痛みの弾丸・ペインファンタジー
「何はともあれ、何とか魔女の聖水で金毛の拘束から脱出したぜ……。俺の顔にも結構かかっちまった。まぁ、今は我慢するしかねぇか。したくはないが……」
すると、魔女はぱっちりした二重の瞳を怪しく輝かせ、甘い吐息が俺の顔にかかる距離で言う。
「ホントは嬉しいんでしょ? センパイの聖水を浴びれて? この変態コウハイ君が!」
「黙れ魔女」
激怒する俺はヒャー! と逃げる魔女にハンドガンを乱射した。
コイツは本当にウザイな!
他人の聖水浴びて嬉しい奴がどこにいる?
……まぁ、思ったほど嫌ではなかったがな。
何せ魔女の聖水だし……俺は嫌じゃないさ。
とは言え、好きでもない!
そして、自慢の毛が水分により乱れてしまいもがき苦しむビッグテンパは苦し紛れに叫ぶ。
「こうなれば、こうするまでよ! 毛ー毛ー毛ぇーーー!」
ビッグテンパは自分の縮れた毛から脱出する為に自分の毛をパージした!
それは火炎地獄となるこのゴールドキングダムの都市全体に降り注ぐ雨のように散った。
シュワァァァ……と縮れた毛から水分を出し尽くし、この都市の火事は消火された。
それにより逃げ惑い、絶望のみを体感していた住人達は雨に打たれながら呆然と足を止める。勇者魔王と金色の毛の巨人との戦いを最後まで見届けようとするようだぜ。
いい覚悟だ。
(……このテンパとは今ではこうして敵として向き合っているが、コイツは俺にこの異世界での生き方を教えてくれ、住む場所や食事、そして魔法銃スペルガンまで与えてくれた恩人でもある。この異世界に転生してからまだ4ヶ月も経ってないが、まるで一年以上前のような出来事だぜ……)
ふと、対峙する全裸の金髪巻き髪美女への思いが込み上げて来た。
この異世界に来てから俺は最悪な日々を過ごして来た。初めに転生した魔女の生まれ故郷であるムーンライト村で村人達に勇者として受け入れられたが、結果的には勇者じゃなく魔王の要素がある俺は迫害され村を出るはめになった。村人をモンスターから守った力の中に闇の力があったのが問題だった……。人間になりすましたモンスターを魔眼で見つけ倒したが、魔眼とは魔王のみが持つもの。ましてや勇者と魔王の相反する二つの力を持つ存在なんて普通は考えられないからな。
そして俺は自分の覚醒していく勇者魔王の力に耐え切れず血反吐を吐きつつ現れる数多の敵を蹴散らし、不眠に苦しみながら自分自身への恐怖と魔女への恨みが募り核弾頭を生成してしまった……。今は残りの核弾頭は封印してるが、アレは作るべき物じゃなかったな。
(……そんな最中、ムーンライト村での情報を聞きつけたテンパは俺を探し出し、俺の前に現れた……)
金ずくめ。
髪も服もアクセも金、金、金ーー。
自分の国であるゴールドキングダムという都市ですら煌びやかな金だらけのまばゆい世界だった。俺はまるで日本の金閣寺がチンケに思える世界に足を踏み入れて精神がおかしくなりそうだったぜ……死の商人とは恐ろしいとな。
そんなこんなで初めて会った瞬間だけはただのエロい金髪美女かと思ったが、実は知力も武力も変え備えた文武両道の女だった。テンパが俺を無理矢理この異世界へ転生させ憎き魔女への復讐も手伝ってくれると言ってくれた時は本当に嬉しかった……やっと知らない世界で仲間が出来たと思ったからな。テンパは不眠でもがき苦しむ俺を自分の肌で温めてくれる時もあった。不安、苦しみ、痛みに苛まれる俺に安らぐ場所を与えてくれて……本当に嬉しかった。
(あの時の俺は……お前に恋をしていたんだぜテンパ……)
そして俺はゴールドキングダムという世界に馴染み、異世界での生活を知った。その最中、テンパのゴールドキングダムを脅かす魔女のなり損ないの赤魔王との戦いに赴く事になった。赤魔王である魔女の姉を大都市ヘブンリーシティーで戦い、現代でも禁忌の兵器・核弾頭を使って都市の人々五万人を死なせてしまう事件を起こした。それからこの異世界には勇者魔王オーマの存在は一気に広まり、勇者なのか魔王なのかわからぬ不気味な大量殺戮者として人々の心に刻まれ今に至るーー。
「……そして魔女との一応の決着をつけて、テンパの怪しげな動きを察知しテンパと戦っている。お前は俺に喜びと痛みを与えてくれたな」
「酸も甘いもなくちゃ人生じゃないでしょう?痛みは人を新たなるステージに引き上げる大事なスパイスよん♪」
「そうだな……。痛みは人を新たなるステージに引き上げる大事なスパイス。俺はその痛みで、次のステージへ行くとしよう」
「あらオーマちゃん?次のステージへ行くのはこの私テンパ。この異世界の全てを現代兵器を量産して魔法と兵器を持って支配し、七つの大国に分かれるラルク大陸の全てを我が物にするのよ……今までアナタを利用しつつ成長させて来た。けどもう用済み。今の強さの勇者魔王オーマの魂のみを回収して戦略兵器データベースとしてこれから利用してあげるからね。永遠にアナタは私の右腕として、ただの傀儡として働いてもらうわよ。意志のない傀儡としてねぇ……」
……全くこの女の欲は素晴らしいぜ。
この女は、始末しないとならん。
その細胞の全てを消し炭にする必要がある。
そして、俺の勝利する瞬間の犠牲・目撃者となってもらう!
