグに! さすが真琴だぜ。んじゃそういうことで真琴も同士だから」
「ええぇえぇぇぇぇ!」
問答無用とばかりに連れて行かれるのだった。
この別荘のお風呂は、お風呂と言うにはあまりにも大きかった。
もう温泉と言ったほうがいいのかもしれない。
そこは天井が吹き抜けになっていて、屋根が透明で特殊な作りとなっていた。夜空が見えてまるで露天風呂に来ているような感じだ。
「へぇ……なんだか凄いわね」
クラスの女子がそうコメントする。
「いい趣味じゃない。星空を見ながらお風呂に入るなんて、なかなかできることじゃないし」
女子にも好評のようだった。
「さあさあ、薫ちゃんも入った入った」
町田さんに背中を押され、お風呂場へと足を踏み入れる。
「うわぁ……」
薫は上を見上げ、その壮観な景色に見入ってしまった。
その堂々とした立ち姿は、まるでモデルのような振る舞いだ。
「絵になるわぁ……」
そんな薫の姿に町田も見入っていた。
早希はこっそりと入ってきた。
薫はその姿を目ざとく見つけた。
「あ、早希ー、ってうわぁ……」
薫は早希の胸元をみて、言葉を失った。
早希って、着痩せするんだ。
むむむ、こんな大きいとは予想外だ。
薫は早希の胸を穴があくんじゃないかと思われるくらいじーっと見ていた。
「あ、あの、薫ちゃん? ど、どうしたの私の……その、胸がどうかした?」
そう言われて初めて、薫は早希の胸を凝視していることに気がついた。
「あーごめんごめん、そのね、大きいなーって思って」
「そ、そんなことないよ」
早希は恥ずかしいのか、隠すように手を胸元で交差する。
しかしその仕草が妙に色っぽく、女性らしさを余計引き立てていた。
「むぅ、これがお兄ちゃんを篭絡させたというのか……」
薫は一人、唸るように声を発し、目の前にある大きなそれに手を伸ばし掴んでいた。
「えっ」
むにゅむにゅ
なんという柔らかさだろう。
同じ女なのに自分のものとはぜんぜん違うなと薫は思った。
「か、薫ちゃんなにしてるのっ」
「あっごめん、なんか気になっちゃってさ」
薫は夢中になって揉んでしまっていたようだ。咄嗟に謝りはしたが、やめることができずにいた。
「二人でやってんのさ、さっきから……あたしも混ぜてくんない?」
紀子がニヤニヤしながら接近してくる。その手はとても巧妙に動いていて、とてもエロちっくだ。
「ちょ、紀子はシャレにならないから来なくていいってば!」
「えーひどーい。仲間はずれはいくないぞー」
そして紀子は薫に飛びかかった。
「うむ、この控えめながらも張りのある手触り。そして何よりもこの健康的な肌。運動してるのにこのつきすぎていない筋肉! うーん、これは一級品だわ」
「ちょ、どこさわって……ひぃぅ! 実況しなくていいからー!」
舐めまわすような手つきに、薫はさすがに降参だと言わんばかりにしゃがんでしまう。
「へっへっへごちそうさま、次は早希ちゃんの番だよー、大丈夫、あたしにまかせておけば楽になれるよ」
「楽って……ちょ、だめー」
こうしてお風呂場には無残に朽ち果てた二人の姿があるのだった。
――――いっぽうその頃男子たちは、お風呂場の隣の部屋で試行錯誤していた。
「考えらんねえぇぇぇ、こういうシチュの時のために覗き穴とか普通は作るだろ!」
そう声を上げるのは鈴木くん。
「仕方ねーだろ! 作ったのは俺じゃないんだから! そして今までそんなシチュなんてあったことねーし!」
反論するレン。
「ちょ! 二人とも声大きいよ! 隣の部屋なんだからバレちゃうよ!」
僕は気が気でない。一応女子のみんなに覗きの阻止を頼まれているからだ。
「こうなったら、突入するしかないでありますよ隊長」
「いやまて、お前死にたいのか!?」
「だが他にどうしろと言うのだ! この壁の向こうには桃源郷が広がっているというのに!」
「考えろ! 考えるんだ! 3人集まればもんじゃが美味いっていうだろ!」
「みんな落ち着いてよ! それに3人寄れば文殊の知恵だよ!」
もうハチャメチャである。
「まあ、最後の手段は残っているんだが……」
レンはぽつりとそう呟く。
「そんな方法があるなら最初からいえよっ!」
「だがこれは本当に命がけになる。俺はオススメしない」
