打ち明ける
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一方その頃、『白霧山脈』の洞窟の中へ迷い込んだカレン達一行はカレンが魔装器『ゼオラル』の使い手のくせに『ゼオラル』の事を何にも知らない事が発覚し、底が無いような無知さに呆れながらもミツルギ達は力を合わせて、カレンに『ゼオラル』の事について教え込んでいた。
「………と言う訳だ」
「僕のこの魔装器がその400年前に世界を救った勇者『トラル』っていう人が持っていた魔装器だったなんて」
ミツルギ達の説明によって自身の魔装器がどれだけ凄い物か、話を聞いてとても凄い物だという事は分かったが実感が湧かないのか、カレンの表情には驚きも興奮の色もなく、ただ極普通に平静だった。
「お前さぁ、もっと驚きよ! 世紀の大発見なんだぞ!」
伝説上の代物を眼の前に一人だけ平然としているカレンが不自然に捉えたロロは驚くよう促す。
「そうなの?」
「当たり前だろ! 『ゼオラル』の事も『トラル』と同じぐらい有名だからな、もう昔から現在の誰も探し求めたが結局は発見できず、誰もが発見を飽きられて挫折してしまった伝説の魔装器をこの眼で拝見できるなんて……マジ夢みたいだぜ!」
感動のあまりに眼の前にある現実が夢のようだと語るロロはミツルギが伝説の英雄の子孫の一人だと発覚した時と同じように眼をキラキラ輝けさせて興奮し、今回はカレンの魔装器を見詰める。
「お前もそう思うだろ、アイシャ?」
「うん、信じられないけどカレンが持っている魔装器は本当に『ゼオラル』なんだよね? ……私も夢を見ているような気分だよ」
感情を抑え込むように手で口を覆い隠してアイシャは信じられないと言いながらも、真紅の瞳を真ん丸くしているからしてロロと同じく感動で心が揺さ振られているようだ。
「我が先祖の〝友〟が持っていた魔装器『ゼオラル』。俺も一度はお目に掛りたいと思っていたが、まさか本当に出会える日が来ようとは………しかもその使い手が我が友カレンだったとは………感動の極みとはこの事だ!」
片方では一度はお目に掛りたかった『ゼオラル』と対面し、しかもその所有者がソウルフレンドのカレンである事に極限の感動を覚えるミツルギ。
「ほら見ろカレン、これが普通の反応だ。お前も見習え!」
「って……言われても」
威張るように自分達同様感動しろと押しつけるように言い放つロロに対して、リアクションに困ったカレンは苦笑いを浮かべて頬を人差し指の爪で上下交互に擦った。
「……おい、カレン」
「?」
三人が感動の嵐に浸っているのに一人だけリアクションが薄いカレンに相も変わらず呆れ返って舌打ちをしたロロは遂に痺れを切らしたかのようにある質問を投げ掛けた。
「前々から思っていたんだけどよぉ………お前一体何処に住んでいたんだ? 『トラル』も『ゼオラル』も『神楽』も『ルーレイ』も知らないなんていくら何でも異常過ぎるぞ。お前の田舎ってどんな辺境の地だったんだ?」
事情を知らない相手が今までこの手の質問をしなかった事がおかしかったが、とうとうカレンは己の住んでいた場所について尋ねられた。
「……知らない」
「は?」
「僕……記憶喪失なんだ」
少し躊躇いはあったが、ついにカレンは己の事情を打ち明かした。
「「「………」」」
予期せぬ回答が耳に入った三人は眼を見開いてまるで石になったかのように硬直し、ただでも暗闇だけが漂う空間内がシ~~ンと静まり返った。
「ごめんカレン……今なんて?」
「俺様急に耳が遠くなったかな? 記憶が……なんだって?」
謝って聞き返すアイシャと耳の調子がいきなり悪くなったと理由を付けて聞き返すロロは何かの聞き間違いだと思った。
「だから僕は記憶喪失なんだ。自分が何処の生まれとか、何処に住んでいたのか、今まで何をしてきたのか、自分が一体何者なのか、その他も全然分からないんだ」
「「「………」」」
今度は聞き捉えてもらうようにもっと音量の高い声とハッキリした口調で自身の記憶喪失の全貌を打ち明けたカレン。
そのカレンの顔を見詰めながら、三人は眼を次第に丸くてポカンと唖然し、空間内はまたシ~~~~ンと静まり返った………そして。
