核弾頭・アトミックフレイヤの閃光
千年伯爵・金髪巻き髪美女テンパを倒してから三日が経った。
あの死の商人が倒れた事により、この異世界ラルク大陸の勢力図は変貌するだろう。今まで各国は水面下では自国の国力を増すように魔力研究などをしていたが、商人として表立って世界に挑んでいたテンパが経済を支配し始める事で各国のパワーバランスはテンパのゴールド大陸が頭一つ分抜け出ている形になっていた。
ラルク大陸の各国はゴールドキングダムで製造された安価な衣料や食料を買い求め、その利益はテンパに流れ込み、同時にテンパの国の国力は増して各国の国力は日に日に落ちる。このままだと戦争が無くてもテンパの支配態勢が広まるだけの世界だったが、それは突如として終わりを告げた。勇者魔王オーマである俺がこの異世界を変化させるキッカケを作った事になるな。また勇者魔王の悪名が世界に轟きそうだぜ。
そんなこんなで、俺と魔女は俺が現代へ帰還する為のワープゲートを開く為の魔法を持つであろう世界に一人の存在。賢者の元へ向かう為にゴールド王国エリアからジゴクシティーがある王国エリアへの国境を目指していた。人間が少なくなる各国の中央エリアから離れると森林や岩場が多い場所になり魔力反応などが無効化される霧のジャマー。ミストジャマーがある為に迂闊に空を飛んでいるといきなり濃霧の奥からドラゴンなどが現れたりもするから無意味に空を飛行するわけにもいかない状態だ。だから今は徒歩で森林の中を歩いている。横を歩く魔女は一応黒いフードマントのフードを被り顔を隠しながら歩いてる。魔女は何かと不気味に思われていてその不老不死の秘密を暴こうと狙われる生き物だからな。
「さてさてコウハイ君。これから向かう大陸はテンゴク大陸よ。その中央都市はジゴクシティーなの」
「大陸の名前がテンゴクで、中央都市がジゴクシティー? 天国と地獄って事か? よくわらかん都市だな。二つまとめてテンジゴク大陸とテンジゴクシティーにすればいいのにな」
「それだと天国と地獄っていうのがわかりづらいでしょ? 確かに覚えづらいかもだけど、決まってる名前だから仕方ないわよ。テンパのゴールドシティーと比べなくても質素な大陸ではあるね。農業が盛んで魔術師よりも剣士などが育つ国のようだよ。だから体力勝負で来られると、普通の魔術師じゃ白兵に持ち込まれたらアウトね」
「俺は基本は射撃戦を得意とするが、歩兵程度の剣技には劣らないさ。ソコソコ実戦で訓練は積んでるからな」
「それならコウハイ君に戦闘は任せようかしら。私はあまり戦うのは好きじゃないしね。魔女は他人の戦いをお花見気分で見物するのが好きなのよ」
「必要があれば戦わざるを得ない状況にしてやるさ。俺は基本、ボスキャラ以外は相手にしたくないタイプなんだ。ザコを無双をするのは気持ちいいが、実際問題ザコを無双するのも魔力と体力を消費するからな。ボス戦前はなるたけエネルギーが全開の状態でいたいのがボス攻略の鉄則だ」
「まぁ、これからはそう簡単に勇者魔王に挑んで来る人物も減るでしょ? 過去に核弾頭アトミックフレイヤで大都市と五万の人間を殺し、今は黄金都市ゴールドキングダムの王テンパを始末した。世界経済を牛耳りつつあり、異世界で一番勢いのあったテンパを倒した印象は大きいわよ。だからもし挑んで来る人物がいるとすれば、よほどヤバい奴しかいなんじゃない?」
「……確かにその通りだな。俺を泣く子も黙る勇者魔王と知れば大半の人間やモンスターも全力で逃げ出すだろ。相手にとっては最悪の敵だかな。けども戦闘狂や殺人鬼、サイコパスみたいな連中からすれば俺という勇者魔王は最高の対戦相手になっちまうのが面倒だぜ」
これから俺がまともに戦える連中を想像すると、本当にロクでもない連中だと思うと吐き気がするぜ。
夜になった為、そろそろどこかで一休みしようと考えた俺達は洞窟内で焚き火をする為の木々を集めようと動いていた。長く艶のある黒髪をポニテにる魔女は、妖艶な唇を舌で舐めつつ空の黄色い満月を見上げていた。
「……おい魔女。あれはまんじゅうじゃないぞ? エッグ料理でもない。それを思い出したなら焚き火をする木々を集めろ。晩飯抜きにするぞ?」
「わ、わかってるわよコウハイ君! 確かに満月は食べ物に見えるけど、私はそんなに食いしん坊じゃありません! 私はおしとやかなセンパイです!」
「おしとやかなセンパイならコウハイばかりに働かせるなよ。コウハイはそんなセンパイをセンパイとは思わないんだ」
「ぐっ……相変わらずのツンデレ具合だねコウハイ君。扱いづらくて困った子だよ君は」
「扱いづらくて結構。勇者魔王が誰かに御されてたまるか。それより木々を集めろ。賢者に会う為には無駄な時間を過ごしてはられんぞ」
「次元を越えるワープゲートを開く魔法を持つ賢者は確かに存在するけどどこにいるかは不明。静かな場所を好むという情報ぐらいしかないのによく探す気になるね。異世界の広さを知らないからそんな発想が生まれるんだよ」
「広かろうと狭かろうと関係ないさ。俺は賢者を見つけて次元ワープゲートで現代に帰り、覇王として君臨する。テンパを倒すというお前の目的も達した以上、俺に協力して貰うぞ」
「ほーい」
やれやれ……と言った顔で魔女は木々を集め出す。
