黒猫ツバキと苦悩する国王・前編
今回は、「会話文」短編コンテストに応募したお話です。会話文のみで構成されています。
お題はありません。
「はじめまして、魔女コンデッサ様。ワタクシは、ボロノナーレ王国第8王女ミミッカと申します」
「これはこれは! 王女殿下は、魔女高等学校の生徒会長に就任されたと聞き及んでおります。多忙の御身でありながら、何故、拙宅へいらっしゃったのですか?」
「20代という若さにもかかわらず、素晴らしい魔法の才能で魔女界における名声をほしいままにしているコンデッサ様に、是非ともお願いしたい儀がありまして参りました」
「なんのなんの。学園での殿下のご活躍ぶりは、チリーナより耳にタコが出来るほど聞かされておりますよ。魔女としての能力で私が追い越されるのも、時間の問題でしょう」
「副会長のチリーナには、いつも助けてもらっています。彼女にとって、コンデッサ様に教えを受けたことは、余程の自慢なのでしょう。口を開けば『お姉様は……』ばかりですわ」
「チリーナへは、ホンの少しの間、個人レッスンを施しただけなのですが……。アイツは、私を過大評価しすぎなんですよ。困ったものです」
「おホホホ」
「あははは」
「腹黒い2人が、お世辞にょ言い合いで腹の探り合いをしているニャン。そんにゃ見え見えのおべんちゃらを真に受ける存在にゃんて、この世には居にゃいんだから、さっさと話を進めるのにゃ」
「あら。貴方はコンデッサ様の使い魔、黒猫のツバキさんですね。チリーナの話どおり、美しい毛並みにしなやかな四肢、賢そうなお顔ですわ」
「え~。チリーニャさん、そんにゃ本当のことを王女様に伝えてたのにゃ。照れるニャ。にゃんにゃん」
「ツバキ……お前って猫は……」
「それで、どんにゃ用件で、王女様はご主人様が住むアバラ屋へ来たのかにゃ?」
「アバラ屋とか言うな、ツバキ」
「これは、我が父、直々の依頼なのです」
「国王陛下の!」
「ハイ。今よりお話しする内容は、ボロノナーレ王国の存亡に関わる重大事です。父は『あらゆる手を尽くしたが、もはや万策つきた。こうなっては、卓越した魔法の持ち主であるコンデッサ殿の叡智にすがる他ない』と申しております」
「まさか、国王陛下が私の名をご存じとは……光栄のあまり、身の震える思いです」
「さすが、ご主人様にゃ!」
「伯爵令嬢のチリーナは、父とも面識がありますの。彼女、国王である父の前でも『お姉様は!』を連発しておりまして……。それで、父もコンデッサ様に興味を持ったようです」
「…………」
「にゃ~」
「……で、お話は」
「人払いをお願いいたします」
「ここには、私と殿下、それにツバキしか居りませんが……」
「アタシは〝猫〟にゃ。〝人〟では無いのにゃ」
「どうします? 王女殿下。猫払いしますか?」
「……まぁ、良いでしょう。ツバキさん、くれぐれも他言無用ですよ」
「大丈夫にゃ! アタシ、お口はとっても堅いのにゃ。10日間、雨が降った後の地盤くらいの堅固さなのにゃ」
「かなり不安です」
「ご心配には及びません、殿下。いざとなれば、私が責任を持ってツバキのヤツを猫汁にしますので」
「猫汁はイヤにゃ! 貝みたいに口を閉じてるニャン」
「加熱したら、すぐに口を開きそうですね。……コンデッサ様。実は現在、我がボロノナーレ王国は強敵の侵攻を受けているのです」
「なんですと!」
「ニャ!?」
「国境線は日々後退を余儀なくされ、緑豊かだった草原は、不毛の荒野へと変貌してしまいました。父は憂慮のあまり、夜になっても満足に眠ることが出来ない有りさま」
「大変にゃ!」
「我が国が侵略されているなど、初耳ですが」
「それは、王国上層部が必死になって事実を隠蔽しているためです。けれど状況をこのまま放置していれば、いずれ国民全てが残酷な現実を知ることになるでしょう。手遅れになる前に、コンデッサ様に助けていただきたいのです」
「しかし、私でも手に余る難局のように思えますが……」
「ともかく、一度王城に来て、父に会っていただけませんか?」
「承知しました。私も、王国の民の一員。及ばずながら、尽力させていただきます」
「ありがとうございます、コンデッサ様」
「ご主人様、頑張るにゃ!」
♢
「国王陛下。拝顔の栄に浴し、恐悦至極に存じます」
「おお、魔女コンデッサ殿か」
「王様にゃ。王冠がキラキラテカテカしてるにゃ」
「ぬ! キラキラテカテカとな!?」
「眩しいニャ」
「眩しいとな!?」
「お父様。些細な言葉に過剰反応してはなりません。王たる者、何があろうと泰然と構えていなくては」
「そ、そうだな、ミミッカ。コンデッサ殿、王国の危機によくぞ駆けつけてくれた。心強い限りじゃ」
「私は、王国に忠誠を誓う臣民であります故。それで、陛下の相談事とは?」
「う、うむ……」
「王女殿下より、我が国が攻められていると伺いました」
「そうなのじゃ。難敵なのじゃ。余も国王としての誇りをかけて懸命に抵抗しているものの、戦局は日増しに悪くなる一方でな。挽回の目途が全く立たない状況なのじゃ」
「それほど、危うい局面なのですか……」
「このままの情勢が続くようなら、いずれ全面降伏も視野に入れねばならん」
「陛下! 不肖コンデッサ、あらん限りの力添えを惜しみません。如何なる事態が起こっているのか、お教えください」
「むむ。じゃが、王国の恥を晒すわけには」
「お父様! 今この玉座の間には、お父様とワタクシとコンデッサ様しか居りません。単刀直入にコンデッサ様へ打ち明けて、ご協力を仰ぐべきです」
「猫が居るではないか」
「アタシは、ご主人様の使い魔にゃ。アタシとご主人様は一心同体なのにゃ」
「ツバキが秘密を漏らした場合、主人である私が直ちに此奴を猫汁の刑に処します」
「猫汁は怖いにゃ」
「お父様、サッサと王冠を外してくださいませ」
「……分かった。コンデッサ殿を信用しよう。このところ、起きている間はズッと王冠を被りっぱなしだったので、正直に申せば、首と肩が凝って仕方がなかったのじゃ。…………コンデッサ殿。現在怒濤の攻勢を受けている箇所は、ココじゃ」
「こ、これは!!!」
「ニャニャニャ!!!」
後編では、コンデッサとツバキが王国の危機に敢然と(笑)立ち向かいます。




