魔装器『ゼオラル』
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一方、衝撃の事実を知ったカレン達とは別に『白霧山脈』から遠く離れた夜の大地をある団体が駆け抜けていた。
「……追手は来ないようだな?」
「ああ、連中は俺達が『GROUND・VEHICLE』を使ってるなんて、夢にも思っていないだろうさ!」
旅人のマントを纏った顔が良く見えない程の長髪の男は四つの車輪が付いた鉄の箱のような乗り物の窓から周辺を見渡して、追手は来ていないと確認し、隣に居てその乗り物を操縦している同じ服装の男は軽快そうに同意した。
月の光が照らす夜の大地を駆け抜けていた団体の正体は軍用都市『レイチィム』でカレン達と戦って敗北し、騒ぎを聞き付けた『トロイカ』軍から逃げる為に地下水道に逃げ込んで、秘密の隠し通路を使って地上に出た後、直ぐに近くの隠れ家に隠していた数十台の『GROUND・VEHICLEと呼ばれる乗り物に乗って、何とか軍の追手から逃げ切れた盗賊達であった。
「この辺だと本拠地まで、どれくらい掛る?」
「あと、5時間ぐらいってとこだな」
ロン毛の盗賊の発言から推測するに逃げ先の目的地は自分達のアジトらしく、操縦者の盗賊は乗り物を走らせている速度とアジトまでの距離を計算して、5時間前後と答える。
「着く頃には深夜か………俺、ハンの容体を見て来るから後は頼む」
「あいよっ」
時間的に考えて、本拠地に着いた時にはもう深夜だと溜息と共に呟いたロン毛の盗賊は仲間のスキンヘッドの盗賊の様子を窺いに行くと言い残し、後を頼まれた操縦者の盗賊は軽く了解した。
「よっこい………せっと」
操縦者の隣でずっと周囲を見張っていたロン毛の盗賊は逃げてから数時間経った現在、自分達を追っている筈の軍の追手が自分達を見つけられなかったもしくは尾行されていない事が分かるともうこれ以上、警戒する必要はないと判断し、役目を終えたから重傷を負わされた仲間の一人の様子を見に行こうと席から外れて、乗り物の最後部に取り付けられている荷台へと足を運んだ。
車輪で地面を削って4本線の跡を作りながら走っている『グランド・ビークル』一台一台には車輪付きの荷台を取り付けられ、その荷台達の中にはカレン達の戦いで傷付いて負傷した盗賊達が収納されていた。
「おっ」
車内より断然広い荷台の中へ移り、ロン毛の盗賊は入って早々、硬い布製のマットの上で横になって養生している盗賊達よりも室内で異様に目立つ物が眼に飛び込んできた。
「ラジリカ、ハンの様子はどうだ?」
それは室内で一番幅を取り尚且つ普通の人間より2,3倍デカイ大男だった。 目標を探す手間もなく見つけたロン毛の盗賊はスキンヘッドの盗賊の容体について尋ねた。
「あっ、ケビー! ハンは……」
「っきしょーーー!! あのくそボウズ共め!!!」
声を掛けられ、ロン毛の盗賊が室内に入って来た事に気付いた大男はスキンヘッドの盗賊の容体を言う前に巨体な身体を持つ大男の影に隠れていたスキンヘッドの盗賊の遠吠えが室内に鳴り響いた。
「~~~~~っ!!!」
「だ、大丈夫、ハン?」
「……あんまり、大声出したら骨に響くぞ」
大声で叫んだ途端、スキンヘッドの盗賊はマットの上で仰向けの状態で胸の辺りを両手で押さえ込むように手を被せながら悶え始め、それを大男は心配し、同じくロン毛の盗賊も大きな声を出さない方が良いと忠告する。
「元気そうだな、心配なんて要らなかったみたいだ」
「うっせぇ! あっ………くぅ~~~~~っ!!」
