黒猫ツバキと苦悩する国王・後編
続きの後編です。
やっぱり会話文のみです。
「こ、これは!!!」
「ニャニャニャ!!!」
「……どうじゃ? ヒドイ光景であろう?」
「王様の自虐的な笑みが、痛々しいにゃ」
「かつては、草木の茂る瑞々しい沃野であったのじゃ。豊かな国土を守るため、若い頃より余は片時も警戒を怠らなかった。念入りに防御を施してもいた。しかし、敵は音も無く忍びより、ある日突然、牙を剥き出しにして襲いかかってきたのじゃ。いざ戦が始まるや、止める術など無く……あれほど美しかった緑野が、斯くも無残な砂漠地帯に成り果てようとは………今、昼夜を問わず、余は苦しみに苛まれている。臣下に隙を見せぬようにと、王冠を常に外さぬ生活を続けておる次第じゃ」
「お気の毒なお父様……」
「泣くな、ミミッカ。王とは、辛いものよ。如何なる時でも、王者の威厳を損なうわけにはいかぬ」
「あの~、国王陛下」
「なんじゃ? コンデッサ殿」
「お悩みになっているのは……」
「うむ。この乾ききった大地じゃ」
「それ、ただのハゲにゃ」
「こら、ツバキ! 本当のことを言うな!」
「猫よ! ハ◯などと、軽々しく口にするでない! 日々、余の頭を悩ませる難敵ぞ!」
「悩んでいるにょは頭の中じゃ無くて、頭の表面にゃのね」
「前方の敵と余が躍起になって戦っている最中……」
「それ、額のM字ハゲにゃ」
「後方で新たな敵が蜂起したのじゃ」
「それ、後頭部のO字ハゲにゃ」
「おのれ、猫め! 全身が黒い毛で覆われている貴様なんぞに、余の苦悩は分かるまい」
「え~と、王女殿下。陛下が仰った『王国の危機』とは……」
「国王陛下は国の象徴。陛下の危機は、即ち王国の危機ですわ」
「はぁ……。つまり、陛下と殿下の私への依頼は、『国王陛下の薄毛をなんとかしろ』と言うことですか?」
「うむ。臣下のヤツらは、どいつもこいつも頼りにならん。先日も会議で『薄毛治療に医療保険が適用できるようにするべきじゃ』と余が直々に提案してやったにもかかわらず、宰相のヤツ、一考もせずに『薄毛は病気ではありませぬ』と却下しおった」
「賢い宰相様にゃ」
「宰相様のご発言は正しいです。《治療魔法》を使用しても、薄毛は治りません。これは、薄毛が病気では無い証かと」
「うぬぬ……。じゃが、コンデッサ殿。《治療魔法》以外の魔法なら、薄毛にも効き目があるのではないか?」
「先日、ワタクシ、父の頭部へ、癒しの《光魔法》を試してみましたの」
「どうなりました?」
「頭のハゲてるところがピカーと光って、大変でした。それだけでした。母は、大笑いしていました」
「王妃は冷たい……。ミミッカに、《回復魔法》を掛けさせてみたりもしたのじゃ。しかし、効果は見られなかった。それどころか、症状が進んだような気配さえ……」
「なるほど」
「コンデッサ様、何かお心当たりでも?」
「魔女界では、『ハゲは、堕天使によって人類へ掛けられた呪いなのでは?』との仮説が唱えられているのです。なんでも、堕天使は人間の身体の内部にテストステロンなる因子を植え付け、それが何かを切っ掛けにしてジヒドロテストステロンという凶悪因子に変異するのだとか。このジヒドロテストステロンこそ、ハゲの要因である可能性が極めて高く……《回復魔法》を施すと、ジヒドロテストステロンが活性化してしまうケースも……」
「ジヒドロテストステロン……禍々しい名称じゃ。なにゆえ、堕天使はそのような恐るべき呪いを人類に……」
「堕天使はハゲていたため、仲間が欲しかったようです」
「…………」
「…………」
「にゃ~」
「では、コンデッサ殿。薄毛に効く魔法はないのかの?」
「私の知る限り、ただ1つ、《植毛魔法》ならば……。極秘魔法の一種ですので、使い手は限られていますが」