経済都市・ゴールドキンダムは焼け跡となり、焦げ臭い大地に立つ俺は巨大な金髪の死の商人に向けて言い放つ。
「毛をパージした事が仇にあったなテンパ。これで、じっくりと殺し合いが出来るぜ」
「それでもこの巨人である私に勝てるのかしらぁ? かしらかしら――」
「ご存知かしらぁ? だろ?」
その俺の言葉にビッグテンパは激怒する。
そして魔女は自作の看板を持ちカメラ目線のように言う。
「ストップ! キメ台詞泥棒」
「黙――」
「黙れ魔女。コウハイ君のキメ台詞頂きました」
「――黙れ魔女ぉ!」
「勇者魔王に魔女!このテンパ様の前でイチャイチャとふざけてるんじゃないわよおおおおおおおーーーーっ!」
『!?』
耳をつんざくビッグテンパの叫び声が周囲に炸裂し、このゴールドキンダム全体に地震が起こる! へっ……とそれを笑う俺は胸のホルスターから真紅の魔法銃スペルガンを取り出した。そして、このスペルガンに今まで受けた俺の痛みを全て還元する――。
「ここに来てスペルガン? もう一度ブレイブリュシフェルを撃てばアナタも死ぬわよ! それでも撃てる覚悟があるのかしらぁ!?」
アハハッ!と巨大な大槌のようなビッグテンパの死の右拳が高速で俺に迫るーー。
「この弾丸は今まで受けた痛みを全て返すペインファンタジー。痛みを……返すぜ……」
シュパアァ!と俺がこの戦いで受けた痛みの全てが真紅のスペルガンに注ぎ込まれる――。
ギュル! と空のスペルガンの弾丸薬室にオレンジの痛みの弾丸が具現化した。その弾丸にはPAINという文字が浮かび、真紅のスペルガンをオレンジの輝きで満たした。
(これを使えば神経細胞がイカれ、今日はもう多少の痛みでも死に直結するような激痛しかしない。だがそんな細かい事は言ってられねぇぜ……この金毛巨人ビッグテンパを倒す最大のチャンス。これを逃したら勇者魔王の名が廃るぜ!)
その真紅の魔法銃の銃口をビッグテンパの額の赤い魔力秘宝・宝玉に定め――。
「消え去れビッグテンパ! これが俺の痛みの全て! ペインファンタジーーーッ!」
スブォォオッ! とオレンジの痛みのエネルギーがビッグテンパに放たれ、その痛みの全てはビッグテンパへ注がれる! ペインファンタジーの射撃による衝撃で上半身のブラックマントもインナーも消滅し、手に持つスペルガン以外の装備の全ても消えた。無数の傷が痛々しい上半身裸の俺は、全身の気怠さに耐えつつビッグテンパを見た。俺の痛みに耐え切れぬように真紅の魔法銃スペルガンが消滅し、まばゆいオレンジの閃光が煌き――ビッグテンパは崩壊した――。
※
これでビッグテンパの巨大化を崩壊させた。
目の前にいるのは、一糸纏わぬ人間サイズの金髪美女テンパだ。
ったく……外見だけはいいから見とれちまうな。
魔女と一緒だ。
「俺の痛みの全てをテンパ、お前の心臓である宝玉に叩き込んだ。これでお前はもう、宝玉の力をまともに使うのは一時的に不可能だ。このチャンスでお前を散らすぞテンパ!」
「宝玉に影響がある? 私を散らす……? 有り得ない……ハハハッ……有り得ない……」
ギロリ……と殺気剥き出しのまだ自分が負ける事を認める事の無い悪女は錯乱したかのように大きく口を開けた。ダラ……と自分の心の奥にある欲を垂れ流すようにヨダレをたらし、金貨のような光るツバを吐き散らすように狂気の欲望に染まりつくしている金髪美女は叫ぶ!