カレンから貰ったパンチ一発で肋骨とアバラの骨が何本も折られて、重傷を負わされたスキンヘッドの盗賊が大声で怒鳴るぐらいの元気な姿を見せてロン毛の余計な心配だったと呆れ笑いを浮かべ、それに対して言い返したスキンヘッドの盗賊はまた大きな声を上げてしまい胸の辺りに激痛を走り、再び悶えた。
「だから、あいつ等と戦うのは止めとけって言ったんだ」
「……せっかくの大物だったんだぞ! あのボウズの魔装器を奪えさえすりゃあ莫大な金が手に入るんだ……見逃す事なんて出来るかよっ」
『レイチィム』でカレン達と戦う前に止めた方が良いと警告したロン毛の盗賊だったが、スキンヘッドの盗賊はカレンの持っている魔装器を売りさばけば、大量の金が貰えるから、商人の馬車の略奪を邪魔した件の恨みも有って、みすみす取り逃がすマネなど出来なかったようだ。
「で、軍の兵器保管倉庫から盗み出した『BATTLE・MACHINE』を使ってでも、コテンパンにやられてたじゃないか」
「ぐぐっ! ……ああそうだよ、完膚無きまでにぶちのめされたよ! 確かにお前らの言う通り、化け物だったよ……特に〝あのボウズ〟はな」
人の警告に耳を貸さず、更に『BATTLE・MACHINE』を手に入れた事でその力を過信し、そして何よりカレンの実力を見誤っていた事が一番の敗因となり、戦った結果、見事に何の収穫も無く返り討ちに遭い、ご覧の通りのあり様になってしまい。
その痛いところをロン毛の盗賊に突かれ、スキンヘッドの盗賊は舌打ちの後、自暴自棄になったかのように自身の落ち度とカレンが化け物みたいに強い事を認めた。
「やっぱ、魔装器使いは化け物しかいないなぁ~~~~」
「だな、あのボウズに対抗出来るのは……」
「にぃ……じゃなかった、〝親分〟じゃなきゃだめなのかな~~~」
連携を取る様に言葉を繋いでいくロン毛とスキンヘッドの盗賊、そして、文のオチに大男は何かを言い掛けたが慌てて言い直して、自分達盗賊の〝親分〟の名を挙げた。
「今年一番の収穫かもしれないだ。この際親分に助けを仰いでみるか」
「え、ええっ!?」
「お、おいちょっと待て! 考え直せよ、あのお方を俺達の不始末なんかの為に出向いてもらうって言うのか!?」
魔装器使いのカレンに対等に渡り合えるという自分達盗賊達の親分に力を貸して貰おうと試しに言ってみたスキンヘッドの盗賊に大男は表情も大袈裟っぽく驚愕し、ロン毛の盗賊も意表を突かれたが考え直せと提言する。
「何だよお前ら、あのボウズ達に舐められっ放しで平気なのか?」
「いや、そうゆう訳じゃないが……でも、あいつ等を倒す為にわざわざあのお方を表に出すような事柄でもないだろう?」
「そ、そうだよ! ケビーの言う通りだよ!」
自身の提案に拒否的な発言を言われてスキンヘッドの盗賊は不服そうにムスッとしかめ面でこのままやられたままで良いのかと反論するとそこまでする必要はないと返したロン毛の盗賊と大男はわざわざ自分達の頭に下っ端のような仕事の手伝いさせる事に恐れ多くて大いに気が引けていたのだった。
「じゃあ、俺達のこのうやむやな気持ちや恨みは何処へ持って行きゃ良いんだ? 傷が癒えても心は癒えるとは思えねぇ! 俺はどうしてもあのボウズ共を懲らしめてやらなきゃこの気持ちも恨みも消える事はねぇと思うんだ……お前等もそうだろ?」
発言から察するにどうやらスキンヘッドの盗賊は盗賊という立場関係なく、ただ単にカレン達をギッタンギッタンにしないと気が済まないようであり、更には自分と同じくマットの上で横になっている仲間の盗賊達に心境を窺うと、さりげなく話を耳にしていた仲間の盗賊達は『その通りだ』『思い知らせてやろうぜ』『やり返そう』『フルボッコだ!』等など、それぞれの意見が言い返した。
「ほら見ろ、これが皆の意思だ!」