「どんなことでもしてみせる! それが俺たちの生き様だ!」
「仕方ない、お前たちの熱意に免じて教えてしんぜよう!」
レンはここの風呂場の構造を教える。吹き抜けになって夜空を見ることができる。つまり、その場所まで登れば、そこから見ることができるのだ。
「よし、いくぞ! 俺たちは死ぬときも一緒! 一蓮托生だ!」
「いやいやっ! そんな連携いらないよ! 死んだら終わりなんだからやめようよ!」
「何言ってるんだ! 千里の道も一歩からっていうだろ! 俺たちはその一歩目を踏み出そうとしているんだ」
「絶対道を踏み外してるよねっ!?」
「はっはっは、じゃあ真琴が改修してくれよな!」
「ええぇぇぇぇぇぇぇ!」
そしてまた連れて行かれるのだった。
僕たちは今、外にいます。
それも梯子を登っている。うぅ、なんでこんなことに。
外といっても2階のベランダから屋根の上にに向かっている。さすがに1階から登れるほどの長さの梯子はなかった。
しかし……無駄に大きい別荘だと思ったけど。ここから下を見ると目がくらむほどの高さである。
僕はなんでこんな怖い思いをしてここにいるんだろう。
正直帰りたいです。
「よっしゃー! ついに俺たちはたどり着いたんだ! 聖なる高みへ!」
「うおおぉぉぉぉきたああぁぁぁぁぁ!!」
「やった! やったんだね僕たち! ついにたどり着いたんだね」
僕たちは屋根にたどり着いた。そこから見る景色は今まで見たこともない風景が広がっていた。
僅かな月明かりが辺りをを照らし、遠くには街の灯りが見える。
波だった海には月が幻想的に揺らいでいた。
ここまで色々あったけれど、こんな景色が見れるなら来てよかったなって思える。
「俺たち頑張ったよな」
「ああ、この風景がその証明さ」
「しかし曇っててよくみえないんだが」
どうやら風景を見てたのは僕だけのようです。
まあ本当の目的はそっちだもんね。わかってた、うん。
僕も覚悟を決めることにする。
「お、見えてきたぞ……さあ、全てをさらけ出すんだぁぁぁぁ!」
「きたあぁぁぁぁぁ!」
ガタッ!
僕たちの後方で音が聞こえた気がした。
梯子がっ! 梯子がなくなってる!
他の男子はお風呂場に夢中で気がついていない。
「そんなバカな!!?」
お風呂を覗いていた男子からも悲鳴が。
「誰もいないじゃないか!!」
「みんな! もっと大変なことが! 梯子がなくなってるんだ」
「な、なんだと?」
僕たちは急いで梯子があった場所まで近づく。
「ほんとだ、無くなってる。どういうことだ?」
僕たちはパニックに陥っていた。
そんな時、下から声が聞こえてきた。
「こらー男子! 覗きは死刑だっていったでしょー! そこで一晩反省しなさい!」
下を見るとそこには女子の姿が。
「そんな殺生なー! なぜバレちまったんだよー!」
「当たり前でしょ。あんな馬鹿でかい声で相談してたら聞こえるっちゅーの!」
あ……やっぱり聞こえていたんだ。
「とにかくそこでしばらく反省してなさいっ」
「くそおぉぉ! せっかく登ったのに見れなかったとはー!」
「えぇぇ! ガッカリするところそこ?」
ごめん女子のみんな、多分反省はしないと思う。
――――それから僕たちは女子の心優しい人の手によって4時間ほどの反省で釈放されたのだった。
もう高いところはコリゴリです。とほほ。
――▲●■――
僕は一人、お風呂に来ていた。
現在夜の2時を回って、旅行二日目に突入している。
なんでこんな時間にお風呂に来ているかというと。
あれから男子がお風呂に入ったが僕は入らなかった。
理由は簡単である。レンがいたし、それにやっぱり抵抗があるんです。
絶対ジロジロ見られる……レンは抱きついてくるかもしれない。
きっと疲れるだけのお風呂になってしまう、そんな予感がしたからだ。
そんな訳で僕一人部屋に引きこもり、みんなが疲れて寝静まった頃、部屋から飛び出し誰にも気が付かれないように、お風呂場にきた。
急いで脱ぎ無造作に脱衣カゴに放り込む。今は細かいことは気にしていられなかった。
普段、家では薫ちゃんが衣服を散らかしてると注意したりするんだけど……今はごめん。緊急事態なんだっ!