「はぁあああああああああ!??」
その沈黙を打ち破る様にロロが第一を切って大声を挙げた。
「マジか? 大マジか? 冗談じゃなくて本当にマジなのか!?」
「うん、マジ!」
「家族や友人、生まれた場所も分からないの?」
「うん、全然!」
「分かる事は何か一つないか?」
「僕の名前が『カレン』である事だけだけど………でもこの名前は左手のブレスレットに刻まれた名前を見てそう思っただけだから、本当のところ自分の名前についても何も分かっていなんだ」
休む暇も与えてくれないロロ、アイシャ、ミツルギの連続質問にカレンは至って冷静に口籠る事なく全て答え切る。
「記憶喪失はいつから?」
「今日だけど」
「今日!? つまりなんだ、お前は俺の村に来る少し前からもう記憶喪失だったのか?」
「そういうことになるね」
記憶は今日失ったとアイシャの質問に答えるとロロは最近どころの話ではないとまたもや驚愕する。
「なんでそういうことをもっと早く言わないんだよ!?」
「ごめん、ちゃんと言おうと思ったんだけど此処に来るまで色々在ったから、言い出すタイミングを逃しちゃって………」
記憶喪失の事情を話すのが遅すぎると苦情を訴えるロロに今までの色々な出来事の所為で打ち明けるタイミングを逃したとはいえ、自身の記憶喪失を早く打ち明けなかった事についてカレンは一言謝り、申し訳ないと頭を下げる。
「ん? ちょっと待てよ、カレンお前って帰る場所も分からないんだよな?」
「まぁね」
「そんで今のお前の目的っていうのが俺の村に訪れた金髪の女にペンダントを届けるって事で間違いないよな?」
「そうだよ」
「む、なんだ? その金髪の女性というのは?」
傍で話の内容を聞いてカレンの目的に興味を示したのか、確認し合っているロロとカレンの間にミツルギが割って入って来る。
「事情を話せば長くなるけど、僕はペンダントを置き忘れた長い金髪の女の子を探しているんだ」
「ほう……つまり人探しをしているのだな」
「うん………あっ! ミツルギは何処かで見てない? 『レイチィム』からこの『白霧山脈』に来るまで長い金髪の女の子を!?」
自分達よりも先に『白霧山脈』に訪れていたミツルギなら何処かで金髪の少女を目撃している可能性があると思ったカレンは早速、問い掛けてみた。
「……いや、俺の記憶では『レイチィム』を出てから真っ直ぐ此処に到着してからも俺は誰一人としても見掛けてはいない。カレン達を除いてはな」
「そっ……か」
物事が自身の都合良く進むとは思っていなかったがミツルギの回答を聞いてカレンは顔には表わさなかったが少々凹んでしまう。
「すまんな。役に立てなくて」
「ううん! ミツルギが謝る事じゃないよ」
「おい、待てコラ! 俺との話を忘れるな!!」
「「!」」
途中乱入してきたミツルギのお陰で自分一人が話から置いてけぼりにされ、その事に腹を立てたロロは大声で怒鳴ってカレンを自分の方に振り向かせる。
「カレン! お前そんな状態で女を追い掛けている場合じゃないだろ!? それよりも先にやるべき事が沢山あるだろうが!」
「先って?」
「………そりゃあ故郷や自分の家を探すとか」
「家族や親戚や友達を見つけるとか」
「他にも記憶を失う前の自分に関わる物や人物」
「そ、その他、失った記憶を取り戻す為の手掛かりを探す方が先決だろ?」
先にやるべき事とカレンに逆に聞かれたロロはその場で思い付いた事を思わず述べてしまうとアイシャとミツルギがロロに助け船を出すように述べ初め、その二人のナイスフォローによってロロは何とか締めの言葉をカレンに言い渡した。
「ああ~~~そういうのはまず、彼女にペンダントを渡してからじゃないと」
「だから何でペンダントの方が最優先なんだよ!? そんなの後回しでも出来るだろ!」
「でも僕自身の記憶探しだって後回しでも出来るでしょ?」
自分の記憶探しよりもペンダントを届ける方を優先するカレンにロロは配達なら後回しでも出来ると論じるがカレンは記憶探しも後からいくらでも行えると反論する。
「それは………けどな!」
「カレン、一つ聞いて良いかな?」
「何?」
