深淵の迷宮 交渉
「僕と戦ってくれる?」
エルの突然の提案にみな動揺している。
(交流したいからと言っていたのに、いきなり戦いを頼んでくるとは、こいつの思考が分からない。)
「なぜ戦うという話になる?俺達と交流したかったのではないのか?」
「うーん、だって会話せずに要求ばかりしてくるんだもん。そりゃもう戦いで決めるしかないでしょ。」
そう言う奴の顔は楽しそうだった。
眼はギラギラとして、まるで血に飢えた狼だ。
「結局そうなるか。所詮、こいつらと意思疎通など不可能だ。交渉など、屈服させてからでないと出来るはずがない。」
(いやいや、ガーネットさんよ・・・あんたが基本ぶち壊したんだけどな!)
「そうなると奴を含めて4体・・・勝てるか?」
(もう戦いの準備をしているライマン・・・ちょっと判断が速すぎるだろ!)
「ちょっと待ってくれ。戦い以外に何か願いはないか?出来る限り要望に従うから言ってくれ。」
「そりゃ、無理でしょ。君の仲間2人はもうやる気だよ、僕と話す気もないじゃん。それに、もう一体・・・イフって子はずっと戦闘態勢だよ。ここまでの闘志をぶつけられたら、やるしかないよね。」
『奴の言う通りだ。もう面倒な話はいいだろう。』
どいつもこいつも戦闘狂である。
この世界では普通なのだろうか?
「わかったよ。ただ、どうやって勝ち負けを決める。どちらかが絶滅するまで戦うとか、安易で野蛮な事は考えていないよな?」
すると奴は頭をひねって悩み始めた。
おそらく俺が言った安易で野蛮な事を考えていたようだ。
「そうだなぁ・・・なら、一対一で勝負なんてどうかなぁ。こっちとそっちの代表を出して戦って勝負を決める。これなら、最悪一人の犠牲で済むでしょ。」
(犠牲は出る前提なのか・・・しかし一騎討なら、こちらにはイフリートがいる。あっちの代表はオートマタ―のはず、なら勝てるはずだ。)
「なるほど、理性的な考えだ。ではこちらが勝ったら、クリスタニアを無事に返してもらう。そちらが勝ったら、大人しくここから立ち去る。これでいいかな?」
(この条件なら、最悪負けても無事にここから出られる。クリスタニアを救出するための応援も呼べる。)
「ん・・・そんなのつまんないなぁ。負けた方が相手の言う事を何でも聞くにしようよ。」
(一番ダメな要求だ。何でもするっていうのは軽々しく約束するものではない。)
「そんな曖昧な条件は飲めないな。」
「そうなんだ・・それなら・・・」
ガチャ、ガチャ、ガチャ・・・
物々しい音がしたと思ったら、広場の唯一の出口をオートマタ―の集団が塞いだ。
(やはり近くに潜んでいたか・・・)
「何の真似だ?」
「君達と僕が同等の立場じゃないってだけだよ。」
(会話は出来ても、話し合いができる相手ではなかったか。)
「こいつ!」
「卑怯者が!」
後ろの二人が罵るが、エルはしれっとしている。
(動じないか・・・言葉で相手を誘導するのは無理だな。)
「納得してくれないかぁ・・・そうだ!ハンデを上げよう!」
「ハンデ?」
「君達には全員挑戦権を与えよう!」
「どういう事だ?」
「つまり、こちらの代表者一人に、そちらは全員一対一で勝負を挑み、誰かが勝てば君の勝ち!全滅したら僕の勝ち!これはとんでもないハンデだ。」
「たしかにそれだとこちらが有利だ・・・しかし、それでは勝利して全滅したら君の言う事を聞く者もいなくなるが?」
「降参したらそこまで。それなら死なずに済むよ、もちろん死んでも負けだからね。」
(死んでも、死ななくても地獄だな。もう少し何とかできないだろうか?)
「もうこれ以上は駄目だよ。ここを力づくで突破するよりはいいと思うけどねぇ。」
俺はパーティメンバーに向かって、その条件でいいかを目で問いかけると全員頷いた。
『フン、回りくどい。誰が来ても俺が出れば勝てる。』
『そう願いたいな。』




