黒猫ツバキとボロノナーレ王国滅亡の危機
再び、国家存亡の危機を迎えるボロノナーレ王国……大丈夫か? この国。
お題は「叫ぶ」「開花」「平行線」です。
ここは、ボロノナーレ王国の端っこにある村。
魔女コンデッサ(20代・美人さん)が自宅で寛いでいたところ、平穏は突然に破られた。
「コンデッサ様! 力を、お貸しください」
「お姉様、大変ですわ!」
王国の第8王女のミミッカと、伯爵令嬢のチリーナ――2人の少女が、息せき切って来訪したためである。
「どうしたんだ? 2人とも、落ち着け」
「一大事なのです、コンデッサ様。王国滅亡の危機なのです!」
「ど~せ、王様がギックリ腰になったとか、そんなのニャン」
コンデッサの使い魔である黒猫のツバキが、話に割って入る。
「お黙りなさい、この駄猫。冗談に付き合っているヒマなど、ありませんわ! お姉様! 現在、王宮は迫り来る破滅の足音に皆うろたえ、大騒ぎとなっておりますの。お姉様の叡智と助言が、必要なんです!」
「状況はサッパリ分からんが、ただ事では無さそうだ。王宮へ行こう」
「アタシも行くにゃ!」
3人と1匹は、王都へ向かった。
♢
王城の会議室に入ると、そこには国王をはじめとして王国の重鎮たる宰相・魔術師長・騎士団長、更には文武百官が顔を揃えていた。喧々囂々の大議論が展開されている。
「国王陛下。いったい何があったのですか?」
「コンデッサ殿か。数日前、王宮の庭に〝災いの花〟が蕾の状態で出現したのじゃ」と国王。
「災いの花?」
初めて耳にする怪しげなワードに、コンデッサは戸惑う。
王国一の知恵者である宰相が答えた。
「災いの花が咲くと、その国は阿鼻叫喚の地獄と化し、滅亡すると言われておる。人々は互いに責任を擦りつけあい、誹謗中傷し、疑心暗鬼に陥り、ついには自分以外の誰も信じられなくなってしまうとか。今朝には、半開きになっておった」
「開花前に摘んでしまえば良いのでは?」
コンデッサの意見に対し、王国一の魔法の使い手である魔術師長は否定的見解を示す。
「それは、危険かと」
「何故ですか?」
「真偽不明ながら、咲く前の花に触れると、王国どころか世界が破滅する――そのように、伝えられているのです」
王国一の武勇を誇る騎士団長が、現状を解説する。
「『開花前に抜くべきだ』と『開花後に処分せよ』という2つの主張がぶつかり合って譲らず、論議は平行線をたどっているのだ」
「……ともかく、問題の花を見せてください」
「うむ。こっちじゃ」
国王みずからコンデッサを案内すると、家臣一同ぞろぞろついてくる。
人の掌サイズの大きさの花が一輪、庭園の真ん中に不自然に咲いていた。
「お花さん、もう咲いてるニャ!」
ツバキが叫ぶ。皆は愕然とした。
「クチナシの花にそっくりな、色と形をしていますね」と1人だけ冷静なコンデッサ。
「もはや、話し合いは無意味だ。花が災いを王国へもたらす前に、俺が抜いてやる」
騎士団長が進みでるや、花は突然しゃべり出した。
『俺っちは何もしていないのに引き抜こうなんて、酷すぎやしないか?』
「花のくせに話せるのか!?」
『俺っちは口なしじゃなくて、口ありの花なんでな』
「お花さんに、口なんて付いてないにゃ」
「と言うか、どこから声を出しているんだ?」
ツバキがツッコミ、コンデッサは首を捻る。
「悪いが、お前は存在そのものが人心不安のもとだ。処分させてもらう」
『俺っちに指一本でも触れてみな! アンタの秘密を暴露するぜ』
「誇り高き騎士である俺に、後ろ暗いところなど微塵もない!」
『そんなこと言って良いのか~? アンタは愛妻家で有名みたいだな』
「俺は妻を世界中の誰よりも愛している!」
『それじゃ、これはど~いう事でえ!?』
花のすぐ上の空中に、縦横が人間の身長程度ある大スクリーンが現れた。画面上には、騎士団長と妙齢の婦人が。
『団長さん、お家にお帰りにならなくて良いの? 奥様がお待ちになっているのでは?』
『俺は妻を愛している! だがソレはソレ、コレはコレ』
「わ~!」
騎士団長は剣で映像に斬りかかるものの、画面は消えない。
『この映像、奥さんに送っといたから』
騎士団長、撃沈。
「これ以上の狼藉は許しません!」
『魔術師長か。アンタは自動人形の開発に力を入れているんだよな?』
「その通りです。魔力で動くオートメーションドールが実用化されれば、国民の労働負担が今よりもっと軽くなるはずです」
『アンタが自動人形を作っている本当の理由はコレだろ?』
画面に映し出される、魔術師長と5体の少女型自動人形。
