役者を説得しよう
「嫌ですわよ! なんでまた、着ぐるみを被らないといけないんですの」
「しょうがないじゃん。 ミウミウ役はミウミウしかいないって」
舞台稽古の時間、私は主役である、ミウミウを説得していた。
「⋯⋯じゃあ、そのままの姿で舞台に立てるの?」
「そ、それは、無理ですわね⋯⋯ ちょっと待ってくださいまし、裏方ではいけませんこと? 私、表立って出るのは苦手ですわ⋯⋯」
さすがミウミウ、人見知りだね。
「でも、ミウミウ⋯⋯裏方は忙しいよ? もしかしたら、ずっと働かないといけないかもよ? それでもいいの? 文化祭のご飯が食べられないよ?」
「だ、駄目ですわよ! 私は文化祭の出店の食事を、楽しみにしていますの!」
「そうなんだ~ じゃミウミウ頑張ってね!」
「くぅ。 わかりましたわよ⋯⋯」
私は、なんとか出鱈目を使い、ミウミウを説得することに成功した。
さて、次はどこかな。
「ドルワル様に縋り付くなんて、身の程を知りなさいよ」
「ガルル」
「そんな! 酷い⋯⋯」
「なにが酷いのです。 ドルワル様の婚約者は、このお方⋯⋯ユイベル様に決まっているんです。 突然現れた貴方なんかには務まりませんわ」
「ガルル⋯⋯」
「そんなことないわ。 私とドルワル様は、運命によって導かれているの。 そう、共に魔王を討伐する運命にね⋯⋯」
「まあ、汚らわしい女。 そうやって媚びて、他の男を虜にしたのかしらね?」
「ガルル⋯⋯ なあ、俺はずっとガルルしか台詞ないのか?」
「健太。 今、演技中よ。 静かにしてね」
どうやら、私の出番のようだね。
「柳田庶務。 自分の役にご不満が?」
「大有りだっての! なんだ、このかぶりものは!」
私は、彼を凝視した。
「ぶ。 とても素晴らしいコスチュームだと思いますますよ」
「おい、笑っただろ。 おかしいってわかっているよな」
「いや、そのかわいいですよ?」
彼が被っているのは、ケルベロス。
しかし、これは、犬のぬいぐるみだ。
「俺に合ってねえよ! 他にあるだろう? 例えば、王子様とか⋯⋯」
「はあ? アンタが王子? 最悪だわ」
声を上げたのは、令嬢役の榊原会計だ。
「アンタは、犬役として地面に這いつくばって、吠えてなさいよ負け犬」
「⋯⋯なんだって」
一触即発の雰囲気が、場を支配する。 二人は、また睨み合いだ。
「⋯⋯健太、決定事項だ。 無駄な言い争いはよせ」
「明里には関係ねえだろ」
「見苦しぞ健太。 お前は拒否権があったはずだ。 ⋯⋯それなのにここにいる。 わかっているんでしょ、本当は」
三人が真剣に話し合っている中、気まずそうにポツンとしている彩乃に話し掛けた。
「健太が王子様役じゃないのよね⋯⋯」
「⋯⋯というか、王子様がいませんけどね」
「そして、兼役なのよね?」
「彩乃もそうでしょう」
田中書記曰く、本当は二冊の台本から、どちらかを選んぶ予定だったのだが、ゆいゆいと彩乃が揉めて。 最終的に両方ともすることになったのだ。
そのため、一部のカットや兼役が行われることになった。
「ねえ、増員しない?」
「駄目。 みんな他に仕事があるから⋯⋯」
嘘は言ってない。 嘘はねーー
「⋯⋯ちぇ。 男だったら、掴みかかってたのに⋯⋯」
「こっちこそ、女だったらビンタをくれてやったわよ」
二人はお互いにソッポを向いて解散した。
「⋯⋯明里。 二人って仲がいいと思っていたんだけど⋯⋯」
「瑞稀。 それは、サッチーのお陰よ。 彼女がいないと、いつもこんな感じになるのよね」
私たちは二人して、ため息を吐くのであった。
「ここはこうして⋯⋯」
「⋯⋯サッチー」
「うむ。 健太ではないか。 どうした?」
「俺に人間役をくれ!」
「えぇ。 目立ちたがり屋だな健太は⋯⋯」
「だって、悔しいだろ。 ゆいゆいの奴、俺を煽ってくるんだぜ、なんとかしてくれよ~」
「仕方ないな~健太は。 わかった検討しよう」
「よし! それでこそサッチーだぜ。 じゃあな!」
「⋯⋯あぁ。 また組み直しか⋯⋯」
「田中先輩」
「⋯⋯君は吉澤さんか」
「はい。 台詞についてよろしいでしょうか? ⋯⋯ここを⋯⋯にしたいんです。 その方がいいかと」
「まあ、それぐらいなら問題ないからいいよ」
「ありがとうございます! では失礼しました。 ⋯⋯痛った。 ドアに激突しちゃったよ、うぇーん⋯⋯」
「はあ、そそっかしい子だのう。 さて、どうするかな⋯⋯」