二人以外の全員一致の自分と同意見の返事を聞いてスキンヘッドの盗賊は大層嬉しそうな表情で見返した。
「それに部下思いのあの人の事だ。 俺達がヒドイ目に遭ったって話せば、きっと仇を取ってくれるに違いねぇさ!」
「た、確かにそうかもしれないが……」
「万が一に断られたら……ラジリカ、お前からあの人に頼んでくれよ! お前の頼みならあの人は必ず協力してくれるだろうからな!」
「ま、待ってよ、ハン……」
「よ~~しよしよし! 話がまともった事だし、あの人が協力してくれれば今度こそあのボウズ共に一泡吹かせるぞ~~~!」
「「……」」
人の話どころか人の声も耳には届いていなかったスキンヘッドの盗賊は勝手に話を完結してさせてしまい、話の流れからにして自分達の頭に協力を仰いでカレン達を倒す事になった。
そして、一方的且つ自分の思い通りに話を進めたスキンヘッドの独走に対してロン毛と大男はお互いの顔を見合って、溜息と一緒にガクッと顔を俯いた。
「………」
「……」
呆れて物も言えない気分になった二人だったがその気分とは別に大男は命の恩人のカレンを恩知らずにまた襲う事になってしまった現状に罪悪感に近い物が感じて、心中では『このままで良いのか』『どうすれば良いのか』と顔に出るくらい分かり易く無言で悩んでいた。
そして、その様子は見て、ロン毛は。
「なぁ、ラジリカ」
「?」
誰にも聞かれないようにロン毛の盗賊は小さな声で大男を呼び掛けた。
「フと事で思い付いたんだが、お前の頼みならあいつ等を殺さないでやってくれってハンには内緒で言えば、あのお方はあいつ等を殺さずに済むんじゃないのか?」
「えっ? ……あ」
『水底の洞窟』でカレンに命を助けてくれた恩を気にしている大男に気を遣ったのか、ロン毛は大男自身が頭にカレン達を殺さずに倒してくれと頼めば、命を奪わずに済むのではないのかとその場で思い付いた事を提言した。
「最悪ボコボコにして、アイツ(カレン)の魔装器を奪うまではあいつ等を野放しには出来ないと思うが何も必ず殺すって事が目的な訳じゃないんだ。ちゃんと事情を話させすればあのお方も分かってくれると思うぞ」
「ケビー……ありがとうなんだな」
自分の気持ちを察した上でのロン毛の配慮に心を打たれ、ジ~~ンと気遣ってくれた事に大変感動した大男は微かに潤んだ瞳で心から感謝する。案外、このロン毛の盗賊は見掛けに反して、実は仲間思いなのかもしれない。
「? 何、話してるんだお前等?」
「いや、何も」
「うん、気の所為だよ」
コソコソと会話しているところをスキンヘッドに目撃され、問い質されても二人は口裏を合わせて、適当にはぐらかした。
「……まぁいいけどよ。 それよりも今さっき、ちょっと気になる事を思い出したんだけどよ」
あからさまに誤魔化した二人にスキンヘッドは特に興味が湧かなかったので、深く追求はせず、そのまま流してつい先程思い出して気になった事を話に持ち出した。
「俺の記憶が正しければ、魔装器使いのあのくそボウズが持っていたあの魔装器って、魔装器図鑑に載ってたってか?」
「あ? ………そういえば、そうだな。 図鑑にはあんな魔装器は何処にも載ってなかったよな」
「う~~~ん、言われてみれば」
自身の記憶上、スキンヘッドがカレンの持っている魔装器が魔装器図鑑には載っていないと指摘するとロン毛も大男も図鑑に載っていた魔装器を一通り全部思い出し、その中身にはスキンヘッドが言った通り、カレンの魔装器の載っていなかったようだ。
「昔、魔装器が現れてから約400年経った今、世界中の魔装器はほとんど図鑑に記載させているのにあのボウズの魔装器だけが載っていないって事になると考えられるにあのボウズの魔装器は現在僅かに行方不明となっている魔装器って事になるな」
