コンサート当日 ーー榊原結衣視点
理想学園の体育館ーーそこには今日、コンサートに参加する客で満杯だ。 この客たちは、この舞台の主人公である私を見るために、集まったのだ。
「やっぱり、凄い! さすがゆいっち!」
「結衣の人気はうなぎ登りですね」
「ふふ。 まあ、それほどでもあるかな⋯⋯」
メンバーの二人によいしょされて、同調する私ーー 口では、程々な態度をとりつつも、内心は喜びで満ちていた。
「⋯⋯まあ、アンタたちがいなかったら、コンサートが成り立たないし、私一人が人気な訳じゃないわよ」
「はいはい。 口ではそう言うけど、内心は自分一人の力だと、思っている癖に、まあ私たちはバックダンサーだからね!」
「結衣は私たちのスター⋯⋯私と明里はタダの引き立て役です」
うふふ、まあ確かにその通りだけど、改めてそう言われると、照れるわね。
私の気持ちは既に、有頂天だったーー
「お客様の動員オッケーです!」
そんな中、聞こえたのは天敵の声だった。
コイツーー倉石瑞稀は私たちに向かい、尊敬の目を向けているーー
しかし、私はその様子を訝しむ。 その証拠が彼女の服装である。
彼女はスーツを着込み、まるで私たちの秘書のように振る舞う。 私たちは貴方に雑用しかさせてないのに。
そして許せないのは、ここ数日の彼女の行いだ。 彼女は、私の世話を始めた。 まあ、それ自体は雑用係として問題ないにしてもーー
問題なのは、コイツがお風呂や寝床まで一緒なことだ。 親の許可を私の前でとり、まるで私がそうさせているかの様に行動する、気に食わない。
私は反撃した。 彼女が「お背中流しますね!」と言いながら、腕を私の口の前に持ってきた。 私は軽く噛みついた。
すると怯えるどころか、何故か嬉しそうな表情をする。 その時、心のナニカが高鳴る気がした。 そして、当然のように横で寝る。 この前、冗談で誘った時には断った癖に、今では嬉々として同衾するのよ。 意味がわからない!
なんで、コイツのことを意識するのかな?
ーーあの日に見た、夢のせいだ! それからはコイツを見るたびに、夢の内容を思い出してイライラするのだ。 こんなの私らしくない!
この感覚は危険である、慣れてはいけないーー
私は、孤独に生きると決めたのだから。
「⋯⋯と言うことで、私が前座を務めますね! 榊原さん! 問題ないですか?」
「え? えっと⋯⋯まあ」
「はい! ありがとうございます! じゃあ行ってきます!」
そう言うと、瑞稀は元気に舞台へ向かっていくーー
「ゆいっち! いいの? アイツに前座を任せて?」
「へ? ぜ、前座?」
「結衣⋯⋯貴方ボーとしてたのね。 瑞稀が会場の盛り上げ役として前座を任せてくれって主張してきたのよ。 私たちは反対したんだけど⋯⋯」
明里の話しを聴いて、ようやく自分の過ちに気付くがーー
「みんな! ありがとう! 理想学園オンステージ! 倉石瑞稀です! それでは聴いてください⋯⋯理想学園校歌!」
瑞稀が叫ぶと、会場に校歌が流れる。 メロディに合わせて瑞稀が歌う。
最初は、半信半疑で聴いていた観客は、彼女の歌を真剣に聴き始める。 ついには歌を口ずさむ客まで現れたーー
「みずきっち、歌上手いじゃん!」
「倉石⋯⋯やるわね」
やられた! 私は自らの油断を悔いた。
倉石瑞稀ーー彼女がただ平然と、雑用をする人間じゃないことは、知っていたはずなのに! 私どうして、ボーっとなんて醜態を彼女の前で晒したの?
アンタを止める! 私はステージに向かおうとしたーー
その時、メロディが変わる。 私は足が止まった。
この曲は。 なんで今、よりにもよってその曲を歌うの?
流れる歌が、私の昔の思い出を呼び覚ますーー
「⋯⋯よ。 やめて! やめなさいよ!」
私は、ステージに到着した。 彼女はナゾの光に照らされていた。
私もその光に照らされて、前へ進んでいく。
そこに見える者が幻だとわかっていながらーー




