榊原結衣の動揺ーー榊原結衣視点
「おはよう」
「おはよう! ゆいっち」
「結衣、おはよう」
私はあの後、すぐに事務所にやって来た。 すると、既にメンバーの二人が来ていた。
「あれ? みずきっちは?」
「瑞稀は、着替えのために帰らせたわ」
「帰らせた? ⋯⋯まさか結衣! また、家に帰らずにここへ来たの?」
ああ、しまった。 明里が私を心配するように、見て来る。 善子も同様だ。 ーーアンタたちぐらいだよ、私の心配をしてくれるのはーー
「それがさ! なんだかよくわからないけど、すっごく元気なの! なんだかこころなしか、ポカポカするし⋯⋯」
私がそう言うと、明里と善子は二人で目配せした?
「ハァ。 おはようございます⋯⋯」
「おはよう。 倉石」
「あれ? みずきっち、元気ないじゃん?」
「⋯⋯見てわかるでしょ。 いつもの服装ですよ! 私の秘書としてのアイデンティティがなくなりましたよ⋯⋯」
見るからに落ち込んでいる、瑞稀。 しょんぼりポーズのまま俯いていると、私と目が合った。
「⋯⋯⋯⋯」
なによアンタ! そんな見てわいけない物を見た表情をして! なに気まずそうにしているのよ!
「⋯⋯えっと。 先輩方、私はなにをしましょうか?」
「倉石。 貴方、もう忘れたの? 昨日と同じことをしなさいよ!」
「え? でも、それってただの雑用⋯⋯」
「あ! みずきっち! 今日はサンドイッチが食べたいな!」
「⋯⋯はぁ。 わかりました。 行ってきます⋯⋯」
そうして、明らかにテンションの低い瑞稀は、昼ごはんを買いに行ったのであったーー ねえ? 私はこのままなの? ちょっと!
「アンタ! どう言うことよ! 普通事情を確認して、私を救助するでしょう? なんで、スルーした挙句⋯⋯そのまま、どこかへ行っちゃうの?」
「すみません。 そう言う趣味だと思って⋯⋯」
買い物から帰って来た瑞稀に、私は詰め寄る。
ーーそう、私は今まで拘束されていたのだ。 あの二人! なんであんなに、力強いのかしらーー
「こうなったのも、アンタのせいだからね! アンタが、途中で帰るから悪いの! 今日も私に尽くしなさい!」
「⋯⋯あの尽くすって言われても、私立っているだけでまるで雑用⋯⋯」
「ゴホン! あ、ヤバイ。 瑞稀! のど飴買って来て!」
私は、考え込む瑞稀を強引に買い物に行かせた。 瑞稀は、なにか思案しているようだが、とりあえず誤魔化した。
「「「お疲れ様です」」」
「えっと⋯⋯これから会社で仕事ですよね! 会社にこの格好じゃまずいなー 着替えますね!」
「それには、及ばないわ。 今日は自宅で仕事するから」
「⋯⋯はい、そうですか」
アンタ! どんだけ服を着替えたがるのよ! まさかアンタ、スーツを着てなんちゃて秘書をやりたいだけなんじゃ?
「⋯⋯ふん。 アンタの今回の目的がわかったわよ」
「ギク。 えっと、なんのことでしょう?」
「私たちを利用して、なにかをするつもりだったんでしょ?」
ーーすると、瑞稀はカタカタと笑い出したーー
「⋯⋯それがどうしたんですか? 貴方に今の所は関係ないですよね?」
「関係おおありよ。 アンタに変なことをされて、私の晴れ舞台がアンタの独断場にされる妄想を考えるだけで身も毛もよだつわ。 絶対、そんなことはさせない! コンサートの主役は私なの! アンタは、せいぜい影で私の栄光に嫉妬していればいいの⋯⋯ 話しは以上よ! 家に帰るわよ」
私は、瑞稀の方を向かずに家に向かい歩き出したーー
「えっと。 凄いですね! よ! お金持ち!」
「⋯⋯⋯」
瑞稀がまるで、とってつけたおべっかを言うが、私は嬉しくない。 イライラするな。 ーーなんだかアンタの顔を見るのも嫌な気分になって来た。
「はあ⋯⋯ もういいわ。 アンタはさっさと帰りなさい」
「私は帰りませんよ」
「⋯⋯なに言っているの? アンタには帰る場所があるわよね? ⋯⋯昨日は悪かったわよ。 だから、今日はこうして⋯⋯」
「帰りません!」
「帰りなさいよ!」
「嫌です!」
どれだけ否定しても、食い下がって来る彼女ーー
私は、瑞稀に心底苛立ちを覚えた。
「私、アンタのこと嫌いなの。 わかったら、さっさと帰りなさい」
それはーーアイドルの私らしくない、決して他人に見せてはいけない、私の負の感情だった。
ーーやってしまった、よりにもよってアンタにーー
どうして、こんなこと言ってしまったんだろう。
夢の中で昔を思い出したからに違いないわ。 最悪ーー