海からでたあと、軽くシャワーを浴びたのだけれど、やっぱりしっかりと湯船に浸かりたかった。
僕は電気を付けず、月明かりだけを頼りに体を洗い、そして湯船に浸かる。
「うわぁぁ……気持ちいいっ」
思わず声を上げてしまう。そしてそのまま星空を見上げた。
ついさっきまではあの場所にいたんだよね。
屋根からみた景色はすごい綺麗だった。
女子には怒られてしまったけれど、あの景色を見れただけでも行ってよかった。そう思えた。
そんな感慨にひたっていたら、脱衣所のところから音が聞こえた。
――っ誰!?
僕は息を潜めた。
やばい今誰か入ってきたらどうしよう。
でも、僕が最初に入ってたし、僕が悪いわけじゃないよね?
あっ、今声を上げて僕がいることを教えたらいいんじゃない?
その考えに至り、僕は声を上げようとした。
しかしそのとき戸が開いてしまった。
あっ!
そこに立っていたのは早希ちゃんであった。
僕はもう声を上げるタイミングを完全に見失った。
幸いにも早希ちゃんは僕に気づかずそのまま体を洗うために移動する。
当然、一人だと思っている早希はバスタオルなど巻いてはいなかった。
僕は激しくなる動機を抑えながら、端っこの暗い場所で必死に言い訳を考えるが、そんな感情の中、いい案など浮かぶはずもなく、ただただ焦っていた。
体を洗い終わった早希は湯船に近づき、そのまま肩まで浸かっていく。
そしてついにその時はやってきた。
早希は暗い所にようやく目が慣れてきた。
端っこのほうに違和感を感じ、そちらに視線を向けた。
そしてついに、僕と目があった。
「ひゃっ、だ、誰ですか!」
「え、ああ、その、これは違うんだ」
僕は必死に何かを言いたかったが、言いたいことが定まっていなかったので何も言えない。
「えっ……もしかして真琴さん? どうして……」
早希は相手が真琴だということに気が付き、少し落ち着いた声色になった。
「ご、ごめん、別に隠れているつもりはなかったんだ、ただどう声をかけたらいいのか分からなくて……」
僕は素直に本当のことを言う。
そしたら今度は早希が、
「わ、私こそごめんなさい、真琴さんがいることを知らなくてぇ! す、すぐでていきましゅからっ」
慌てて立ち上がりでていこうとする。
「わっ! ちょちょっと! 見えちゃうよ! とにかく落ち着いて、ね?」
僕は見ないように手で視線を隠す。
「えっ? あっ! ご、ごめんなしゃいいぃぃぃ!」
早希は慌てて湯船に浸かる。
う、でも急だったから、少し見てしまった……。
早希ちゃんってその……大きい…………
って何考えてるんだ僕は! 心頭を滅却すれば火もまた涼しだよ! ってなんか使い方間違ってるかも! と、とにかく心を落ち着かせないと! 無心になるんだ。
――――僕たちは自然と背中合わせになる。
といっても実際にくっついてる訳ではない。
近づきず離れすぎず、お互いに距離がわかる範囲で、自然とこんな形になってしまった。
「あ、あの、真琴さん」
「な、なに早希ちゃん」
「その……なにかお話しませんか」
「うん、そうだね……」
正直、返事をしたものの、この時僕はドキドキしっぱなしで会話どころではなかったように思える。
ただこの場から逃げ出したいという気持ちではなかった。
「えっと、先程は災難でしたね?」
災難……あ、覗きのことを言ってるのかな。
「あ、う、うん。最初は反対したんだけどね……でも説得は無理だったから、僕も覚悟を決めて行くことにしたんだ」
「そうだったんですか……てっきり無理やり連れて行かれたのかと思ってました」
無理やり連れて行かれたといえば、確かに無理やり連れて行かれたんだけどね……
結局のぞきに加担した時点で僕も同罪だ。男子に罪を押し付けて自分だけ逃げようとは思わない。
「でも、もしそうだとしたら、その……」
早希は言葉につまり、動揺しているようだ。
肩越しから伝わる、水の波紋がそれを教えてくれる。
どうしたんだろ。なにか言いたいのかな?