もっともな意見を言ったつまりだったが予想外に相手側からも、もっともな意見を返されて口籠ってしまうロロだったが先回りするようにアイシャがカレンに一つ尋ねる。
「君がその金髪の子を追い掛ける理由は何なの?」
「だから、彼女がペンダントを落としたから………」
「それは前にも聞いたよ。私が言いたいのは君がどうしてもそこまでその子にペンダントを届ける事に拘るのか、それを聞きたいんだ」
アイシャが聞きたい事、それは記憶喪失なのに何故カレンは危険を冒してまで金髪の少女にペンダントを届ける事に拘るのかだった。
「前に君から事情を聞いた限りでは君とその子はハッキリと言えば赤の他人。そして今君は記憶を失って自分の事も帰る場所も思い出せない。オマケに地理や常識に関しても右も左も分からない。それなのに君はペンダントを届けるっていう理由だけでこんな危険な場所まで来てしまった………どうしてなの?」
「………」
「君とその子に特別な繋がりが在るとは思えないし、絶対に届けないといけない理由も無いんでしょ? それならロロの言う通り、記憶を取り戻した後からペンダントを届けに行けば良いんじゃないかな? 『白霧山脈』のような危険な所を渡って、もし死んでしまったら元も子もないよ」
「……」
さすがにアイシャはロロとは大いに違って冷静に正論を説き、その正論を黙って聞いていたカレンは思い詰めるように下目となって、閉ざしていた口を開く。
「確かにアイシャの言う通り、僕と彼女には特別な繋がりなんて無いし。必ず届けなきゃいけない必要なんてものもない。……二人の言う通り、本来なら僕は自分の記憶探しの方を優先しなきゃ駄目なのかもしれない」
「だったら……!」
「…けど」
「「「?」」」
ロロの言葉を言い止めたカレンは胸ポケットに締まっていたペンダントを取り出す。
「記憶探しを優先してしまったら彼女の行方を見失って、もうこのペンダントを渡せなくなってしまう!」
「……随分ペンダントを渡す事に拘るな。その女性に固執する何かが在るのかカレン?」
あくまでペンダントを渡す事に拘るカレンに金髪の少女に対して何か固執する物が在ると見抜いたミツルギはそこを指摘して尋ねる。
「このペンダントは……彼女にとって大切な物なんだ」
「大切な物?」
「何となくだけど………でも、何故かそう思えるんだ。このペンダントから伝わって来る彼女がペンダントを大切していた想いが」
カレンが金髪の少女にペンダントを届けたいと拘る最大の理由、それはカレンがペンダントから感じ取った、彼女がペンダントへ対する想いだった。
「何でそんな事が分かるんだよ?」
「僕にも分からない、けど本当に伝わって来るんだ。彼女がこのペンダントをとても大切にしていた事を」
「「……念力共振?」」
何故ペンダントから持ち主の想いが伝わって来るのか、カレン自身も良く分かっていないようだが、アイシャとミツルギはそれが何なのか知っているようだ。
「もし、このペンダントに対する想いが本当なら彼女は今頃、ペンダントを失くした事をとても悲しんでいると思うんだ」
「そうとは限らないだろう。そんなに大切な物なら置き忘れた所に戻って来る筈だろう?」
「確かにそうかもしれない……でも何か理由が在るのかもしれない。それに彼女がこれを置き忘れて行ったのは多分………いや、きっと僕の所為だと思うから」
失くして悲しむくらいの大切な物ならあっちこっち行かないで、ペンダントを置き忘れた場所に戻るだろうとロロはもっともな意見を述べるがカレンは何か訳が在ると考え、そして何より彼女がペンダントを置き忘れた原因は自分に有るとやや曇った表情で述べる。
「だから記憶を取り戻す事よりも僕は彼女にこのペンダントを届けたい! いや、届けなきゃいけないんだ。僕自身の手で!」
「「「………」」」
ギュッとペンダントを握り締めて、カレンは三人に自身の断固たる決意を見せる。
「……こりゃあ、何言っても無駄だな?」
「みたいだね」
「それでこそ、我が友だカレン!」
半日という短い付き合いだがカレンの性格をある程度見て来たロロとアイシャは一度決心したら何が有っても譲らないカレンの頑固さには何を言っても駄目な事を知っている為、説得は無駄だと苦笑いを浮かべて諦め。