あらかた集まった為に、俺達はすでに見つけていた宿泊する予定の洞窟へ向かう。
「国境を超えるには通行手形が必要だとテンパが言ってだぞ。このゴールドキングダムを頂点とするゴールド大陸から出た事が無い俺は通行手形を持ってない。お前はあるのか?」
「相手の国が認めれば入国審査を受けるだけで入れるよ。まぁ、勇者魔王の悪名がどういう意味で浸透してるかによるんじゃない? 人の死を喜ぶ魔女と大量虐殺の勇者魔王。こんな最悪な二人を通行手形があるからって入れてくれるとは思わないけどね」
「フン、ラルク大陸の国々など俺に従わないなら潰してやるだけさ。勇者魔王オーマをなめるなよ」
ラルク大陸は七つの大国があり、各々の大陸の中心的な存在だ。しかし、全ての国が一枚岩ではなく内乱がたびたび起こる国もあるようだ。過去に起こった戦争の経験から互いに無駄な争いから発生する起こらなくていい戦争をしないように国境付近には魔力が注入された壁があり、関所とも言えるウォールゲートがある。他国から他国へ行くにはどこの場所であっても通行手形を関所で見せて入国審査を受けなければならないようだぜ。
俺は勇者魔王として以前、核で五万もの市民を殺して恐れられてる。そんな俺を受け入れる国があるかどうかだ。受け入れられなければ無駄な血が流れる事になるだろうな。
「最悪の場合、勝手に関所を通らず侵入して敵が来たら蹴散らして行くだけさ。一回派手に暴れておけば敵も黙るだろ。ケンカなんて初めに相手をビビらせたら勝ちだ」
(……? 何だ? 遠くの空が光った……?)
ふと、遠くの空が明るくなっていくのを見た。敵のお出ましか? と思う俺はブラックマントのフードをかぶり顔を隠す。
(こんな所に光を使って現れるのは魔法が使えるモンスター。このダルい夜の時間に攻めて来やがって……?)
俺は錯覚していた。
そう、遠くの空が明るくなっていたんだ。
決して近くじゃない。
俺は、遠くの空に十字架の爆発を見たんだ。
天を切り裂くような白い十字の大爆発を――。
「爆発……あの十字架の爆発は……核弾頭! ――核弾頭だ!」
あれは、魔女になれずに歪んだ魔王である赤魔王になった魔女の姉を殺した時に起こした時のヘブンリー都市を消滅させた時の爆発と同じ……現代の最悪の兵器を模倣して生成した異世界においても最悪の兵器となる代物……。
「だ、誰が核兵器を使いやがった? 一体、あの核兵器を誰が……」
流石に絶句するしかない。
俺が生成して、俺しか使えないはずの核弾頭が何故爆発したんだ……?
あれはすでに封印してるモノ。
誰かが掘り返しても使用なんて有り得ない。
そう、使用者の俺しか有り得ないんだ……。
「あの爆発……やっぱり、コウハイ君の現代兵器の一つ?」
「あぁ、そうだ。あれは俺の世界においても最悪の兵器。放射能こそ出ないが、都市一つを軽く消せる大量虐殺兵器。核だ」
そうだ……。
異世界に来て焦っていた俺は、強大な赤魔王の力を恐れて無我夢中で最強だと思う兵器を生成した。赤魔王以上に強い魔女と戦う上でも役に立つ物だと思ったからな。
(命を落としそうになりながら核であるアトミックフレイヤを生成したのは三つ。一つは俺がヘブンリーシティーを消滅させた時に使っている。残る二つは俺が地中深くに埋めて、取り出せないはずなのに……)
どうやら、現代に帰る為のワープゲートの知識がある賢者探しより先に片付ける問題が現れたな。
この問題を解決しねーと現代に帰るのは無理だ。
「賢者探しは後だ……あの光の発生した場所へ急行する!」
「ちょい待ち!」
「待たん! グズグズしてれば犯人を逃がす事になる!」
「犯人が本当にまだ生きてるかもわからないでしょ? ここから爆心地までは遠いわ。冷静にならないと、敵が生きててもやられるわよ」
魔女は言う事に俺は納得した。
相手は俺の生成した核を使った存在だ。
冷静さを欠いたらこっちが消される。
魔女は言う。
「現代での超兵器。核っていうアトミックフレイヤは誰でも使えるの?」
「俺が生み出した以上、勇者と魔王の相反する力が必要なはず。つまり、魔王が存在しない世の中なら俺しか今は使えない物だ。あの爆心地に俺以外の勇者と魔王がいない限りはな」
あれが実験の為の核の使用なら、次は確実にどこかの大陸の大国を脅すのに使われるのがオチだろう。俺は自分の生成した罪悪を自分の手で消滅させなくちゃならない。どうやってアレを起動させたかは知らんが、俺が解決するしかない問題だ。
「というわけで、新たなる戦いの始まりだ魔女。次の目的は、大量虐殺兵器の核弾頭アトミックフレイヤを消滅させる戦いだ」
「コウハイ君……それは私が必要? 何か怖いから一人で行ってよ。私はゆるりとお留守番してるわ♪」
「お前に安息の地などは無いぞ魔女。さて、行こうかセ・ン・パ・イ」
「……ひ、卑怯だわコウハイ君! そんな頼み方されたら行くしかないじゃない! あー、もう最悪だわー! ひゃー!」
「ひゃー! じゃない。頼んだぜ頼れるセンパイ」
……魔女を扱うのにも疲れるぜ。
でもこれで魔女は懐柔した。
そして、俺と魔女は黒いマントを翻し核弾頭・アトミックフレイヤの象徴である十字架の爆心地へと足を進めた。