「単純に俺達の見落としか、或いは図鑑の載っている情報が実は正しくなかったかそのどちらかの可能性も捨て切れないぞ」
何故、カレンの魔装器は図鑑には載っていないのかと考えられる可能性の述べ合うスキンヘッドとロン毛とは余所に大男はある事を思い出す。
「あ!」
「どうした、ラジリカ?」
「オデ、あいつの魔装器の名前聞いたよ」
『水底の洞窟』でカレン達があのザリガニのような白くて巨大な魔物と戦っている最中、大男は偶然カレンの近くに居た為、魔装器が『DETROIT・MODE』に変化した時に魔装器の名前を耳にしたのであった。
「ホントか? 何て名前だ?」
名前を知れば、少しでも何か分かるのではないかとスキンヘッドは試しに聞いてみた。
「えぇっと確か『ゼ・オ・ラ・ル』って言ってたよ!」
「「は?」」
大男が『ゼオラル』だと答えたら二人はポカンと呆然し、しかも今の話も聞いていた他の仲間も同じ状態になり、場の空気が冷えるように室内は静まり返り……そして。
「「「「「ぷっ! だっはっはっはっはっはっ!!!」」」」」
笑いのツボを突かれたかのように室内に居る大男以外の全員の笑い声が一斉に飛び交った。
「~~~っ!!!」
盛大に大笑いしてしまった所為で折れた骨にまた響き、スキンヘッドは懲りずに悶えた。
「ラジリカ! お前それ単なる聞き間違いだって!!」
「そうだぜ! 『ゼオラル』って言えば、伝説上の代物だぞ!」
さっきまで冷えた場の空気だったのに笑い声が飛び出た途端、場の空気は一気に賑やかな物になり、それに伴って三人以外の他の仲間が話に加わって来た。
「約400年に世界を救った勇者『トラル』が魔人『アルタイル』を倒せた一番の理由が魔装器『ゼオラル』だった」
「その『ゼオラル』の力のお陰で、『トラル』は見事に『アルタイル』を倒せたが、戦いが終わった際に『トラル』は戦いで負わされた怪我によって死亡してしまい、同時に『ゼオラル』が行方不明になってしまった」
「後に各国々や世界中の人間が総出で『ゼオラル』を探したが手がかりも痕跡も見つかられずに結局、行方不明は約400年間続いた」
「そして、400年は経った現在でも捜索は行われているみたいだが、でもやっぱり見つからないって話だ」
それぞれが文章を繋ぎ合わせるように次々と話に加わって来る盗賊達。
「一部の話じゃ、ある国がもう見つけていて世間には知らせず極秘に隠しているとか、もしくはもう既に消滅していてだから見つからないって話もあるがな」
「絶大な力を持ちその力で世界を救い、魔人『アルタイル』を倒してとも言える勇者『トラル』が持っていた魔装器『ゼオラル』!」
「そんな伝説上の代物をあんな魔装器しか取り柄がなさそうなガキが持ってるなんて、一mも思えねぇよ!」
「ほ、本当だよ! 本当に『ゼオラル』だって聞こえたんだよ!」
間違いなくそう聞こえたのにまったく信じていない周りの反応に大男は周りに本当の事だと顔を真っ赤にして必死に抗議する。
「まぁもし、仮にあのボウズが本当に魔装器『ゼオラル』の使い手だったとしら、〝俺達だけ〟じゃあ済まねぇな……」
骨の痛みが引いたスキンヘッドは話に舞い戻り、もしもカレンが仮に『ゼオラル』の所有者だったとしたら、カレンの身に十分起こり得る事態を予測した。
「狙われるだろうな……〝世界中〟から!」
半笑いのスキンヘッドが冗談という意味でそう予測を立てると室内で再びドッと笑いが飛び交った。だが後にこの仮初の予測が本当に当たっていたという事はこの時はまだ誰もそれを知る由もなかった。