『ただいま~。マイちゃん、ミイちゃん、ムイちゃん、メイちゃん、モイちゃん』
『『『『『お帰りなさいませ、ご主人様!』』』』』
『メイドさんドール、最高!』
「ぎゃ~!」
魔術師長、大破。
「やれやれ。いい加減にせよ、災いの花よ」
『宰相か』
「ホッホッホ。爺であるワシは、今更どのような恥をかいても気にはせん」
『それはどうかな? アンタは先日、ランジェリーショップに1人で入ったよな?』
「ギク! あ、あれは、孫娘へプレゼントする下着を買いにいったのだ!」
『それはそれでアウトだと思うが……。しかし、アンタは購入した女性用下着を誰にも贈っていない! あのランジェリーは、今どこにあるのかな~?』
画面に映るのは、単なる宰相の立ち姿。しかし、服の下には何があるのか、庭園に集う一同は訝しむ。特に女性陣は、ゴミ虫を見る眼差しとなった。
「誤解するでない~!」
宰相、自沈。
「もはや、男たちには任せておけません!」
『英才の誉れ高い第8王女か』
「災いの花よ、覚悟しなさい!」
『王女、アンタは男同士がイチャイチャするイラスト本を秘かに集めているようだな?』
「あ、あれは、男性の心理を勉強するための教材として……」
画面上で、王女は『攻めキャラと受けキャラをリバースすべきですね』なんぞと本をガン見しながら独り言を漏らしていた。
ミミッカ王女、爆沈。
「もう、許しませんわ!」
『伯爵令嬢か。アンタは夜な夜なベッドの上で「お姉様~」と呟きつつ……』
「ぴゃ~!」
チリーナ、轟沈。
「この花の周りに囲いを作って、放置すれば良いのでは?」
コンデッサがそう提案すると、災いの花は『俺っちは誰かに構って欲しいんだ! 無視するなら、王国の民からランダムに人を選び、その秘密を王国中に映像としてばらまくぞ!』と喚きたてた。
ミミッカの顔色が青ざめる。
「そんなことをされたら、民衆が王国より続々と逃げ出してしまいます!」
国王は、頼もしき家臣たちのほうへ顔を向けた。すると――
「陛下のご期待に、応える者は居ないのか!」
「そう言うお前が、真っ先に花を毟りに行け!」
「…………」と国王。
「貴様が行け」
「誰か、頼む」
「私はイヤだ!」
「…………」とミミッカ。
「皆の衆。心置きなく、花のもとへ向かってくれ。我の精神は強い。他人にどのような災いが降りかかろうと、それに耐え、全てを見届ける――その覚悟は、既に完了した!」
「ふざけんな! 偉そうな口調で、ゲスなセリフを吐いてんじゃ無ぇ――!」
「…………」とコンデッサ。
「不甲斐なし! 後方支援は、自分が引き受けてみせるのに」
「単なる安全地帯からの傍観だろ」
醜い言い争いを、ひたすら続ける王国の文武百官。まさに、修羅場。ボロノナーレ王国滅亡の危機。
と、ツバキがトコトコと花へ歩み寄った。
「お花さん、おイタが過ぎるにゃ」
『黒猫か。アンタの恥ずべき秘密はこれだ!』
画面上には、コンデッサの言いつけを忘れてゴロゴロと昼寝をしているツバキの姿。
「いつものツバキだな」とコンデッサ。
「いつもの駄猫ね」とチリーナ。
「いつものツバキさんなのですか?」とミミッカ。
『それなら、これだ!』
画面上には、コッソリとお菓子を盗み食いするツバキの姿。
「いつものツバキだな」とコンデッサ。
「いつもの駄猫ね」とチリーナ。
「いつものツバキさんなのですか?」とミミッカ。
『おのれ~』
画面上には、コンデッサのお気に入りの皿をウッカリ割ってしまい、コソコソと庭の隅に埋めるツバキの姿。
「ツバキ、あんな事をやっていたのか」とコンデッサ。
「駄猫、あんな事をやっていましたのね」とチリーナ。
「ツバキさん、あんな事をなさっていたのですか?」とミミッカ。
「ニャ~!」
焦ったツバキは、思わずプチッと花を摘んでしまった。
王国滅亡の危機は回避された。
国王、大感激。
「おお、よくぞやってくれた黒猫殿! その偉業を称え、ソナタには《救国の猫》の称号を与えよう!」
「断るニャ」
♢
ちなみに自宅へ戻ったあと、ツバキは皿を割った過失についてコンデッサにしっかりお仕置きされた。
国を救った猫も、自分は救えなかったようである。
災いの花の地表部分はツバキに摘まれちゃいましたが、根っこは残っていました。けれど根っこは善良な性格であり、王城の人たちと和解します。王城の人々曰く、「災いの花は、根は良いヤツだ!」……というオチを考えていました。
あと、花の形はクチナシそっくりにしましたが、バラそっくりでも良かったかな~と。他人の秘密をバラすバラ……。