片やミツルギは逆にカレンの寛大さを絶賛的に笑顔で褒め称える。
「しっかし大丈夫なのか? 急いで失った記憶を探さないで?」
「大丈夫だよ、記憶については僕なりの考えがあるから」
「考えね………一応聞いてみて良いか?」
自分なりに記憶の事を考えているというカレンにロロはその考えを聞いてみた。
「自分の記憶を取り戻すって言ったって、すぐに取り戻せる物じゃないでしょ?」
「まぁそれなりに時間は掛るだろうな。場合によっては一年二年、或いはそれ以上の年月が掛るかもしれんな」
「……最悪、一生何も思い出せないっていう可能性もあるよね?」
「カレン………何が言いたいの?」
意味深な含みのあるセリフにアイシャはカレンの真意を尋ねた。
「僕も最初はペンダントを届けることよりも自分が帰るべき場所を探すことの方が先じゃないかって考えた時もあった………でも」
「でも?」
「記憶は簡単に戻る物じゃない。探そうと思って探しても絶対に取り戻せる保障なんて何処にもないでしょ?」
「確かに……そうだが」
「だったら別に急ぐ必要なんて無いなって思ったんだ」
『カム―シャ』でカレンがコルトに話さなかった、記憶の捜索を後回しにする別の理由、それは例え優先的に記憶探しを行なったとしても記憶はすぐに元通りになる訳でもなければ、完全に取り戻せる保障も確実性も無い為、急ぐ必要性がないと判断したからであった。
「記憶探しは彼女にペンダントを渡した後でも、いつでも出来るからね」
「本当に良いの、それで?」
「良いも悪いも自分で決めた事だから、後悔するのは僕一人だけでいい」
大胆な決断にアイシャは『それで良いのか』と尋ねると、例えその決断が失敗だったとしても自身の決断なので後悔するのは自分一人だけで十分だとカレンは潔く公言する。
「はぁ……お前のお人好しもここまで来たら、もう『超』なんてレベルじゃねぇな」
斜めに傾けた頭を抱えるように片手でコメカミ部分を押さえるロロは溜息と共に心底、カレンのお人好しっぷりに呆れていた。
「お前は『超』が付くお人好しじゃねぇ。お人好しの〝神様〟だ!」
「ふむ、流石我が友カレンだ!」
呆れ笑いを浮かべながらロロはカレンのお人好しランクをお人好しの〝神様〟へランクアップさせ。そして、片やミツルギは何が流石なのかはさっぱり分からないが兎に角カレンの類い稀なさを多大に賛美した。
「僕が〝神様〟? 僕がお人好しの〝神様〟なら………ロロはストーカーの〝神様〟?」
「何でそうなる!? てゆーかその話はもう終わったろうが、このアンポンタン!!」
「我が友になんと無礼な! 撤回しろ〝ネズミ〟の獣人!」
「お・れ・は〝猫〟の獣人だ!!」
「……ぷっ」
傍から見たら余りにもおかしなやり取りにあまり表情を表に出さないアイシャが、笑いのツボに入ったのか思わず軽く吹き出してしまい。
それを見て聞いた男子三人はお互いを見合って今のやり取りをそれぞれ冷静に振り返ったら、自分達も笑いのツボに入り、お互いに笑みが浮かび合い、何の変哲もない些細なやり取りだったがそれで笑顔になった四人の間に微笑ましい空気が流れた………しかし。
「「「「!」」」」
突如としてまた山脈全体を揺るがす程の大きな地震が起こり、『白霧山脈』に来て三度目の大型地震に四人は倒れないよう必死に踏ん張って姿勢を保った。
「また……地震!?」
「何度目だよ、これで!?」
前回と同じかそれ以上の凄まじい揺れにカレンとロロはこの洞窟内に落っこちる切っ掛けを作ったあの時の地震を不安と共に脳内に思い浮かべた。
「! 皆、此処から急いで離れて!!」
「「「えっ?」」」
二人の嫌な予感が的中したように、何かに気付いたアイシャは早急にこの場から離れろと他の三人に伝えたが、時は既に遅かった。
「「「「!!」」」」
岩の地面から嫌な地響き聞こえたと共にカレン達の足元の地面が突然と陥没し、空間内に大きな穴が出来上がった。
「うわぁああああああああ!!!」
「ぬぁあああああああああ!!!」
「ぁああああああああああ!!!」
「なぁぁまたかよーーーー!!?」
足場を失った四人はそのまま穴の中へ放り込まれてしまい、重力に逆らえない四人は成す術もなく山脈内の奥底まで落ちて行った。