彩乃がここにいる理由⋯⋯
放課後、私は桐原家に向かう。 玄関のチャイムを鳴らすと、マイマイが出てきた。
「⋯⋯あ。 みずちゃん。 今日も、来てくれたんだね⋯⋯」
「こんにちは、マイマイ⋯⋯」
私は、マイマイの顔を見る。 彼女は明らかに疲れているようだ。
「大丈夫? マイマイ⋯⋯」
「⋯⋯まったく、もう! お姉ちゃんったら! ⋯⋯私はずっと、心配だよ!」
「⋯⋯ごめん。 私のせいで⋯⋯」
「え? みずちゃんは関係ないよ! お姉ちゃんが勝手に、みんなに迷惑をかけただけだよ!」
マイマイはそう言うと、私をリビングへ案内する。
「⋯⋯ちょっと、ここで待ってね。 お姉ちゃんに声を掛けてくるから」
マイマイが、彩乃の部屋へ向かって行った。 暇な私は、あたりを眺める。
ーーそれにしても、この家は桐原さんの、お父さんの持ち家なのかな? それにしては、荷物に偏りがあるような? そもそも、彼女たちのご両親は? 私、全然知らないことだらけだねーー
「ちょっと、どうしよう。 私、髪がボサボサだし⋯⋯」
「お姉ちゃん。 そんなこと気にしないよ! 呼んでくるね」
「え! ちょっと、待ちなさい!」
少し、遠くから話し声が聞こえた。
「みずちゃん。 お姉ちゃんが待ってるよ」
マイマイはそう言うと、リビングのソファに腰掛けた。 どうやら、私一人で彼女の部屋に行くようだ。
「こんにちは」
「⋯⋯こんにちは。 瑞稀」
そこには、寝巻き姿の彩乃がいた。 私は荷物を床に置いて、正座した。
「彩乃。 申し訳ございませんでした!」
「え? ええと⋯⋯なんで?」
「私のせいで、彩乃は倒れたんでしょ!」
「違うけど?」
私は、顔を上げて彩乃をまじまじと見つめる。
「貴方、そんなに見つめないでよ⋯⋯恥ずかしいじゃない⋯⋯」
「あ⋯⋯ごめん⋯⋯」
二人の間に気まずい、沈黙が起こった。 私は気分を変えようと、先程考えていた話題を口にする。
「そういえば、ご両親はどちらにいるのかな? 挨拶しないと⋯⋯」
「⋯⋯お父さんとお母さんなら、もう死んだわよ⋯⋯」
私は、選択を間違えてしまった。
これじゃエタナのことをとやかく言えないーー
「⋯⋯二人はね、私たちを守るために死んだの⋯⋯」
彩乃の口から、語られた話しは、とても現実離れしていた。 けど、私には本当のことを言っていると理解できるーー
「⋯⋯ハア。 話しの段取りが上手いでしょ⋯⋯つい最近、健太にも話したから。 ⋯⋯それで、この家はお父さんの、持ち家って訳。 ずっと空き家だったけど、売るのが嫌だから、私たちが住んだのよ⋯⋯」
私は、彩乃の顔を見ることが出来なかった。 ずっと俯いて話しを聴いていたのだった。
その時、体に触れられた感覚を覚えた。 私が、顔を上げると彩乃が微笑んでいる。
「さあ、過去の話しはこれでおしまい。 ⋯⋯上手に話した私の頭を、撫でてくれる?」
夕方、私はまた学校に戻って来た。 生徒会長としての仕事をするためだ。
タイミングが違ったのか、好都合なことに誰も生徒会室にはいなかった。
私は、無心で資料に目を通す。 そうでもしないとやっていけないからだ。 文化祭は開催される。 予定通りに、私は絶対に成功させないといけない。
無心で動かす頭と体は、限界を超えていた。
でも、私はそれに気づくことはなかったのである。