「コンデッサ殿は、もしや……」
「はい。私は《植毛魔法》を心得ております」
「おお!」
「お待ちください、お父様!」
「なんじゃ? ミミッカ」
「確かにコンデッサ様の《植毛魔法》に頼れば、お父様の髪は蘇るやもしれません。けれど、お父様はそれで宜しいのですか?」
「何を言っておる? ミミッカ」
「お父様は常々、仰っていたはず。『王たる者、民と苦しみを同じくし、民と喜びを分かち合うべし』と。薄毛に悩んでいる大勢の男の民を見捨てて、お父様は1人、救われようと言うのですか?」
「むむむ」
「そんなお父様、ミミッカは嫌いです。ハゲでも堂々としているお父様が、ミミッカは好きです」
「ぬぬぬ」
「お父様!」
「……分かった。ミミッカよ、余が間違っておった」
「一件落着にゃ」
「……王女殿下。そんな確固としたご意見をお持ちなら、どうしてワザワザ、私をお呼びになったのですか?」
「申し訳ありません、コンデッサ様。ワタクシ、『逃げ道があっても、敢えてそれを選ばぬ意志』を、王たる父には示して欲しかったのです。それこそが『王道』!」
「王女様は、凄いにゃ」
「感服です、殿下。あと、国王陛下、王冠の被りっぱなしは、髪に悪いですよ。頭部が蒸れると、ハゲやすくなります。ご注意を」
「まことか! しかし、家臣に薄毛を見られるのは決まりが悪いの~」
「お父様……」
「でしたら、国王陛下。私より1つ、ご提案が。魔法を使わずに、頭をハゲていない状態にする方法があるのです」
「本当か!? コンデッサ殿」
「ええ。この手段なら、一般庶民の方でも容易に活用できます」
「それをヤッてくれ」
「お父様!」
「ふっ、ミミッカよ。王とは、時に即断即決せねばならぬものなのじゃ」
「畏まりました。そ~れ、ジョリジョリジョリ……と」
「な、なんじゃ、これは~!!! 髪の毛が一筋も残っておらん。つるっパゲではないか!」
「陛下。これは〝スキンヘッド〟なる、立派なヘアースタイルです」
「M字ハゲも、O字ハゲも、跡形も無いにゃ」
「納得です。正式な髪型である以上、『ハゲでは無い』と言い張れますものね」
「毛が無いにょで、〝薄毛〟でも無いのにゃ」
「おめでとうございます、お父様。これで〝前線の味方後退〟にも、〝後方の敵軍蜂起〟にも、怯えることは2度とありません。未来は安泰。夜もグッスリ眠れますわ」
「ううううう……」
「王様、泣かにゃいで」
「モフモフの猫であるお前に慰められると、余計に辛い」
♢
「……再び我が家に御出くださるとは、痛み入ります。王女殿下」
「今日は、コンデッサ様にお礼を申し上げたくて。開き直ってスキンヘッドを公表して以来、王都の民の間で、父の人気はうなぎ登りなのです」
「良かったです」
「特に、年輩の男性がたからの支持は圧倒的」
「……良かったです」
「スキンヘッドの父の姿を描いたイラストも、飛ぶように売れている模様」
「ほぉ」
「父の似顔絵、なんでか頻繁に鶏の卵とセット販売されています。不思議です」
「……そうですか」
「不思議がる王女様が、不思議なのにゃ」
「東部(頭部)戦線、異常あり!」な、お話でした。ハゲしい戦闘。ハゲましあう、戦友たち。されど、戦線は今日も後退。まさに、戦々恐々(戦線今日今日)……。
※注 M字ハゲやO字ハゲは、男性型脱毛症の種類ですね。人の体内において、男性ホルモンの一種であるテストステロンに5αリダクターゼという酵素が結びつくと、薄毛の原因となるジヒドロテストステロンが生成されると考えられており……いや、自分は何の説明をしているんでしょう(汗)。
結論――ショー◯・コネリーや渡◯謙は、ハゲても格好いい!