すると一段と大きな波紋が僕に伝わった。
「あ、あの、もしかして裸を見てみたい人とかっ! いっいたんでひゅは」
えぇぇぇ! は、裸って、どういうこと?
僕はそんなことは思ってないよ……って覗きに加担したんだからそう思われても仕方ないのかな?
でも何故突然そんなことを。僕が今ここで、「○○さんの裸が見たかった」と言ったらどうするんだろう。
……とても気まずくなる気がする。
いやいや、そもそも裸を見たいとか考えたこともないし!
それはそれで健全な男子としてどうかとも思うけどね。
「あの……やっぱり何でもないです。変なこと聞いてごめんなさい」
僕の沈黙を返答として受け取ってしまったのか、早希は恐縮したように縮こまってしまった。
「ううん、違うんだ。ちょっと色々考えちゃってて……別に裸が見たくなかったわけじゃなくて……って僕は何を言ってるんだ」
言いたいことが定まってなかったので、口からでた言葉はよくわからないものになっていた。
「そうなんですか……見たかった…………んですね」
早希の声は震えていた。
真琴はその震えた声を聞いて、早希が怒ってしまったのだと思った。
「えっと、そのね、悪いことだとは思ってたんだ。本当だよ! でも覗かないのはそれはそれで失礼なのかなって……ご、ごめんなさい!」
僕はこの空気にたまらず、よくわからない言い訳がましい言葉を並べてしまった。
「…………いいですよ」
え?
今なんて?
いいですよって……なにを。
真琴が言葉を理解できずに頭が真っ白になっていたら、いつの間にか早希が目の前にいた。
「え? さっ、早希ちゃん?」
そこには何も隠す物のない真っさらな早希の姿があった。
月の光によって神秘に輝くその早希の姿はまるで、絵画のような神聖な物に感じられた。
「私は……真琴さんになら大丈夫です。その……お友達ですから」
「お友達って……でも僕たちは男と女だよ」
僕はほうけている頭でそんな当たり前のようなことしか口にできなかった。
「でも真琴さんは女の子みたいです」
「でも男の子だよ」
その時僕は気がついた。
早希の顔が必要以上に高揚していることに。
なぜ?
早希は男が苦手の筈だった。それなのにここまでできるものなのだろうか。
……否、できないはずだ。
――だとしたら、僕の容姿のせい?
自分の中で考えがまとまっていく。
そうだとしたら……
「ねえ、早希ちゃん1つ聞いてもいいかな?」
「はい、真琴さん」
僕は深呼吸をした。やっぱり少し口にするのはためらいがある。
でも聞かないわけにはいかなかった。
「早希ちゃんはもしかして……女の子が好きなの?」
すると早希は驚愕していたが、恥ずかしそうに微笑むと、
「はい、実はそうなんです。私、真琴さんを一目みたときから……好きになっていたんです」