「私が散る……? パッパッパッ! そんなわけないでしょーーーがぁーーー!」
瞬間――何故かテンパの魔力が回復するように上昇する……。
同時に、俺の魔力が減っていくような不快感を感じた。
金色の波動のプレッシャーが俺と魔女の身体を締め付けるように襲い掛かる。
そして魔力が何故か上昇するテンパは、黄金の毛で豊かな胸と陰部を覆った。
「宝玉の魔力がこの周辺の死に絶えた魔術師達の魔力を吸収し出した!? コイツはマズイぞ! 離れるぞ魔女!」
「わかった――ってコウハイ君!?」
「あ、足が動かない――」
ペインファンタジーを使った痛みを失う反動で動けない俺は金毛触手攻撃を回避出来ない!
すると、魔女が俺に抱きついた!
「魔女!? テンパの今の攻撃なら死ぬ可能性があるだぞ!? 何故なら魔女は――」
「運命がテンパと共にあるからでしょ? それでも私はオーマを守る! センパイだからね!」
「なら死ねぇーーーーゴミ共―――っ!」
攻撃を避けない魔女は腹に風穴を空けられ、口から大量の血を吐いた。
「回避はしないのぉ? 魔女がそんなガキに惚れてしまうとは以外ねぇ! パッパッパッーーーー!」
「……攻撃は受け続けるよ。私は麻酔も無しで腕を切られる肉体的・精神的痛みをオーマに与えた。そして無理矢理この異世界に転生させて魔王と勇者の力を与えて全ての世界の特異点にしてテンパを殺してもらおうとした事。これは魔女である私の罪だから……だからオーマの痛みは私が受けるの……」
俺が受けるはずの痛みを受け、本来のコイツなら話すはずの無い本音を話す魔女に唖然としつつも、俺は俺の言葉を言った。
「罪を認めても罪悪感は無い。それが魔女だ」
「当然。貴方は魔女に利用される為にこの異世界に転生したんだからね」
「そう。それでいい。俺は魔女を殺す。必ずな」
「必ず殺してみなさいなオーマ」
「必ず殺してやるぞ魔女。それと、俺はコウハイ君……だろ?」
「ハハッ……そうだねコウハイ君……」
全身を金毛触手で八つ裂きにされ、死に近い状態の魔女は薄く微笑む。
全てを吹っ切るように動く俺は、金毛触手をショートソードで切り裂き魔女を助ける。
そして泥池になっていない地面に寝かせ、頬にキスをした。
それを見つめる金髪の悪魔は前髪をかき上げ、
「魔女に誓いのキス? 呪われるわよ?」
「呪われて結構だ。俺はこの女とならどこまででも行けるからな」
「……どうやら息は合っているようね。もう男と女の関係なのかしら? 嫉妬しちゃうわよオーマちゃん……」
「黙れテンパ」
すかさずハンドガンを撃った。
それはテンパの額に直撃し、弾丸は回転したままやがて皮膚を突き破れずに落下した。
それにより、死の商人としての才覚が一つの答えをテンパに与えた。
「生産していた鉄砲の飛距離と威力が上がらない理由が今、わかったわ」
「ほう? 聞かせてもらおうか。よく切れる刀の仕組みしか教えてないのに、俺に黙って銃まで製造しやがって」
「だって私は死の商人。欲しい武器は生産するのが当たり前よぉ? それにこの弾丸は銃身内部をドリル状にして弾丸を発射する時に強制的に回転させて、飛距離と威力を高めてるのね。オーマちゃんの世界は魔法も無いのに発展してるようだね。……いや、魔法が無いからこその発展か」
「ご名答。それをお前は生産する事無く死ぬ。今、ここでな」
「それは、死者の魂に耐えてから言いなさいオーマちゃん……」
ズウゥゥ……と突如、右腕が変形するテンパは自分の腕を歪んだ性格そのものの大砲にする。その不快な大砲の先は俺に向き生きてるように微笑んでいた。
「死者の魂を撃ち出す大砲。デスソウルパニッシャーよん♪」
(コイツ……俺のマジックウェポンのスキルを使えるのか? あの能力は現代を知る俺だけの力のはずだったんだがな……マジックウェポンのバーゲンセールじゃねーんだぞ? 困ったテンパ野郎だぜ)
その言葉を無視するように顔色を変えない俺はハンドガンを構えたまま言う。
「これから死者になるお前が死者の魂を扱うなよテンパ」




